2023/01/28

介護保険制度の見直しに関する意見

介護保険制度の見直しに関する意見


令和4年12月20日

社会保障審議会介護保険部会

 

目次

はじめに1

Ⅰ地域包括ケアシステムの深化・推進

1.生活を支える介護サービス等の基盤の整備

2.様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現

3.保険者機能の強化

Ⅱ介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保

1.介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進

(1)総合的な介護人材確保対策

(2)生産性の向上により、負担が軽減され働きやすい介護現場の実現

2.給付と負担

(1)高齢者の負担能力に応じた負担の見直し

(2)制度間の公平性や均衡等を踏まえた給付内容の見直し

(3)被保険者・受給者範囲

おわりに

 

はじめに

 

○ 介護保険制度は、その創設から22年が経過し、高齢化の進行とともに65歳以上の第1号被保険者は約1.7倍に増加する中で、サービス利用者数は3.5に増加するなど、高齢者の介護になくてはならないものとして私たちの社会に定着し、発展してきた。

 

○ 介護保険制度の運営は、人口動態や介護サービスを利用する高齢者の心身の状況に自ずから大きく影響される。これまで、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、医療・介護・介護予防・住まい・生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの構築に取り組んできた。次期第9期介護保険事業計画期間中に2025年を迎えることとなるが、今後見込まれる人口構造の変化とそれに伴う社会環境の変化に対応し、高齢者の生活を支える介護保険制度であり続けるために、引き続き、制度の不断の見直しが必要である。

 

○ とりわけ、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える2040頃を見通すと、高齢者人口に占める85歳以上人口の割合が上昇することが見込まれる。要介護認定率は年齢が上がるにつれ上昇し、特に85歳以上で上昇する傾向にあることや、一人当たり介護給付費が85歳以上の年齢階級で急増すること等を考え合わせれば、こうした人口動態が今後の介護保険制度にサービス需要や給付費の増加という形で大きなインパクトを与えることが見込まれる。また、85歳以上人口の増加に伴い、認知機能が低下した高齢者も増加することが見込まれる。地域で生活する高齢者等の意思決定の支援や、権利擁護の重要性が高まることとなる。

 

○ これと同時に、今後、15歳から64歳までの生産年齢人口が急減することが見込まれている。このため、全産業的に人材の確保が厳しい状況となる一方、サービス需要に対応した介護人材の必要数は増えることが見込まれる。足下においては、既に人材不足が指摘されている中で、累次の処遇改善の結果として、介護職員と全産業平均との給与の格差は縮小してきている。今後も、働く環境の改善を含む介護現場の人材確保に向けた取組を一層推進するなど、人材不足が供給の更なる制約要因とならないよう、早急な対応が求められる。

 

○ また、こうした人口構造の変化は全国で一様に起こるのではなく、都市部で高齢者人口が急増する一方で、もともと高齢者人口の多い地方では緩やかな増加にとどまったり、ピークを過ぎて減少に転じたりするなど、多様な形で進行していくことから、各地域の特性や実情に応じた対応が必要となる。

 

○ 他方、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大は、介護現場で働く方々による献身的な努力に支えられつつも、介護サービスの提供や介護保険制度の運営に大きな影響を及ぼすとともに、地域における医療・介護の提供に係る課題を示唆することとなった。また、新型コロナウイルス感染症への対応の中で、介護現場や行政手続など様々な場面でICTの活用が急速に進むことにもつながった。

 

○ 介護保険制度は、加齢により生じる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となった方が尊厳を保持し、自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う制度である。こうした制度趣旨に則り、更なる高齢化や様々な社会環境の変化の中にあっても、高齢者の自己決定に基づき、必要なサービスを受けられ、希望する所で安心して生活できる社会を実現しなくてはならない。

 

○ こうした共通理解の下、本部会では、全世代型社会保障構築会議等における議論の状況も踏まえながら、本年(2022年)3月以降、14回にわたって審議を重ねてきた。以下、本部会におけるこれまでの議論を整理し、介護保険制度の見直しに関する意見書として取りまとめる。

 

 

Ⅰ 地域包括ケアシステムの深化・推進

 

(総論)

○ 介護が必要となっても、できる限り住み慣れた地域で、これまでの日常生活に近い環境で暮らし続けたいということは、国民の共通の願いである。その願いを実現させるためには、介護や介護予防、医療はもとより、住まい、生活支援、そして社会参加までもが包括的に確保される地域を、人口・世帯構成や地域社会の変化があっても、各地域の実情に応じて構築し、維持し続けていくことが必要であり、「地域包括ケアシステム」を深化・推進させていかなければならない。

 

<介護サービス基盤の計画的な確保、住まい>

○ 介護サービス等の基盤については、地域の人口動態や介護ニーズの見込みを適切に捉えて医療・介護需要の見通しを行い、施設・サービス種別の変更なども含め計画的に確保していく必要がある。

 

○ 具体的には、主に都市部において多くの高齢者が、介護が必要となりやすい年齢層に達することに伴い、介護ニーズも急増することが見込まれる一方、既に高齢化のピークを迎えた地域では介護ニーズがピークアウトすることが見込まれるなど、地域によってサービスの利用状況に変化が生じる可能性がある。また、要介護者が点在するような地域では、在宅サービスを効率的に提供することが事実上難しい場合も想定される。こうしたことを踏まえ、既存のサービス基盤の適切な活用や住まいの確保等も課題となる。

 

<一人ひとりに寄り添う介護サービス>

○ 介護サービスについては、利用者の状態や家族などの周囲の状況、暮らし方などに変化があっても、ケアマネジャーのアセスメントや専門的知見に基づいて、利用者一人ひとりの個別ニーズに応じたサービスが提供されることが重要である。このため、自立支援に資する質の高いケアマネジメントを実現するとともに、こうした状況の変化や本人の希望に柔軟に対応できるよう、住まいや住まい方も踏まえた必要なサービス提供体制を整備することが重要と考えられる。

 

<医療需要への的確な対応>

○ また、医療・介護双方のニーズを有する高齢者が大幅に増加する中で、医療・介護が有機的に連携し、住み慣れた地域で医療・介護を継続して受け続けることができる体制を整備することが重要である。

 

<介護DXの推進> 

○ 今後は、デジタル技術を活用し、介護情報の標準化や情報連携基盤の構築を進め、医療機関や介護事業所が医療・介護情報等を本人の同意の下に共有・利活用できるようにするとともに、こうした情報を、市町村が自立支援・重度化防止等の取組に活用するなど、医療での取組に遅れることなく、導入に当たっての現場の負担にも配慮しつつ、介護DXを進めていくことが重要である。

 

<安心・安全の確保>

○ こうした中で、介護現場における事故や虐待といった高齢者の生命・身体の危機に直結するような事態が生じないよう、必要な対応を講じることが重要であることは言うまでもなく、サービス提供の場面における安全性の確保や虐待防止に向けて効果的な対応を検討する必要がある。

 

<総合事業の推進>

○ 生きがいを持った生活への支援をはじめ、地域の中に住民主導のものも含めた様々な社会資源があり、生活支援コーディネーター等がこうした多様な主体による多様なサービスの提供体制を構築するとともに、地域包括支援センター等が主体となって調整を行い、医療・介護サービス等とともに包括的に生活支援等が提供されるようにすることが重要である。

 

<介護予防や社会参加>

○ その際、住民がより長くいきいきと地域で暮らし続けることができるよう、介護予防の取組を進めるとともに、サービス提供者と利用者とが「支える側」と「支えられる側」という画一的な関係性に陥ることのないよう、高齢者の社会参加等を進めることで、世代を超えて地域住民が共に支え合う地域が形作られていくことが期待される。

 

<地域包括支援センターの体制整備と地域共生社会の実現>

○ また、認知症の人や要介護高齢者の増加、単身・夫婦のみの高齢者世帯の増加が見込まれる中、認知症の人や要介護高齢者への支援のみならず、その家族等の介護者が抱える負担や複雑化した課題への対応が必要である。地域住民への総合相談支援等を担う地域包括支援センターについて、体制や環境の整備を図っていくことに加え、障害者福祉や児童福祉などの他分野との連携を促進していくことが重要である。

