2012/01/04

池田省三著「介護保険論」を読む


~メルマガ「セルフケア」より


◆池田省三著「介護保険論」を読む

年始早々から堅苦しいメルマガとなり恐縮です。

介護保険制度の改正議論においてひときわ勢いのある発言をしている学識者がいます。

龍谷大学の池田省三氏です。

氏の発言に対する現場の反発心は強く、至るところで異論、反論がなされています。

しかし、あらためて今回、ほぼ固まった制度改正の骨格をみると、池田氏の主張がほぼそっくり制度改正に反映されていることが分かります。

厚労省が氏の発言を非常に重宝していることが見てとれます。

もっとも、厚労省の考えが氏の考えとまったく同じだとも思っていません。その点、厚労省はそのときどきに自らに都合のよい学識者の知恵を拝借し、制度の継ぎ接ぎをしているかのうように思えます。

例えば、介護保険制度開始時、あれだけ厚労省に重用された竹内教授や白澤教授などは、今はまったく厚労省関連の会議でお見受けすることはありません。

素人目には、かの先生方も厚労省の都合のいいようにだけ利用されたように映らなくもありません。その意味では、今の池田氏も同様に数年後には一切、その名を見ないようになっていることも考えられます。

話が脱線してしまいました。それはともかく、今回の制度改正では、池田氏の意見が多分に採用されていることは事実です。

その主張は著書「介護保険論」に詳しく書かれています。

この書を昨年から何度も何度も読み返しています。


氏の発言の多くは「制度」そのものに対するもので、現場に対する発言は制度に関するもの程は多くはありません。

これは氏が学識者であるがゆえに当然のことでしょう。そして、その制度のことに関しては私はプロではありませんから、読んでも実際のところ「いいのか悪いのか判断できない」という立場でいます。

しかし、介護の現場のこととなると、そうではありません。自信を持って池田氏の意見を吟味できます。現場目線で氏の「介護保険論」を読むと、非常に現場というものが無理解のまま制度改正の議論が進められていることがわかります。


現場で当たり前と思っていることが介護素人の、イチ学識者にとっては、まったく分からないことなのだ、ということを実感します。


氏は学識者らしく時折、データなども示し、根拠に基づく論調を進めようとするのですが、それはあくまで「制度」に関する部分に限ります。現場に関して採用されているデータは極めて狭い範囲の、偏った情報を元にしたものです。介護の実際に関する意見になった途端、根拠らしいものはほとんど示さず非常に憶測の強い文章を書いていることが見てとれます。

そして、その憶測とホントの介護の距離があまりにかけ離れすぎて、現場の介護職なら反射的に反発を感じ、「現場のことがまったくわかっていない机上論だ」と感じる論調だと思います。


しかし、そこで「では、氏の論調のどこが何故に間違っているのか」と問われると、実は案外、その説明を客観的に語ることは難しいと私自身は感じました。

そして、その難しさの原因を考えていました。思い当たったのは「好きな食べ物の根拠」を他人に説明することの限界と似ている問題があるということでした。

例えば、私は日常、食べているものの中で焼きそばが好きです。しかし、「なぜ、焼きそばが好きなのか」と問われると客観的に説明できる言葉を持っていません。「あの焼きそばの食感や味が好きだから」としか答えようがないからです。

私達がリアルに生きている現実は不解明なことが多く、同様の「根拠がきちんと説明できない現象」が多々あります。しかし、学識者はその研究職という職能上ゆえか、「情報収集」し、「分析・アセスメント」し、「課題」を設定しようとします。

しかし、そのような科学的アプローチでも、「私がなぜ、焼きそばが好きなのか」さえ、学問は科学的、客観的に説明できません。

そこに私たち、一般市民は容易に学問的手法の限界を悟わけですが、学識者はその立ち位置に降りてこられません。

ゆえに、いつまでも現実とかけ離れた騎乗論のような空論を振りかざすことになるのかもしれません。

それは、別の表現をすれば「自転車の乗り方」や「泳ぎ方」を科学的に分析し、究明しようとしているともいえるかもしれません。


そういったものも、コストを無視してスーパーコンピューターなどを使えば、科学的で合理的かつシンプルな方法論は出てくるかもしれません。

しかし、そんなことをするよりは、実際に何度もチャレンジして体で覚える方が「総合的に見て合理的」であることに一度でも実際に体験したことがある人であれば気づきます。


ここで私の脳裏に浮かぶのはNHK「なるほどなっとく介護」でもお馴染みの三好春樹氏です。氏は社会人類学者、思想家レビィ・ストロースの発言を引用し、介護を語りました。

レビィ・ストロースがどのようなことを言ったのかといいますと、西洋文明からみれば未開民族たちの文化や風習は非合理的で非文化的なことのように見えるかもしれないが、実際に現地で同様の生活をしてみると、そこには非常に周到に考えられた論理やバックグラウンド(背景)がある、ということでした。私はこの三好氏のレヴィストロース発見は偉大な功績だと思います。しかし、それだけで池田氏を説得できるものでもありません。


介護を実際にやったことがないマスメディアの方や一般市民にしてみれば、池田氏の論調の方が説得力を持つ現実があります。以前、私も信頼できるかなと見ていたマスメディアの方が池田氏の論調に非常にうなずいているのを見て、非常に危機感を感じました。同時に、現場のことをもっと一般市民に分かるように説明できないものかと考えるに至りました。

今後、折を見て氏の「介護保険論」を現場目線で論じていこうと思います。

※年末のケアマネ照会企画へのメール、沢山、ありがとうございました。回答はまもなく発送しますので、今しばらくお待ちください。(本間)

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