2019/03/04

コラム・AI(人工知能)はトメばあさんの徘徊や被害妄想をふまえたケアプランを作れるか


ケアマネ減少問題をAIは解決できるか

ケアマネジャーの受験者数が激減したことは以前に述べました。ヘルパー経験による受験ができなくなったため、多少の減少は厚生労働省も予想していたでしょうが、ここまで大きく減るとは思っていなかったはずです。

これでAI(人工知能)によるケアプラン作成などが実用的なものができれば、まだ気休めにもなりますが、現実はそこまでとても追いついていません。ですから、厚生労働省の担当官は半ば焦っていると踏んでいます。

さて、今、述べたようにケアプランのAIによる作成に関する調査が数年前から進められています。これまでも個人的には、ざっと内容を確認していましたが、今回は本メルマガで取り上げようと思います。

自立や尊厳の概念をAIはどう処理するか

まず、介護事業者セントケアや株式会社シーディーアイなどが共同で行った調査報告からみていきます。


AIによるプラン作成の課題として以下のことが挙げています

(1) 自立および自立支援の定義の確立
(2) 人工知能の思考過程(ブラックボックス)の解明
(3) 人工知能におけるアウトプットデータ(成果物)の明確化
(4) 人工知能におけるインプットデータの明確化
(5) その他:人工知能の作成したケアプランの検証

(1)の自立の定義が確立されていない、という課題は、失笑レベルの課題といえます。サッカーの試合をするのに、ゴールの設定をしていないようなものともいえるでしょう。

自立支援については「要介護状態によって、自立支援の思考が変わる。」と難解さを認め、「要支援12についてはある程度高齢者の状態像がパターン化でき、要介護度が改善する可能性が高いことが」わかるが、「要介護15、特に要介護35については疾患の種類や疾患の進行状況により、(略)状態像が複雑化すると推測され、要介護度の改善というよりは、むしろ在宅生活および残存機能の維持を目的とした支援が必要であることが示唆された。」と、自立概念のゆらぎを認めています。

別の調査でも、倫理学の学識者が「2000年にスタートした介護保険制度の中で理念として謳われている「尊厳」「自立」といった考えについて議論が深まっているとはいえない。」とそこを問題視しています。

また、人工知能は学習能力が優れていることをDeep Learning ディープラーニングというようですが、それについても以下のような限界を述べています。

人工知能は(略)、人間が(略)無意識に行っている「空気を読む」といった(略)ことが難しい。つまり、(略)相手の言葉の裏を読むことや相手の性格を考えた発言といったコミュニケーションスキルは学習が困難である。そのほか、(略)主観的な情報の処理は難しいといったことが挙げられる。

◆表情やしぐさをAIはどうとらえるか

以上からは、ケアマネとして最低限必要な要素が足りていないことが読みとれます。また、次のようなことも、個別性の強い項目であるため、AIはできず、人間のケアマネが行うべきとしています。

・介護予防サービス・支援計画表の一日の目標、一年後の目標、本人・家族の意欲・意向、具体策

そして、上記のプロセスでは、ケアマネジャーは、単に聞き取るということではなく、本人・家族の言葉から、それがどういうことを意味しているかということや、本人・家族が「なぜ」「どうして」そのような言葉を発するのかということを本人・家族に深堀りしていくスキル(接遇・洞察能力)や、本人・家族が前向きに目標に向かって生活できるよう働きかけるスキル(エンパワメント)を必要とします。

そこでは、言葉だけでなく、表情やしぐさを観察する高度な技術が要求され、これがケアマネジャーの情報収集能力であり、専門性であると考えています。

ここでも、AIは本当に重要な部分はまったくできないことが分ります。そして、AIの不得意なことしてて、以下の点を述べています。

介護分野にはコミュニケーションが不可欠である。特に重要なのは、言葉の裏にある真意を読み取る力(洞察力)や高齢者・その家族が前向きに在宅生活を送れるような働きかけ(エンパワメント)である。これらは両者の信頼関係にも直結するため、この技術を駆使したコミュニケーションは重要であるが、人工知能の不得意とするところである。

◆すぐれたケアプランと利用者満足度は一致するか

さらには注意喚起しておきたい点として「利用者の満足」を挙げ、「特に介護の分野は、本人だけでなく家族の満足についても配慮する必要があり、そしてAIやロボットの導入が、この利用者満足度にどのように影響を与えるかは、予断を許さない。

(略)こういった視点も加味したうえで、AIによるケアマネジメントの開発が望まれる」、としています。

◆ケアプランの標準化と個別化という矛盾する命題をどこで着陸させるか

また、別の調査では、次のような報告がなされています。

(1) 人工知能AIが学習するデータの質における課題

「ケアプランは、もともとオーダーメイドで作成されるものあり、個々の利用者に応じたケアプランが作成されることに価値があると考えられている。」そのため内容を言葉で表現する方法は多様である。(略)「ケアプラン作成の根底に流れる「ひとりひとりオーダーメイドのもの」という意識とどのように折り合いをつけるかは、検討すべき課題であろう。」として、ケアプランが画一化・標準化を目指す思想とは正反対のことを問題視しています。

特に、マイクロソフトのAIは、人間と対話すればするほど賢くなるロボットとして2016年にサービスが開始されたが、「ナチスを称賛する会話を学習してしまい、一時、サービスが中止された」という問題は倫理とAIの問題の根深さを想起させます。

そして、仮に「維持・改善」を評価するとしても、本人の意欲をどう評価していくのかも大きな課題としています。

なぜなら、「「利用者本人がどうしたいのか?」という気持ちが自立につながる」のであって、「よいケアプランが作成できても、本人に、それに取り組む意欲がなければ効果を上げることは難しい。利用者本人のモチベーションなど心理的な要素も、高齢者の心身の改善には大きく影響するが、リハビリできる能力がある=歩けたはず、となると行き過ぎたケアにもつながることもあ」るからです。

◆結論

以上、ざっと、これまでの調査報告を確認しただけでも、まったく実用できてないことが分ります。

これが、介護ケアプランではなく、介護予防ケアプランにまず、取りかかるというのであれば、まだわかる気もしますが、これら調査では介護ケアプランをメインの目標においているように伺えます。

果たして、それら実践的なAIを何年もかけて作る費用と現状の人間のケアマネジャーが対応するコスト面でのバランスも見逃せない問題です。

その点で、正直なところ、あと10年程度では、とても間に合わない。仮に間に合ったとすれば、それはSF映画に出てくるような高度な人型アンドロイドのようなものであるような気がします。

ケアプランをAIで行おうとする試みは、ケアマネジメントやケアプラン作成の複雑さや難解さを実証することになり、結果的に、現在のケアマネジャーの業務を再評価することになるきっかけにさえ、なりうるのではないかとも思います。

つまり、人間のケアマネジャーはどう考えたって、今後も相当数が必要不可欠なのです。にも関わらず、今年度、ケアマネ受験者は激減しました。私は現場からの制度崩壊を危惧しています。

※余談ですが、SF映画「ブレードランナー」の原作小説は「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」というものです。原作小説は読んでませんが、タイトルからは、こんなことを夢想します。「高度な人造人間ができたとして、その人造人間は、生身の人間のように『夢』を睡眠時に見るのだろうか?」と。

つまり、「脳」や「意識」といったものが、人造人間においては、どのように作用するのかという空想が、このSFには関係しているような幻想をいだきます。

そこで、今回のタイトルは、そのパロディとして考えてみました(笑)

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