○ このような医療・介護・住まい・生活支援・社会参加の支援が必要な者は高齢者に限られず、経済的困窮者、単身・独居者、障害者、ひとり親家庭や、これらの要素が複合したケースに対応するため、市町村における重層的支援体制整備事業等、制度・分野の枠や「支える側」「支えられる側」という関係を超えた取組を進める必要がある。このような取組を通じて、全ての人が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合う「地域共生社会」の実現が、「地域包括ケアシステム」の目指す方向であるとも言える。

 

<保険運営と地域デザイン機能の強化>

○ 上記の課題に対応する観点からは、介護保険の保険者である市町村が、限られたマンパワーの中で事務を効率化し、保険制度を運営する保険者としての機能をより一層発揮しながら、地域の自主性や主体性に基づき、地域包括ケアシステムを推進する主体として、介護保険サービス基盤の確保に加え、介護予防の取組や地域づくりなど、地域の実情に応じて仕組みや取組をデザインする、いわば「地域デザイン」に係る業務を展開することが欠かせない。

 

○ こうした機能を果たすためには、市町村が情報連携基盤の構築等を主体的に進め、地域の高齢者の自立支援・重度化防止等の取組を推進するための役割を果たすことが期待される。

 

○ 以上の観点から、地域包括ケアシステムの深化・推進を図るため、「1.生活を支える介護サービス等の基盤の整備」、「2.様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現」、「3.保険者機能の強化」というそれぞれの観点から検討を行った。

 

 

1.生活を支える介護サービス等の基盤の整備

 

(地域の実情に応じた介護サービスの基盤整備)

○ 今後、都市部を中心に85歳以上人口が急増し、施設・在宅を含め介護サービスに対するニーズも増加することが見込まれる。一方、地方では介護ニーズがピークアウトしているところもある。こうした地域によって異なるニーズや介護人材確保の状況に応じて、施設・在宅・居住系を含めてバランス良く介護サービスの基盤整備を行うため、長期的な介護ニーズの見通しや必要な介護職員数を踏まえつつ、計画を策定することが重要である。

  その際、必要に応じて、既存施設・事業所の今後の在り方も含めた検討を、各自治体に促すことが重要である。

 

○ 介護ニーズの状況や介護サービスの提供体制には地域差があり、特に中山間地域や離島など介護の資源が脆弱な地域への留意が必要となる。地域の実情に応じた介護サービス基盤を確保するため、都道府県による広域的な観点からの調整や市町村支援が重要であり、国が自治体に対して適正な支援を行うことも重要である。

 

(在宅サービスの基盤整備)

○ 単身・独居や高齢者のみの世帯の増加、介護ニーズが急増する大都市部の状況等を踏まえ、柔軟なサービス提供によるケアの質の向上や、家族負担の軽減に資するよう、地域の実情に合わせて、既存資源等を活用した複合的な在宅サービスの整備を進めていくことが重要である。

 

○ その際、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、(看護)小規模多機能型居宅介護の更なる普及に加え、例えば、特に都市部における居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう、複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する複合型サービスの類型などを設けることも検討することが適当である。

また、定期巡回・随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護など、機能が類似・重複しているサービスについては、将来的な統合・整理に向けて検討する必要がある。

 

看護小規模多機能型居宅介護は、主治医との密接な連携の下、通い・泊まり・訪問における介護・看護を利用者の状態に応じて柔軟に提供する地域密着型サービスとして、退院直後の利用者や看取り期など医療ニーズの高い中重度の要介護者の在宅での療養生活を支えている。今後、サービス利用機会の拡充を図るため、地域密着型サービスとして、どのような地域であっても必要な方がサービスを利用しやすくなるような方策や提供されるサービス内容の明確化など、更なる普及を図るための方策について検討し、示していくことが適当である。

 

(ケアマネジメントの質の向上)

○ ケアマネジメントに求められる役割、ICTやデータの利活用に係る環境変化、意思決定支援等の重要性の増加等を踏まえ、ケアマネジメントの質の向上及び人材確保の観点から、第9期介護保険事業計画期間を通じて、包括的な方策を検討する必要がある。

 

○ その際には、法定研修のカリキュラムの見直しを見据えた適切なケアマネジメント手法の更なる普及・定着を図るとともに、オンライン化の推進や受講費用の負担軽減を含め、研修を受講しやすい環境を整備していくことが重要である。さらに、法定外研修やOJT等によるケアマネジャーの専門性の向上を図ることが重要であり、国としても周知を図っていく必要がある。加えて、各都道府県における主任ケアマネジャー研修の受講要件等の設定状況を踏まえ、質の高い主任ケアマネジャー養成を推進するための環境整備を行うことが必要である。

また、介護サービス全体として、科学的介護が推進されているところ、ケアマネジメントについてもケアプラン情報の利活用を通じて質の向上を図っていくことが重要である。

 

○ ICTの活用状況などを踏まえて更なる業務効率化に向けた検討を進めていくことが重要である。ケアプランの作成におけるAIの活用についても、実用化に向けて引き続き研究を進めることが必要である。

 

○ 公正中立性の確保も含めケアマネジメントの質を向上させていくためには、ケアマネジャーが十分に力を発揮できる環境を整備していくことが重要であり、上記の業務効率化等の取組も含め、働く環境の改善等を進めていくことが重要である。

 

○ また、現在、マイナンバー制度を活用した「国家資格等情報連携・活用システム(仮称)」の構築について検討が行われているところであり、ケアマネジャーに関する資格管理手続の簡素化等に向けて、こうしたシステムが活用できるような環境整備が必要である。

 

(福祉用具)

○ 介護保険制度における福祉用具については、制度施行当初からの状況の変化等を踏まえ、令和4年2月より外部有識者が参画する「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」において、6回にわたり幅広く検討を行い、同年9月14日に議論の整理をとりまとめている。こうした議論の整理を踏まえ、福祉用具貸与・販売種目の在り方や福祉用具の安全な利用の促進等について、引き続き検討を行うことが適当である。

 

(医療・介護連携)

○ 在宅医療・介護連携の推進に向けて、

・ 市町村と医師会等関係機関・医師等専門職の緊密な連携

・ 施設・居住系サービスをはじめとする介護事業者と地域の医療機関等との連携

・ 都道府県や市町村における医療や介護・健康づくり部門の庁内連携、総合的に進める人材の育成・配置

・ 広域的な調整やデータの活用・分析など、都道府県による市町村支援の推進

・ 国による自治体支援などを進めていく必要がある。

 

在宅医療・介護連携推進事業について、これまでの事業を踏まえつつも、市町村が地域のあるべき姿を意識しながら、主体的に課題解決が図られるとともに、最近の動向を踏まえ、地域の実情に応じ、取組内容の充実を図りつつPDCAサイクルに沿って運用することが重要である。令和2年介護保険制度改正において見直した省令や手引き等について、国としても引き続きその周知を図っていくことが適当である。また、各自治体の取組状況や課題を把握し、国による自治体支援の内容を検討していくことも重要である。

 

○ 自治体がPDCAサイクルに沿った事業展開を確立していくため、地域包括ケア「見える化」システムも含むデータの活用方法を分かり易く整理し、周知することが適当である。加えて、事業の好事例を横展開することも重要である。

 

○ 地域の介護サービス基盤の整備に当たっては、介護保険事業(支援)計画と地域医療構想の整合も含め、医療提供体制の在り方と一体的に議論を行いながら進めていくことが必要である。

 

○ 医療計画と介護保険事業(支援)計画との整合性を図るため、計画策定の際に、都道府県や市町村における医療・介護の担当部局間で協議を行い、緊密な連携を図ることが重要であり、国としても両計画の整合性を図るための支援を行うことが適当である。

 

○ なお、介護保険事業(支援)計画の作成に当たっては、地域福祉計画、障害福祉計画その他要介護者の保健、医療、福祉等に関する事項を定める計画との調和を図ることが重要である。

 

(地域における高齢者リハビリテーションの推進)

