息子さんの介護

小林トメさん(仮名)は96歳。認知症が進み、最近は会話もなかなか通じません。
その息子さんから、介護支援(ケアマネジメント)の相談があったのは、3年前のことでした。

 当時、息子さんは介護保険なんてまったくご存知ない状態。「お、オレ、介護保険のことなんて何も分からないんです! でも、突然、母親が訳の分からないことを言い出すようになってきて・・・オレ、どうしていいか分からなくって・・・とにかく、ひと時も目が離せなくって困ってるんです! 助けてほしいんです! ヘルパーをお願いしたいんです!」
 そのように強い剣幕で息子さんは急な介護の大変さを訴えられました。

 トメさんと息子さんは二人のみの生活。近くに頼りになるご親戚などもいらっしゃいません。突然、認知症状が激しくなられたお母様を前に、かなり混乱し、興奮されているようでした。そして、しきりとお母様から片時も目が離せず、気が休まらないこと、このままでは自分自身の気が変になりそうなことを強くおっしゃられます。

 しかし、息子さんの希望されていたのは「ヘルパー」つまり訪問介護です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、訪問介護は例え認知症があろうが、単なる見守りなどの目的で利用できません。安否確認などのわずかな時間のサービスにも利用できません。
 しかし、当時、息子さんは介護サービスといえば訪問介護しか知らず、他にどんな介護サービスがあるかをご存知でありませんでした。

 「訪問介護では、単なる見守りなどの利用はできませんし、家事能力のあるご家族が同居であれば、家事の支援もできないのが基本です。家での入浴援助などは利用できますが、せいぜい、1時間くらいで済んでしまうサービスです。そのような短時間のサービスでは、息子さんの気が休まらないのではありませんか。 今は、少しでも息子さんご自身の介護の負担を軽くするために、長時間、お母様を見てもらうサービスがいいのではありませんか?」

 そのように通所介護(デイサービス)の説明をし、訪問介護よりもデイサービスを利用する方が得策であることを何度もお話ししました。
 当時、息子さんも、かなりパニック状態に陥っておられ、なかなかご理解が得ら
れなかったのですが、やがて、それを納得されデイサービスの利用が開始。その後、ショートステイも定期的に利用されるようになりました。

 正直、申し上げて、この時の息子さんの動揺ぶりがはげしかったため、この先の長い在宅介護がどうなるか心配でした。
 しかし、それがどうでしょう。介護が半年、1年と続くにつれ、どんどん息子さんの精神的な落ち着きが戻ってこられました。

 「以前は、トイレの世話もイヤだな~って思ってたんですけど、最近は、なんともないですよ。オレ、今、無職ですし、これまでさんざん、オフクロに迷惑掛けてきましたからね、これ(介護)が仕事だと思ってやってんですよ」とこともなげにおっしゃられます。デイサービスのスタッフさんにもいろいろ相談したり、自分の思いを連絡ノートなどに率直に書かれ、ご自分なりの介護ペースが出来てこられたようです。

 その姿はとても堂々とされ、プロの介護士顔負けです。プロの目から見ても決して楽ではない、重い認知症のお母様の介護をマイペースで続けておられます。
 「僕自身は、両親を郷里に残して上京してきましたんでね、とても息子さんのことを尊敬しています」と本間の正直な気持ちをお話したところ
 「本間さん、アンタ、ダメだよ~。自分の親の面倒も見ないで~」と、説教をしていただいた本間でした。

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