介護の社会化のコツ

介護保険が始まって10年近く経過しました。当初、介護保険制度の理念として「介護の社会化」という言葉が、業界内ではにぎわっていたものです。これは、それまでの「介護」が家族などの一部の限られた人によってのみ、担われてきた背景があります。
 
しかし、地域社会や家族関係がどんどん壊れていく中で、家族全体の介護力も低下してゆき、その結果、家で介護をできなくなった家が増えてきました。介護地獄などという悲しい言葉も出てきたことは記憶に新しいと思います。
 そこで、登場してきたのが介護保険制度です。家や家族の中で、大変な介護を抱え込むのではなく、もっと社会全体として介護を取り組もうというものでした。そこに「介護の社会化」という言葉が生まれる基がありました。

 ところが、いざ介護保険が始まっても、時折、介護に関する事件、事故などがマスコミをにぎわせます。いえ、むしろ、もしかしたら介護保険制度が始まる前とさほど、報道の数は変わらないのではないかと感じることもあります。その理由はいくつか考えられますが、一つには利用者の方々が「介護の社会化」をよく理解されていない、ということがあります。頭では、「介護を世間で助けてくれるんだ」というような漠然としたイメージはあっても、具体的な想像ができておられないことがあるように思います。


 そこで、「介護の社会化とは何か」、ということですが、簡単にいうならば「介護に関する私生活を介護スタッフなどにありのままに見てもらう」ということに行き着くのではないかと考えています。


 というのも、介護保険サービスを提供する我々、介護従事者というのは、ただ闇雲に希望される方にサービスを提供することができません。例え、要介護者やご家族さまが「○○サービスを使いたい」と希望されても「はい、分かりました」と即答できないのです。

なぜなら、我々が提供するサービスは公的な税金、保険料で行われる社会保険サービスのため、利用するためには「なぜ、必要なのか」という理由が必要となってくるのです。(逆に言えば、理由が明かであれば、まったく利用を制限する必要もないのです)
 一方で、「介護」とは実にさまざまな要素を含んでいます。まず、要介護者である御本人が住んでいる家、そして、その方が寝ている布団、排せつするトイレ、オムツ、食事、衣類、お風呂、家族の状況…など数え上げたらキリがありません。そして、これらは、ご本人の「生活そのもの」です。
つまり、「介護」を「社会化」するとは、「生活」を「オープンにしていく」という意味になります。

 しかし、そのような生活に深く関係する部分はプライバシーに関する部分でもあります。できれば、他人に見られると恥ずかしい部分です。ある種の開き直りがなければ、なかなか言い出しずらい内容であると思います。


 そして、実は、そこにこそ介護保険サービスなどをうまく使えるか、使えないかの大きな分かれ道があります。我々、介護サービスがサービスを提供しやすい利用者さんか、提供しずらい利用者さんの分かれ道があります。


 なぜなら、先ほどにも書きましたように、介護保険サービスというのは、要介護者やご家族が「どのような状況に対し、どのように困っているか」という明確な理由があればあるほど、その方にとって最適な介護サービスを提供できるからです。介護サービスをうまくご利用されるご家族ほど、その大変さを、開き直りの境地であけっぴろげに情報提供してくださります。


 反面、時折、マスコミに載る在宅介護関連の悲しいニュースなどは、その多くが、使える介護サービスも十分に使っていなかったり、きちんと相談機関に相談していない場合が多いことが見て取れます。介護の大変さを、一人だけで抱え込み、その結果、悲しい結末に至っていることが多いようです。「介護の社会化」という言葉は簡単できれいですが、実際に行うには、なかなか難しい一線があることが分かります。


 しかし、以前にも書きましたように、そのようなプライバシーに深く関わる業務であればこそ、我々は個人情報保護法をわきまえて仕事をしています。生命などに関する危機的な場合以外は、関係者以外には一切、もらすことはありません。

 「介護の社会化」のコツは、介護や生活にまつわる大変さを、開き直ってオープンにすること。もしも、介護の負担が大きく、かつ、その解決方法が見つからない場合には、この言葉を思い出してください。