○ 高齢者リハビリテーションについては、どの地域でも適時適切に提供されるよう、地域支援事業と保険給付の双方の観点からのリハビリテーション提供体制の構築を更に促進していくことが必要である。そのために、介護保険事業(支援)計画での対応も含めて、地域リハビリテーション支援体制の構築の推進が必要である。

 

(かかりつけ医機能との連携)

○ 社会保障審議会医療部会において、かかりつけ医機能が発揮される制度整備が検討されている。かかりつけ医機能には、在宅医療の提供、介護との連携が含まれることから、医療と介護の連携を更に強化するため、こうした検討状況を踏まえて必要な対応を検討することが適当である。

 

(施設入所者への医療提供)

特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの適切な対応の在り方について、配置医師の実態等も踏まえつつ、引き続き、診療報酬や介護報酬上の取扱いも含めて、検討を進めることが適当である。

 

○ 介護老人保健施設の在宅復帰・在宅療養支援の機能、介護医療院の医療が必要な要介護者の長期療養・生活施設としての機能をそれぞれ更に推進していく観点から、必要な医療が引き続き提供されるよう取組を進めることが必要である。

 

 

(施設サービス等の基盤整備)

○ 介護施設について、既存資源の有効かつ効率的な活用の観点から、地域のニーズを踏まえた在り方や更なる役割・責務を考えていくことは重要である。

 

○ 特別養護老人ホームの入所申込者数については、足元の状況をみると、全体としては減少傾向がみられ、地域によっては、高齢者人口の減少のために空床が生じている場合や、人手不足により空床とせざるを得ない場合等もあるとの実態が生じている。その中で、要介護1・2の高齢者に係る特例入所については、地域によってばらつきがあるとの報告もある。

 

○ こうした状況や、特別養護老人ホームが在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設としての機能に重点化されている趣旨等を踏まえ、特例入所の運用状況や空床が生じている原因などについて早急に実態を把握の上、改めて、特例入所の趣旨の明確化を図るなど、地域における実情を踏まえた適切な運用を図ることが適当である。

 

○ 個室ユニット型施設の整備の推進については、個室ユニットがプライバシーの確保や尊厳の保持といったケアそのものにおいて果たす役割のみならず、新型コロナウイルス感染症拡大下において果たした役割等も踏まえ、人材確保や費用面などの課題等も整理しながら、引き続き検討していくことが重要である。

 

○ 混合型特定施設入居者生活介護については、実利用定員に「7割を超えない範囲で都道府県が定める割合」を乗じたものを推定利用定員とし、都道府県の介護保険事業支援計画において定めた必要利用定員総数を超えるような指定は行わないことができるとされている。

  自治体によっては、混合型施設に7割以上の要介護者が入居している場合もあるため、推定利用定員の算出については、より柔軟に地域の実情に合わせることが適当である。

 

(住まいと生活の一体的支援)

○ 独居の困窮者・高齢者等に対する住まい支援の在り方については、全世代型社会保障構築会議の議論の中間整理(令和4年5月17日)においても、「将来、独居の困窮者・高齢者等の増加が見込まれる中にあって、住まいをいかに確保するかは老齢期を含む生活の維持にとっても大きな課題となるため、制度的な対応も含め検討していくことが求められる」とされ、同会議においても、地域共生社会の実現の観点から議論が行われたところである。そして、同会議の報告書(令和4年1216日)において、「住まい政策を社会保障の重要な課題として位置づけ、そのために必要となる施策を本格的に展開すべきである。その際、年齢層や属性などを考慮した支援対象者の具体的なニーズや、各地域における活用可能な資源等の実態を十分に踏まえつつ、住宅の質の確保や既存の各制度の関係の整理も含めて議論を深め、必要な制度的対応を検討すべきである」等とされている。

 

○ そうした中で、令和4年度老人保健健康増進等事業において「地域共生社会づくりのための「住まい支援システム」構築に関する調査研究事業」を実施しており、住まいに課題を抱える者に対する住まい支援のため、自治体内に、自治体の介護保険部局や住宅部局等で構成する住まい支援センター(仮称)を設置し、住まいの相談支援、アセスメント、地域とのつながりに係るインフォーマルサービスや居住先を含めた社会資源の開拓等を試行的に実施するモデル事業を実施している。

 

○ 介護保険制度においては、地域支援事業の一つとして、「高齢者の安心な住まいの確保に資する事業」を実施しているが、このモデル事業の結果や全世代型社会保障構築会議における議論の状況等を踏まえて、介護保険制度における住まいと生活の一体的な支援の方策について、住宅分野や福祉分野などの介護分野以外の施策との連携や役割分担の在り方も含め、地域共生社会の実現に向けた観点から、引き続き検討することが適当である。

 

(介護情報利活用の推進)

○ 現在、利用者に関する顕名の介護情報等(介護レセプト情報、要介護認定情報、LIFE(科学的介護情報システム)情報、ケアプラン、主治医意見書等)は、事業所や自治体等に分散し、利用者自身の閲覧、介護事業所間の共有、介護・医療間の共有が電子的に可能になっていない。厚生労働省データヘルス改革工程表に基づき、また、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)において、医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームを創設することが求められていることを踏まえて、具体的な介護情報基盤整備の在り方を検討することが必要である。そのため、現在、介護情報利活用に関するWGにおいて、必要な情報の選定・標準化や、情報を閲覧・共有するための仕組みの整備について議論されているところである。

 

○ 自治体・利用者・介護事業者・医療機関などが、利用者に関する介護情報等を電子的に閲覧できる情報基盤を整備することにより、以下の効果が期待でき、これにより、多様な主体が協働して高齢者を地域で支えていく地域包括ケアシステムの深化・推進にも繋がる。

 ・ 自治体が、被保険者が受けている自立支援・重度化防止の取組の状況等を把握し、地域の実情に応じた介護保険事業の運営に活用する。

 ・ 利用者が自身の介護情報を閲覧できることで、利用者自身の自立支援・重度化防止の取組の推進に繋がる。

 ・ 介護事業者・医療機関が、本人の同意の下、介護情報等を適切に活用することで、利用者に対して提供する介護・医療サービスの質を向上させる。

 ・ 紙でのやりとりが減り、事務負担が軽減する。

 

○ これらを踏まえ、個人情報保護や情報セキュリティに十分留意しつつ、また、全国医療情報プラットフォームの実現に資するよう、介護情報を集約し、医療情報とも一体的に運用する情報基盤を国が全国一元的に整備することが必要である。

この介護情報基盤を用いて介護情報等の収集・提供等を行う事業は、保険料と公費の財源により実施する地域支援事業として位置付ける方向で、より効率的・効果的な運用となるよう、自治体等の関係者の意見も十分に踏まえながら、検討することが適当である。

 

(科学的介護の推進)

○ 科学的介護の推進は介護の質向上のために重要な取組であり、令和3年度にLIFEの運用を開始したところであるが、介護施設・事業所においてPDCAサイクルを回して自立支援・重度化防止に取り組むためには、国が提供するLIFEのフィードバックについて、施設・事業所に対するものだけでなく、個別のフィードバックの内容についても改善していくことが重要である。

 

○ また、LIFEについては、エビデンスを蓄積する観点から、データを提出する事業所・施設を増やし、収集するデータを充実させる必要があるが、このためには、事業所・施設側の入力負担の軽減を図るとともに、収集する項目がエビデンスの創出及びフィードバックに資するものとなるよう、介護現場や研究者の声も踏まえ項目の精査を検討することが適当である。

 

(介護現場の安全性の確保、リスクマネジメントの推進)

○ 介護現場の安全性の確保の取組が全国で広がるよう、自治体の取組を後押しするための好事例の横展開や、国における事故情報収集・分析・活用の仕組みの構築など、具体的な方策について、医療や教育・保育施設などの他分野の取組も踏まえつつ、引き続き、早期に検討を進めることが適当である。

 

(高齢者虐待防止の推進)

○ 高齢者の住まいの形態が多様化している状況を踏まえ、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム等、高齢者が利用する施設等に対して、指針の整備など虐待防止措置を適切に講じてもらうための方策を講じることを含め、虐待防止対策を推進していくことが適当である。

