2019/08/28

ケアマネジメントの質向上や専門性はどこにあるか


先日、下記をSNS発信したところ、非常に多くの反響を得ました。
ケアマネ「質の向上」詐欺~介護保険始まって以降20年。「質の向上」って理由で研修ばっかやっとるけど、一体全体、何がどう向上したのか? 答えられるわけないわな、「ケアマネ」の質の評価基準そのものがないんやから…ゴールポストのないサッカーを無限に強いられているようなもん…
そこで、もう少し上記を掘り下げます。

◆現行のケアマネジメント評価指標


現状のケアマネジメントの質の評価がどう行われているかですが、それは人員(ストラクチャー)、手順(プロセス)で行われています。

ご存知のとおりケアマネジメントプロセスを守らなければ全額報酬がなくなる厳罰制度はプロセスの重要性を意味し、また、特定事業所加算は主任ケアマネの配置など人員要件、体制要件が主な加算条件になっています。

一方で、ケアマネジメントの結果や成果(アウトカム)に対しては、現行は評価がなされていません。介護サービスはADL維持向上加算などのように一部、アウトカム評価が採用されましたが。

◆評価指標の由来


これら
  • 人員(ストラクチャー)、
  • 手順(プロセス)、
  • 結果や成果(アウトカム)

という評価基準は医療領域のものを転用しているものです。

厚生労働省官僚の価値観は「医療」の劣化したものが「介護やケアマネジメント」という価値観が通底していると思われ、こうした医療スタイルの転用は介護福祉領域で珍しくないことです。(未だにホームヘルパーを看護師の劣化版としてみなす層の存在などが、その例)

しかし、実際には介護福祉は医療とかなり異なる部分があるからこそ別の制度になった経緯がある。その異なる部分(仮に「X」とする)こそ、介護福祉の特徴であり、オリジナルな部分です。

ですから、介護福祉をきちんと評価しようとすれば、そのXを解明し、きちんと、そこを評価しなければならない。が、しかし、現状では、それは未だなされていません。

◆「介護」の評価指標


ちなみに、介護福祉の評価方法は、某大学教授の筒井孝子氏らを中心に長年、研究されています。その流れは介護認定システムの構築に始まり、その後、介護プロフェショナルキャリア段位制度に至りますが、その背後には、この筒井孝子氏らがいます。

その評価方法の研究に関する発想方法は、やはり、医療的価値観や考え方の転用的なものが多い。そして、厚労省は筒井教授等を比較的、重用しており、その研究結果が国の政策に採用されることが多くなっています。

筒井教授の発想方法の特徴は「介護」を細分化し、コード化することです。例えば「Aさんの入浴介助」というものがあったとして、入浴介助を「声掛け」「誘導」「衣類着脱」などといったように細分化し、その行為に要する時間やコストを見える化していきます。

研究対象を一定の枠内に定め、それを細かく解体、細分化し、数値やデータに置換して、分析していくことで研究対象を定義づける手法ーいわゆる科学的手法というやつですね。

しかし、この手法はあくまで従来の医療のやり方なので、いつまでたっても介護福祉特有の領域Xを発見することはありません。

ADLが改善したとか健康状態がよくなったなどの医学モデルそのものです。(ここを本当はもっと、あれこれ批判したいのですが、本文の主旨とそれてしまうため割愛)

同様のことはケアマネジメントにも言えます。その証左として、ケアマネジャーが研修などで口酸っぱく教わる「アセスメントの重要性」が挙げられます。

◆現行ケアマネジメントの価値観


現行のケアマネジャーが研修で習うアセスメントも、Aさんという個人やその人間関係を極力、細かく細分化し、多くの情報を得て、そこから課題を分析、抽出するということを習います。

この手法そのものが医学モデルであり、ソーシャルワークの歴史上は「診断主義」などを踏襲するもので、海外では、古臭いものとして見られてきた経緯があります。

Aさんの情報を多く得て、そこから、まるで医師のように見立てをするから「診断主義」と言われるのでしょう。しかし、実際のケアマネジメントは「客観的な見立て」や「診断」といった「正論」はきれいごとでしかない場合がほとんどです。

きれいごとで終われば、それこそ、ケアマネジャーは不要です。

まして、主任ケアマネジャーだからうまくいくとか、ケアマネジメントプロセスや法令をよく知っているから現場がうまく回るなんてことも、まったくない。笑止千万な評価方法が現状のケアマネジャー制度であり、きれいごとばかりの研修漬けになっているの現状なのではないでしょうか。

(実際の現場では、診断主義的な見方だけでなく、利用者本位の視点もしっかり組み込まれたものが行われていますが、研修などで学ぶ価値観は、医学的知識や見立てができるケアマネが優秀という価値観がよく採用されている)

◆教科書が教えてくれない部分にこそ専門性はある


そして、先ほどの介護福祉にならっていえば、そのきれいごとでは完結しえない、教科書や研修で習わない部分こそ、「X」であり、ケアマネジメント特有の専門領域です。Xの部分の独自性を伸ばし、研鑽することこそ、ケアマネジメントの専門性や質の向上に資するといえるでしょう。

(この点で、ケアマネジメントの研修では、現場をやったことのない人が肩書や知名度だけでよく講師をしていますが、そこから得られるものは、ケアマネジメントの枝葉末節の部分でしかなく、最重要部分ではないと筆者は考えています)

つまり、ケアマネジメントの質の評価は、その専門性の定義や評価とセットで行われなければならず、その専門性とは、ケアマネジメント実践からしか、把握しきれないものなのです。その意味で、ケアマネジメント実践をしたことのない厚生労働省や医療関係者、学識者、知識人、AIなどの言説がXを解明できる可能性は極めて低いでしょう。

そして、現行の研修課程や内容は、それらケアマネジメント実践をしたことのない人々によって構築されてきたもののはずです。それらはケアマネジメント周辺の各論やきれいごとばかりの内容が多く、ケアマネジメント特有の専門性に響くものが、ほとんどないのは当然の帰結だということです。

2019.08 H


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