トメさんと「喪失」


 時に、人は立ち直れない程の喪失体験をする。
 その原因は災害であったり、事故であったり、病気であったり、様々。

 それほどの大きな喪失を私たちは簡単に受け入れられない。
 なんとか元通りに回復しようとする。
 なんとか喪失を補てんしようとする。
 それでも失ったもので元に戻らないものもある。

 そんな喪失体験の中で、最大の危機は、愛する人を失うことだという。
 自分にとってかけがえのない人を失うことで世界が終わったような感覚になり、自らも死んでしまいたくなる。抑うつがわが身を襲ってくる。
 生きているのが辛くなる。

 「喪失」した自分を受け入れられない。
 そんな弱さを持っている存在こそがヒトなのかもしれない。

 一方、「専門家」を名乗る自分の言動といったら、どうだ。

 「障害という喪失を受容することが大事」なんて、したり顔で言っている自分がいる。

 「できない部分や問題にばかり目を向けるのではなく、できる事や、できていること、ポジティブな部分に目を向けてICFの思考を採り入れるのが大事」なんて言っている自分がいる。

 自分だって簡単にできもしないことを、したり顔で言っている自分に対して、もう一人の自分が突っ込みを入れている。

「良く言うよ」と。

 それなのに、トメさんの笑顔といったら、どうだ。

 体は自由に動かないし、言葉もちゃんと話せない。
 頭の方も大分、怪しく、自分の子供すら忘れかけている。
  喪失だらけの存在だ。

 自分が何を持っていて、何を喪失したのかさえ、忘れてしまったかのよう。

 にも関わらず、今日も何事もなかったかのように、満面の笑みで、ただのおかゆを「おいしい、おいしい」とほおぼっている。
 今、ここで起きている現象にしか意識が行っていない。

 援助しているのは援助職である自分なのか、それともトメさんが援助職である私を援助しているのか…という錯覚にさえ襲われる。

 今さっき、食べたばかりなのに、次の瞬間には忘れてしまい、「ワシのご飯はまだかい」と質問攻めになるのが、たまに傷だけど…