 

○ 高齢者虐待の件数が高止まりしていること等を踏まえ、都道府県・市町村における、相談支援や調査研究等に係る体制整備を促すことを含め、地域における高齢者虐待に係る対応力の一層の強化のための方策を講じることが適当である。また、国においても、虐待における重要なリスクの一つと言われている認知症との関係も含め、虐待防止を推進するための一層の調査研究を推進することが適当である。

 

○ 適切な手続を経ていない身体的虐待に当たる身体拘束が依然として発生している状況を踏まえ、在宅サービスにおける身体拘束の適正化を図るための介護報酬上の取扱いや身体拘束を要しない介護技術の普及を含め、正当な理由がない身体拘束の防止のための方策を検討することが適当である。

  また、養護、被養護の関係にない者からの虐待事案が発生していることを踏まえ、「養護者」に該当しない者からの虐待防止のための方策を講じることが適当である。

 

○ また、介護サービス事業所・施設の職員や家族などに対する介護の心理的負担の軽減は、高齢者虐待防止の観点からも有益であり、推進していくことが重要である。

 

2.様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現

 

(基本的な視点)

○ 介護保険法(平成9年法律第123号)において、国及び地方公共団体は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現に資するよう努めなければならないこととされている。地域支援事業は介護予防・重度化防止や自立した日常生活の支援のための施策を、地域の実情に応じて多様な主体の参画を得つつ実施する事業であり、これらの取組を推進していくことは、様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現を図っていく上でも重要である。

 

(総合事業の多様なサービスの在り方)

○ 介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)は、既存の介護サービス事業者に加えて、住民主体の取組を含む、多様な主体によって介護予防や日常生活支援のサービスを総合的に実施できるようにすることで、市町村が地域の実情に応じたサービス提供を行えるようにすることを目的とした事業である。平成26年法改正から一定期間が経過しており、総合事業の実施状況等について検証を行いながら、地域における受け皿整備や活性化を図っていくことが必要である。

 

○ この観点から、従前相当サービスやそれ以外のサービスの事業内容・効果について実態把握・整理を行うとともに、担い手の確保や前回制度見直しの内容の適切な推進も含め、総合事業を充実化していくための包括的な方策の検討を早急に開始するとともに、自治体と連携しながら、第9期介護保険事業計画期間を通じて、工程表を作成しつつ、集中的に取り組んでいくことが適当である。

また、自治体が総合事業などを活用した地域づくりを行う際の参考となるよう、取組を進める趣旨や方法をわかりやすく、体系立てて示すとともに、自治体の取組事例の分析結果等について周知することも重要である。

 

○ その際、介護保険制度の枠内で提供されるサービスのみでなく、インフォーマルサービスも含め、地域の受け皿を整備していくべきであり、生活支援体制整備事業を一層促進していくことが重要である。

また、生活支援・介護予防サービスを行うNPOや民間企業等の主体が、生活支援体制整備事業における協議体へ参画するに当たって一定の要件を設けるなど、多様なサービスについて、利用者やケアマネジャーがケアプランの作成時に適切に選択できる仕組みを検討することが適当である。

 

○ 総合事業費の上限額については、自治体の状況等を踏まえ、見直しを進めるとともに、小規模な自治体であっても持続可能な介護予防の活動ができるよう、やむを得ない事情により上限額を超過する際のきめ細かな対応について、引き続き検討を行うことが適当である。

 

(通いの場、一般介護予防事業)

○ 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、通いの場の活動が自粛されている状況もみられることから、引き続き周知等を通じて、感染防止に配慮しつつ、活動再開や参加率向上を進めていくことが必要である。

 

○ 通いの場については、年齢や心身の状況等によって分け隔てることなく、誰もが一緒に参加し、認知症予防、多世代交流や就労的活動など、地域のニーズに応じた多様な機能を有する場として発展・拡充させていくことが重要である。そのために、好事例の横展開に当たって、各地域の状況や課題毎に、より活用・参照しやすい形で通いの場の取組に資する情報を提供していくことなどを検討することが適当である。

また、その際、通いの場が住民主体であることや、専門職が限られていることにも留意しつつ、更に質を高めるために、自治体と地域の職能団体が連携することなどにより、医療や介護の専門職の関与を推進することが必要である。

 

○ 多様な課題を抱える者や閉じこもりがち等により通いの場に参加できていない高齢者を介護予防・見守りの取組につなげるために、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施による医療専門職等からのアプローチや、介護予防把握事業による民生委員・地域のボランティア・自治会・老人クラブ等からのアプローチなど、様々な手段・機会を活用した働きかけを推進していくことが重要である。

 

(認知症施策の推進)

○ 認知症施策について、本年は認知症施策推進大綱の中間年にあたるため、認知症施策推進関係閣僚会議の下に設置された有識者会議等において、施策の各目標の進捗確認を行っている。

 

○ 各目標の進捗状況の評価を踏まえ、進捗状況が低調な項目については対応策を検討しつつ、大綱の掲げる、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会の実現に向け、引き続き「共生」と「予防」1を車の両輪として、施策を推進していくことが適当である。例えば、認知症初期集中支援チームについては、その機能や役割、自治体の規模、人員体制等に応じた活動状況を把握し、今後の事業の在り方について検討を行う必要がある。さらに、認知症への社会の理解を深め、地域共生社会を目指す中で、これまでの認知症に関する捉え方の点検を行い、認知症に関する正しい知識の普及啓発に努める必要がある。

1 「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味である。

 

(地域包括支援センターの体制整備等)

○ 地域包括支援センターは、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする機関であり、地域の関係者とのネットワークの下、総合相談支援などの包括的支援事業や介護予防支援等の支援を行うとともに、こうした取組を通じて市町村と一体となって地域課題の把握やその対応策の検討等を行うことが期待されている。

また、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応するため、重層的支援体制整備事業において、介護分野に限らず、障害分野、児童分野、困窮分野も含めた、属性や世代を問わない包括的な相談支援等を行うことなども期待されている。

 

○ 認知症高齢者の家族を含めた家族介護者の支援の充実のためには、こうした地域包括支援センターの総合相談支援機能を活用することが重要であるが、総合相談支援機能を発揮できるようにするためにも、センターの業務負担軽減を推進するべきである。また、家族介護者支援においては、地域包括支援センターのみならず、認知症対応型共同生活介護などの地域拠点が行う伴走型支援、認知症カフェの活動、ケアマネジャーによる仕事と介護の両立支援などの取組との連携を図ることが重要である。

 

○ こうした地域包括支援センターの業務負担軽減を進めるに当たり、保険給付として行う介護予防支援について、地域包括支援センターが地域住民の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設であることを踏まえ、介護予防支援の実施状況の把握を含め、地域包括支援センターの一定の関与を担保した上で、居宅介護支援事業所に介護予防支援の指定対象を拡大することが適当である。

 また、総合事業において、従前相当サービス等として行われる介護予防ケアマネジメントAについて、利用者の状態像等に大きな変化がないと認められる場合に限り、利用者に説明し、合意を得てモニタリング期間の延長等を可能とすることが適当である。

 

○ また、総合相談支援業務について、センターの専門性を活かした効果的な実施等の観点から、居宅介護支援事業所などの地域の拠点のブランチやサブセンターとしての活用を推進することが適当である。総合相談支援業務はセンターが行う根幹の業務であることを踏まえ、質の確保に留意しつつ、センターの業務との一体性を確保した上で市町村からの部分委託等を可能とすることが適当である。

 

○ これらの取組のほか、センターの業務に関し、標準化、重点化及びICTの活用を含め、業務の質を確保しながら職員の負担軽減に資するような方策を検討することが適当である。

 

○ センターの職員配置については、人材確保が困難となっている現状を踏まえ、3職種(保健師その他これに準ずる者、社会福祉士その他これに準ずる者及び主任介護支援専門員その他これに準ずる者)の配置は原則としつつ、センターによる支援の質が担保されるよう留意した上で、複数拠点で合算して3職種を配置することや、「主任介護支援専門員その他これに準ずる者」の「準ずる者」の範囲の適切な設定など、柔軟な職員配置を進めることが適当である。

