家族の力

「ご主人は名工」
 介護保険では手すりの設置などの住宅改修が給付対象になっています。そのもっとも多い改修箇所はなんと言っても浴室です。
  日本人は温泉を始め、お風呂が大好きですから、それにもうなづけます。
Sさん御夫婦も、今回、住宅改修で浴室に手すりなどを設置されました。手すり以外にも、浴槽からの立ち上がりなども大変だ、ということで浴槽内に「台」も購入されました。
これで入浴も楽になっただろうと思っておりましたら、ある日、Sさんが「それでも浴槽からの立ち上がりが、お尻が重いから大変だって言ったら、主人がヒモを着けてくれたんです」とおっしゃいます。浴室の住宅改修に手すり設置などの経験は何度もしてきました私ですが、「ヒモ」を使うなんて聞いたこともありません。
  どんなものか見せていただくと、見事にヒモ(というよりロープ)が浴室の手すりに結わいつけられていました。(図を参照)

 立ち上がる時に、運動会の綱引きよろしく、そのロープにつかまり下半身を持ち上げるのだそうです。
 このおかげで、これまで以上に浴槽からの立ち上がりもスムーズに行えるようになり、入浴が安全にできるようになったとのこと。
もちろん、結び目など安全確認は怠ることはできませんが、まさしくご主人は住宅改修の「名工」と感銘を受けたお話でした。


「奥さんは名医」
 ご主人は普段はほがらかな お人柄なのですが、年に数回、ひどく落ち込まれる時があります。専門的な診断をお受けになってらっしゃらないので正確なところは分かりませんが、躁鬱(そううつ)の傾向があるようにお見受けします。昨日までニコヤカだったのが急にすべてに対し否定的になり「死にたい」とか「救急車を呼べ」などとおっしゃられるそうです。
 さぞかし奥さんもお辛いだろうと思って聞いてみると、さすがは長年連れ添われた伴侶と感銘を受けたことがありました。「そんなふうに、ひどく精神的にご主人が落ち込まれた時には、どんなふうに対応されているんですか?」と問う私にこう返されました。
 「そういう時にはね、昔、好きだった映画を沢山、見せるの。「シェーンとかマリリンモンローとか二十四の瞳とか。それで、おいしいものも一杯食べさせるの、うなぎとかおさしみとか。 そうやって、いい気持ちにさせてあげてこう言うの。『死んだら、こんないい事できないのよ!』って。 生きてる方が、いいことがあるんだって本人が思うようにするの。そうやって何日か続けてると、いつの間にか、元に戻ってる」。
 これを聞いたとき、私は、この奥さんがご主人にとって、どんな医者よりも名医だと感じました。うつ状態の時には「はげましてはいけない」等、モノの本には、沢山、それらしきことが書いてあります。ですが、そのような一般論を軽く乗り越える「市井の力」を垣間見たような気がしました。
 そして、当のご主人は、今日もニコヤカにデイサービスへ行かれます。奥さんの手の平の上で遊んでいるかのように。

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