 

3.保険者機能の強化

 

(地域包括ケアシステムの構築に向けた保険者への支援)

○ 今後、各保険者において、地域包括ケアシステムの深化・推進に向けて、更なる取組を進めることができるよう、保険者(市区町村)がその構築状況について自己点検することを進めることとし、その参考となる手法を国が例示することが適当である。

 

○ 来年度の第9期介護保険事業(支援)計画の策定プロセスにおいて、各保険者(市区町村)が地域包括ケアシステムの構築状況の自己点検を実施することにより、その結果を計画に反映できるよう、国として支援することが適当である。

 

○ こうした自己点検を行う際には、自治体の住民の参加、既存の取組における指標等の最大限の活用、地域の規模、体制等に応じた複数の方策の提示、都道府県や地方厚生局の役割といった視点を考慮することが適当である。

 

(保険者機能強化推進交付金等)

保険者機能強化推進交付金及び介護保険保険者努力支援交付金については、平成30年度(介護保険保険者努力支援交付金については令和2年度)に創設され、制度創設から5年目を迎えているところであるが、2つの交付金の役割分担が不明確であること、評価指標と高齢者の自立支援や重度化防止、介護給付費の適正化などの成果との関連が必ずしも明確になっていないことなどの課題がある。このため、保険者機能強化に向けたより実効性の高い仕組みとする観点から、次のような見直しを行うべきである。

 

○ 保険者機能強化推進交付金等の実効性をより高めていくため、

 保険者機能強化推進交付金については、介護保険事業計画の進捗管理や介護給付費の適正化に関する取組など、地域包括ケアの構築に向けた基盤整備の推進を図るものとする一方、

 介護保険保険者努力支援交付金については、介護予防・健康づくり等の地域包括ケアに関する取組の充実を図るもの、 としてそれぞれ位置付け、評価指標についても、こうした位置付けに沿って見直すことが適当である。

  その際、令和4年度予算執行調査結果等を踏まえ、評価を行う保険者の負担にも配慮し、評価指標については、可能な限り縮減することが適当である。

○ 現在のプロセス等に関する評価指標については、平均要介護度の変化率等のアウトカム指標との関連性が不明瞭であることから、これらとアウトカム指標との関連性をより明確にするため、アウトプットや中間アウトカムに関する評価指標の充実を図ることが重要である。

 

○ 評価結果については、現在、一定の評価テーマごとの得点獲得状況を厚生労働省HPにて公表しているが、地域において評価結果を共有し、当該評価結果も踏まえた保険者等の更なる取組を促す観点から、得点のみで保険者等における取組の全てを評価すべきでないことにも留意しつつ、個別の評価項目ごとの得点獲得状況について公表することが適当である。

 

(給付適正化・地域差分析)

○ 介護給付費の地域差改善と給付適正化は、相互に関係し合うものであり、一体として進めていくことが重要である。

 

○ 地域差分析の取組を推進する観点から、国として、地域包括ケア「見える化」システムの更なる機能改善を行うことが必要である。

 

○ 給付適正化の取組を推進する観点から、介護給付適正化主要5事業について、保険者の事務負担の軽減を図りつつ効果的・効率的に事業を実施するため、新たな取組を含めた事業の重点化・内容の充実・見える化を行うことが重要である。その際、都道府県ごとに不合理な地域差の改善や給付適正化に向けて管内保険者と議論を行う場で議論を行うこととし、保険者を支援することが必要である。

 

○ 前回の調整交付金の見直しの際に導入された、保険者に一定の取組を求める措置について、自治体によって地域資源、体制等地域の実情が異なることや本来の調整交付金の調整機能に留意しつつ、引き続き一定の取組を求めることが必要である。

 

(介護保険事業(支援)計画作成の効率化)

○ 介護保険事業(支援)計画を作成する負担を軽減するため、国として地域包括ケア「見える化」システムの更なる機能改善や各種実態調査の集計・分析ツールの提供を行うなど、計画作成支援を強化することが重要である。

 

○ また、介護保険事業(支援)計画に記載する介護予防や施設整備等の目標については、必要に応じて中長期で設定することも可能であることを「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」に明記することや、介護保険事業計画の効率的な作成に資する手引きを国が作成するなど、計画作成の負担軽減を図ることが適当である。

 

(要介護認定)

○ 要介護認定(要支援認定を含む。以下同じ。)を受けている高齢者は、平成12年度以降増加傾向にあり、令和3年4月時点で約684万人となっている。これまで、保険者の業務簡素化の観点から、有効期間の拡大や審査の簡素化等の見直しを行ってきたが、令和3年度上半期においても、申請から要介護認定までの平均期間は36.2日と依然として長くなっている。要介護認定の遅れは利用者にも事業者にも影響を与えるものであり、各保険者が要介護認定を速やかかつ適正に実施するために必要な方策について議論を行った。

 

○ 新規申請及び区分変更申請に係る有効期間の上限拡大については、保険者の事務負担の軽減に資すると考えられる一方で、

 ・ 要介護認定は、保険者がその責任と権限に基づき、被保険者に介護が必要な状態にあるかどうかを確認する行為であり、認定された要介護度に応じてケアプランの作成・サービスの提供が行われることからも、介護保険制度の根幹であること

 ・ 更新申請と比較して、認定から12か月経過後に、軽度化している者の割合が多いこと

 を踏まえ慎重に考える必要がある。

 

○ 更新申請に係る有効期間については、これまで累次の上限拡大を行ってきているが、更なる上限拡大に当たっては、有効期間の上限を拡大した令和3年度の制度改正の影響や、保険者の事務負担の軽減に資する効果を引き続き検証する必要がある。

 

○ 介護認定審査会を簡素化して実施する場合の審査会への通知の省略については、保険者の事務負担の軽減に資する一方で、公正な立場にある専門家の合議による審査を行わない場合、要介護認定の公平性・医学的妥当性を確保することが困難になることから、慎重に考える必要がある。

 

○ 一方で、要介護認定までの期間を短縮するためには、各保険者における審査の簡素化・効率化の取組を一層推進することが重要である。

○ このため、より多くの保険者が審査の簡素化に取り組むことができるよう、具体的にどのように審査を簡素化しているかの事例を収集・周知することが適当である。また、ICTやAIの活用に向けた検討を進めていくことが重要である。

 

○ 加えて、現在、新型コロナの感染状況を踏まえ、認定審査会について、ICTを活用して実施できることとしているが、本取扱いについて、業務効率化の観点から、新型コロナの感染状況を問わず、継続することが適当である。

 

Ⅱ 介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保

 

1.介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進

 

(総論)

○ 今後、介護サービスの需要が更に高まることが見込まれている一方で、生産年齢人口は急速に減少することが見込まれている。既に介護現場の人手不足が指摘されている中で、介護分野のみならず全産業的に人材確保が大きな課題となることが見込まれる。とりわけ、現役世代が流出する地方ではますますこうした問題が深刻になる可能性がある。

 

○ 介護人材の不足は、介護サービスの供給を制約する要因となることから、喫緊の対応が必要である。これまでも処遇改善やマッチング支援、介護のしごとの魅力発信などの総合的な人材確保策に取り組んできた。これと並行して、介護現場において、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入により、サービスの質を確保しつつ効率的なサービス提供を行うとともに、介護職員が行うべき業務の切り分けや、事務作業等の職員負担軽減を徹底することにより、介護職員が専門性を生かしながら働き続けられる環境づくりを早急に進めつつ、職員の働く環境の改善などにつなげていく必要がある。

 

○ このような観点から、介護人材の確保及び介護現場の生産性向上の取組を一層普及するために必要な方策について、現状を踏まえつつ検討を行った。

 

(1)総合的な介護人材確保対策

 

○ 第8期介護保険事業計画(令和3年度~令和5年度)の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した介護人材の需要をみると、令和5(2023)年度末までに約22万人(合計で約233万人)、令和7(2025)年度末までに約32万人(合計で約243万人)、すなわち、令和元年度以降、年間5.3万人程度の介護人材の伸びが必要となっている。

 

○ さらに、令和3年度の介護分野の有効求人倍率(3.64倍)は、全職業(1.03倍)と比較して高く、特に、訪問介護職においては更に高い傾向があり、今後の我が国の人口動態を踏まえれば、介護人材の確保は一段と厳しくなることが想定される。

 

○ こうした現状において、介護人材を確保するためには、処遇の改善、人材育成への支援、職場環境の改善による離職防止、介護職の魅力向上、外国人材の受入れ環境整備などの取組を総合的に実施する必要がある。令和3年度からは、他業種からの参入に向け、「雇用と福祉の連携による離職者への介護・障害福祉分野への就職支援パッケージ」を展開しているが、アウトカムを踏まえながら効果的な施策展開を図ることが重要である。

 

○ 介護職員については、職場の人間関係が離職理由の大きな要因でもあることから、離職防止の観点からは、ハラスメント対策を含めた働きやすい職場づくりに向けた取組を推進するとともに、人材確保に係る好事例について把握し、検証することも有効である。

 

○ 他業種や外国人材といった多様な人材が参入する中、多様化・複雑化する介護ニーズに対応するためには、介護福祉士を介護職グループをマネジメントするリーダー的存在として育成するため、介護福祉士個人の専門性を評価する仕組みなど職場におけるキャリアアップや処遇の改善につながる仕組みを検討することが重要である。他方、資格は取得してもリーダーになることに積極的でない層の存在を踏まえながら、人材育成や事業所内の業務負担の在り方について検討することも重要である。

 

○ 引き続き、参入促進、資質の向上、介護職員の健康やメンタル面も含めた労働環境の改善を図るための事業を実施することに加えて、他業種からの参入を含めた多様な人材参入を更に促進するための介護職の魅力発信事業等の拡充を図るなど、介護人材確保のための支援策の更なる充実を進めることが重要である。

 

○ また、国内における人材確保に加え、海外からの人材確保についても、定着の状況などを把握しつつ、海外人材に対する介護分野での就労に関心を促す取組や介護事業所等とのマッチング支援等の受入促進の観点も含め、引き続き推進することが必要である。我が国で介護職として活躍することを希望する外国人介護人材に対し、引き続き受入・定着を促しながら、日本語学習や生活相談の支援とともに介護福祉士の資格取得支援等を推進することが必要である。

 

○ 上記の支援を含め、地域の実情に応じた介護人材確保対策が実施できるよう地域医療介護総合確保基金の中で様々なメニューを用意し、自治体を支援していく必要がある。

 

(2)生産性の向上により、負担が軽減され働きやすい介護現場の実現

 

(地域における生産性向上の推進体制の整備)

○ 「介護現場の生産性向上」に係る取組は、限られた資源の中で、一人でも多くの利用者に質の高いケアを届けることを目的とした取組であり、業務の見直しや効率化等により生まれた時間を有効活用して、利用者に向き合う時間を増やすなど、個人の尊厳や自立の支援につながるケアの実現を図ることに資するものである。

 

○ 介護現場において、こうした生産性向上の取組を進めるためには、一つの介護事業者のみの自助努力だけでは限界があり、発信力のあるモデル事業所を地域で育成し、周辺に取組を伝播させていくことが重要である。また、自治体が主導し、地域の福祉関係者はもとより、雇用や教育などの多様な関係者とも連携しながら、地域全体で取組を推進していく必要がある。

 

「介護現場革新会議基本方針」や「生産性向上に資するガイドライン」に基づき、介護現場の生産性向上(業務改善の取組)について、国、自治体、関係団体、介護事業所が一体となって進めていくことが重要である。介護事業所において、生産性向上に向けた取組は未だ一部の事業所にとどまることから、業務改善を恒常的に実施できる取組の在り方や業務改善を推進する人材の育成など、更なる普及策について早急に検討することが必要である。その際、個々の事業所レベルでは、経営層の示す方針の下に、現場と一体となって推進することが重要であることを、改めて周知・啓発することが必要である。 

 

○ また、30都府県(令和4年4月1日時点)において、地域医療介護総合確保基金を活用して、人材育成や職場環境の改善、生産性向上等につながる取組を行う介護事業者に対して、評価を行い、認証を付与することなども実施しており、こうした取組をより広く展開し、優良事例の横展開を図ることが重要である。

 

○ また、生産性向上に向けた業務改善に取り組む事業者への支援策については、介護ロボット・ICT機器の導入支援だけでなく、介護人材の確保やいわゆる介護助手の活用など様々なメニューが存在する。一方、取組・分野ごとに支援策の実施主体が異なり、事業者にとって、地域においてどのような支援メニューがあるのか分かりにくいものとなっているとの声もある。

 

○ このため、これらのメニューを地域において一括して網羅的に取り扱い、事業者の実情やニーズを適切な支援につなぐことが重要であり、令和5年度から、都道府県主導の下、生産性向上に資する様々な支援・施策を一括して網羅的に取り扱い、適切な支援につなぐワンストップ窓口の設置など総合的な事業者への支援に取り組むことを目指すことが適当である。その際、都市部や中山間地域などの地域特性に応じた柔軟な支援を行うよう配慮することが必要である。

 

○ また、介護現場の生産性向上の推進に関して、自治体を中心に一層取組を推進するため、自治体の役割を法令上明確にすることが適当である。

 

(施設や在宅におけるテクノロジーの活用)

○ 介護現場におけるテクノロジーの導入は早急に推進する必要がある。現在も、地域医療介護総合確保基金を活用した介護ロボット・ICTの導入支援事業が実施され、テクノロジーを導入する際の経費の一部の補助が行われているが、こうした支援を引き続き行うことが重要である。その際、事業のわかりやすい周知に努める必要がある。

 

○ それぞれの介護現場において、自らの課題・ニーズに応じた適切な機器が導入されることが重要であり、前記のワンストップ窓口や「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業」により設置している相談窓口を通じた体験展示、研修会、個別相談対応等の取組を推進する必要がある。

 

○ また、主に施設系サービスにおいて抽出・把握した課題や目指すべき姿・方向性と、その課題の改善等の効果が期待される機器の導入とを組み合わせた取組事例集である「介護ロボットのパッケージ導入モデル」について、その普及が図られている。こうしたモデルについて、今後更に大規模な実証等を通じて一層の充実等を図るとともに、都道府県のワンストップ窓口等を経由した現場への周知やノウハウの共有について、積極的に推進することが適当である。また、導入による効果について、事業者にとってわかりやすい情報提供が行われることが重要である。

 

○ さらに、現場への実装に向けては、導入ノウハウを有する人材の育成とともに、こうした人材による事業所への伴走型支援が必要である。また、取組の進展に応じたプッシュ型の支援という観点も必要である。

 

○ なお、現在実施している実証事業などで得られたエビデンス等を踏まえ、テクノロジーを活用した先進的な取組を行う介護付き有料老人ホーム等の人員配置基準を柔軟に取り扱うことの可否を含め、検討することとしている。

 

○ また、在宅サービスにおいても、ICTの導入等テクノロジーの利活用を更に進める必要があり、情報共有や記録等の円滑化の視点、サービスの質の確保や導入時の課題などの論点も含め、調査研究を進めるなど、現場での利活用に当たって有用な取組を推進していくことが重要である。

 

(介護現場のタスクシェア・タスクシフティング  

○ 専門職をできる限り有効活用するという観点から、介護職員が行うべき業務の切り分けを積極的に進める必要がある。生産性向上ガイドラインの活用等による現場改善の取組について、地域における推進体制の整備と並行して、更に推進する必要がある。

 

○ いわゆる介護助手の活用に当たっては、適切な業務の切り分けが必要であるが、令和4年度実証事業において、施設系サービスの現場における導入状況や導入手順、業務実態等に関する調査が行われている。また、今年度より、地域医療介護総合確保基金を活用し、都道府県福祉人材センターなどに介護助手等のなり手の掘り起こしや受入事業所への支援等を行う「介護助手等普及推進員」を配置する事業が開始されている。

  なお、介護助手という名称については、高齢者や女性も含め幅広い層からの積極的な参画が促されるよう、名称について、現場の意見も踏まえながら、引き続き検討していくことが必要との意見もあった。

 

○ 介護職員の業務負担軽減、介護サービスの質の確保の観点から、介護助手に切り分け可能な業務や切り分けたときに効果が高いと見込まれる業務の体系化、業務遂行上の留意点の整理、同じ職場で働く構成員としての介護助手の制度上の位置付けや評価・教育の在り方、専門職との連携も含め、サービス特性を踏まえた導入促進のための方策を引き続き検討することが適当である。また、人材の確保については、社会福祉協議会やシルバー人材センターなど、関係する団体とも連携しながら、特定の年齢層に限らず若者も含め幅広い年齢層を念頭に置きつつ、柔軟に対応することが必要である。

(経営の大規模化・協働化等)

○ 介護人材不足への対応や、安定的なサービス提供を可能とする観点からは、介護の経営の大規模化・協働化により、サービスの品質を担保しつつ、管理部門の共有化・効率化やアウトソーシングの活用などにより、人材や資源を有効に活用することが重要である。

 

○ 令和3年度老人保健健康増進等事業においては、合併等の介護事業所の大 規模化や、事業所間での連携を行う等の協働化事例の実態把握を行い、事例集の作成・周知が行われているが、社会福祉連携推進法人の一層の活用促進も含め、地域の実情等を踏まえた経営の大規模化・協働化に向けた好事例の更なる横展開を図る必要がある。さらに、こうした取組を推進するに当たって、障壁となる要因について検証することも重要である。

 

○ また、既に訪問介護において人手不足が指摘されているように、在宅サービスの人材確保は急務であり、ICTの活用も念頭に、より働きやすく効率的なサービス提供の在り方を検討する必要がある。「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」(令和4年6月3日デジタル臨時行政調査会)では、デジタルの力を活用しながら、生産年齢人口が減少する中での人手不足の解消や生産性向上等の観点から、介護サービス事業所における管理者の常駐等について見直しの検討が提言されているが、これらも踏まえ、各サービスにおける管理者等の常駐等について、必要な検討を進める必要がある。

 

 (文書負担の軽減)

 介護分野の文書に係る負担軽減については、本部会の下に設置している介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会において、規制改革実施計画(令和4年6月7日閣議決定)「介護分野におけるローカルルール等による手続き負担の軽減」の内容も踏まえ、今後の更なる負担軽減の実現へ向け、同専門委員会の検討事項である「介護分野において、国、指定権者・保険者及び介護サービス事業者の間でやり取りされている文書に関する負担軽減策」を中心に、関係団体からのヒアリングを含めて、令和4年度以降、計4回にわたる議論と検討を行い、本年11月7日に取りまとめを行った。

 

 取りまとめにおいては、

  ・ 国が示している標準様式例の使用を基本原則化するための取組として、介護保険法施行規則と告示に、標準様式について明記すること等の所要の法令上の措置を行うべきであること

  ・ 「電子申請・届出システム」利用のために必要な業務見直しを含む準備のための手引きや操作手順書の作成を行うなど、円滑なシステムの運用開始へ向けた支援を行うべきであることや、同システムの使用を基本原則化し、令和7年度までに全ての地方公共団体で利用開始するために、介護保険法施行規則に、「電子申請・届出システム」について明記すること等の所要の法令上の措置を行うべきであること等について指摘がなされているところであり、必要な対応を遅滞なく進め るとともに、現場での実施状況について、厚生労働省において、専門委員会の意見も踏まえながら継続的に把握し、必要な対応を講じることが適当である。

 

(財務状況等の見える化)

○ 介護サービス事業者について、

・ 介護サービス事業者の経営状況をもとに、国民に対して介護が置かれている現状・実態の理解の促進

・ 介護サービス事業者の経営状況の実態を踏まえた、効率的かつ持続可能な介護サービス提供体制の構築のための政策の検討

・ 物価上昇や災害、新興感染症等に当たり経営影響を踏まえた的確な支援策の検討

・ 実態を踏まえた介護従事者等の処遇の適正化に向けた検討

・ 介護報酬に関する基礎資料である介護事業実態調査の補完に活用することが可能となるという観点から、経営情報を収集・把握することは重要である。

  また、介護サービス事業者側も、マクロデータを自事業所の経営指標と比較することで、経営課題の分析にも活用可能と考えられる。

 

○ 医療法人の経営情報に係る検討状況も踏まえ、介護サービス事業者の経営状況を詳細に把握・分析し、介護保険制度に係る施策の検討等に活用できるよう、介護サービス事業者が財務諸表等の経営に係る情報を定期的に都道府県知事に届け出ることとし、社会福祉法人と同様に、厚生労働大臣が当該情報に係るデータベースを整備するとともに、介護サービス事業者から届け出られた個別の事業所の情報を公表するのではなく、属性等に応じてグルーピングした分析結果を公表することが適当である。その際、介護サービス事業者の事務負担等に十分に配慮する必要がある。

 

○ また、介護サービス情報公表制度について、利用者の選択に資する情報提供という観点から、社会福祉法人や障害福祉サービス事業所が法令の規定により事業所等の財務状況を公表することとされていることを踏まえて、介護サービス事業者についても同様に財務状況を公表することが適当である。あわせて、介護分野においては、介護人材の確保を目指して累次の処遇改善等がなされているところ、介護サービス情報公表制度は利用者等のサービス選択において広く活用されており、各施設・事業所の従事者の情報について、現行においても職種別の従事者の数や従事者の経験年数等が公表されていることも踏まえ、一人当たりの賃金等についても公表の対象への追加を検討することが適当である。その際、設置主体や給与体系等の違いに配慮することや、公表する情報に関係する個人が特定されることがないよう配慮した仕組みを検討することが適当である。 

 

2.給付と負担

 

(総論)

○ 介護保険制度は、その創設から22年が経ち、サービス利用者は制度創設時の3倍を超え、介護サービスの提供事業所数も着実に増加し、介護が必要な高齢者の生活の支えとして定着、発展してきている。

 

○ 一方、高齢化に伴い、介護費用の総額も制度創設時から約3.7倍の13.3兆円(令和4年度予算ベース)になるとともに、1号保険料の全国平均は6,000円超となっている。今後、一人当たり給付費の高い年齢層の急増が見込まれることも踏まえた対応が必要となる。

 

○ こうした状況の中で、要介護状態等の軽減・悪化の防止といった制度の理念を堅持し、必要なサービスを提供していくと同時に、給付と負担のバランスを図りつつ、保険料、公費及び利用者負担の適切な組み合わせにより、制度の持続可能性を高めていくことが重要な課題となっている。

 

○ このような認識の下、令和2年介護保険制度改正における部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和元年1227日)や、全世代型社会保障構築会議における議論、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)、「新経済・財政再生計画改革工程表2021」(令和3年1223日経済財政諮問会議)等を踏まえ、負担能力に応じた負担、公平性等を踏まえた給付内容の適正化の視点に立ち、以下の論点について検討を行った。

 

(1)高齢者の負担能力に応じた負担の見直し

 

(1号保険料負担の在り方)

○ 1号保険料については、負担能力に応じた負担を求めるという観点から、制度創設時より所得段階別保険料としており、低所得者への負担を軽減する一方、高所得者の負担は所得に応じたものとしてきた。

※ 制度創設当初は5段階で設定されたが、その後、保険料負担の応能性を高める観点から、見直しが行われ、現在は9段階となっている。

 

○ なお、平成27年度以降は、消費税率の引上げに伴う低所得者対策強化により、現行の給付費の5割の公費負担に加えて別枠で公費を投入し、低所得者の保険料の軽減割合を拡大している。

○ 高齢化の進行により、介護費用の総額が増加していることに伴い、1号保険料の全国平均は、制度創設時の2,911円(第1期)から6,014円(第8期)に増加しており、将来的には9,000円程度に達することが見込まれる状況にある。

 

○ 介護保険制度の持続可能性を確保するためには、低所得者の保険料上昇を抑制することが必要であり、負担能力に応じた負担の観点から、既に多くの保険者で9段階を超える多段階の保険料設定がなされていることも踏まえ、国の定める標準段階の多段階化、高所得者の標準乗率の引上げ、低所得者の標準乗率の引下げ等について検討を行うことが適当である。

 

○ 具体的な段階数、乗率、低所得者軽減に充当されている公費と保険料の多段階化の役割分担等について、次期計画に向けた保険者の準備期間等を確保するため、早急に結論を得ることが適当である。

 

○ なお、現役層(4064歳)が負担する2号保険料について、介護保険関係法令に基づき計算される納付金額を元に医療保険者が介護保険料として徴収し、納付金として一括して納付するものであるため、その透明性を確保する観点から、毎年、納付金額決定の後の介護保険部会等で厚生労働省から報告することが適当である。また、2号保険料については、国の審議会という開かれた場で検討・議論し、大臣は審議会の意見を聞いた上で、全国一律の保険料率を決定するというような透明性、納得性のある仕組み、手続等に見直すことが必要との意見があった。

 

(「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準)

○ 介護保険制度においては、制度創設時、利用者負担割合を所得にかかわらず一律1割としていたが、平成26年の介護保険法改正において、保険料の上昇を可能な限り抑えながら、現役世代に過度な負担を求めず、高齢者世代内において負担の公平化を図っていくため、後期高齢者医療制度に先行して、「一定以上所得のある方」(第1号被保険者の上位20%相当)について負担割合を2割とした(平成27年8月施行)。さらに、平成29年の介護保険法改正において、介護保険制度の持続可能性を高めるため、世代内・世代間の負担の公平や負担の能力に応じた負担を求める観点から、「現役並みの所得」を有する方の負担割合を2割から3割に引き上げた(平成30年8月施行)。

※ 現状、利用者516万人(令和4年3月現在)のうち、2割負担に該当するのは約4.6%、3割負担に該当するのは約3.6%となっており、直近(令和2年度)の実質負担率(総費用に占める利用者負担額の割合)は7.4%となっている

 

○ 医療保険制度においても、患者負担割合について、これまで累次の改正が行われ、直近の改正では、後期高齢者(75歳以上)の方について、令和4年10月から一定所得以上の方(後期高齢者の所得上位30%())の負担割合を2割とする見直しが行われた。

(※)現役並み所得者を含む割合

 

○ 「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準について、介護保険部会における過去の議論も踏まえつつ、

① 本年10月に施行された、後期高齢者医療制度の患者負担2割(一定以上所得)の判断基準が、後期高齢者の所得上位30%とされていることとの関係、

② 介護サービスは医療サービスに比べ長期間利用するという特徴があること、

③ 介護保険では2割負担が医療保険に先行して導入された経緯、

④ 高齢者の方々の負担に十分配慮し、必要なサービスの提供が受けられること等

の観点から、検討を行った。

 

○ 「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準の見直しについて、見直しに慎重な立場から、以下の意見があった。

・ 利用者負担が増えれば、必要な介護サービスの利用控えにつながり、生活機能の悪化につながることから慎重に検討すべき。

・ 高齢者の生活が苦しい中、後期高齢者医療制度の自己負担割合が引き上げられ、さらに介護保険の利用者負担を引き上げることには大きな不安がある。

・ 保険料は応能負担で良いが、利用者負担を応能負担とするのは反対。医療保険制度との比較やこれまでの利用者負担の見直しの延長線上で利用者負担を強化すべきではない。

 

○ 一方で、見直しに積極的な立場から、以下の意見があった。

・ 現役世代の社会保険料負担は限界に達しており、介護は医療に比べて費用の伸びが大きいことも踏まえると、保険料の上昇抑制のためには利用者負担の見直しが必要。

65歳以上の高齢者の急増から現役世代の急減に人口構造の局面が変化していく中で、制度の持続可能性を高めていくため、世代間、制度間、制度内での給付と負担のバランスや公平性を確保しつつ、被保険者の方の応能・応益の観点で見直す必要がある。

・ 後期高齢者医療制度では上位所得30%を基準に2割負担が導入されたところであり、制度間のバランスを踏まえ見直すことが必要。

・ 能力に応じて皆が支え合うという観点から、負担能力のある高齢者には、適切な負担を求めていくことが重要。低所得者に配慮しつつ、利用者負担は原則2割負担とし、3割負担の対象も拡大すべき。

 

○ また、負担能力等に関して、以下の意見があった。

・ 負担能力に応じた負担という考え方は重要だが、新たに負担増が想定される方々の生活実態をよく調査し、見直しの影響を見極めた上で検討する必要がある。

・ 介護サービスは、医療サービスと異なり利用が長期にわたるものなので、費用負担増が長期にわたって影響する点を踏まえることが重要。

・ 急激な負担増とならないような配慮をしていくことも必要ではないか。

・ マイナンバー制度の活用を含め、所得だけでなく資産も捕捉し勘案していくという観点も重要ではないか。

 

○ こうした議論を踏まえ、「一定以上所得」(2割負担)の判断基準について、後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう、高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行い、次期計画に向けて結論を得ることが適当である。

 

○ 「現役並み所得」(3割負担)の判断基準については、医療保険制度との整合性や利用者への影響等を踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当である。

 

(補足給付に関する給付の在り方)

○ 制度発足時の介護保険においては、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)及び短期入所生活・療養介護(ショートステイ)について、食費・居住費が給付に含まれていたが、平成17年の介護保険法改正により、在宅と施設の利用者負担の公平性の観点から、これらのサービスの食費・居住費が給付の対象外とされた。

その際、これらの施設に低所得者が多く入所している実態を考慮して、住民税非課税世帯である介護保険3施設の入所者については、世帯の課税状況や本人の年金収入及び所得を勘案して、特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)を給付することとされ、食費・居住費の負担軽減が行われている。

※ 在宅サービスであるショートステイについても、サービス形態が施設入所に類似していることに鑑み、同様の負担軽減が行われている。

 

○ 平成26年の介護保険法改正では、こうした経過的かつ低所得者対策としての性格をもつ補足給付について、在宅で暮らす方や保険料を負担する方との公平性の確保の観点から、一定額超の預貯金等(単身1,000万円超、夫婦世帯2,000万円超)がある場合には対象外とする等の見直しが行われ、令和2年介護保険制度改正では、能力に応じた負担とし、制度の精緻化を図る観点から、補足給付の所得段階を保険料の所得段階と整合させるとともに、預貯金等の基準の見直し等が行われた。

 

○ 補足給付に関する給付の在り方については、

・ サービス利用者の生活がさらに苦しくなり、生活を維持できなくなるようなことがないよう慎重に検討する必要がある、

・ 補足給付の対象を拡大すべき

等の意見があった。

 

○ また、公平性を確保する観点から、マイナンバー制度の活用を含め、より精緻で効率的な資産把握を目指していくべきといった意見もあった。

 

○ 補足給付に係る給付の実態やマイナンバー制度を取り巻く状況なども踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当である。

 

(2)制度間の公平性や均衡等を踏まえた給付内容の見直し

 

(多床室の室料負担)

○ 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設等における居住費については、平成1710月より、在宅と施設の利用者負担の公平性の観点から、保険給付の対象外とし、居住環境の違いに応じ、個室は光熱水費及び室料、多床室は光熱水費を居住費として自己負担にすることとされた。

 

○ 平成27年度からは、特別養護老人ホームの多床室について、死亡退所も多い等事実上の生活の場として選択されていることから、在宅で生活する者との負担の均衡を図るため、一定の所得を有する入所者から、居住費(室料)の負担を求めることとされた。

 

○ このような中、改革工程表2021において、介護の多床室室料に関する給付の在り方について、「2019年度の関係審議会における審議結果を踏まえ、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設の機能等を考慮しながら、負担の公平性の関係から、多床室の室料負担の見直しについて、第9期介護保険事業計画期間に向けて、関係審議会等において結論を得るべく引き続き検討」することとされている。

 

介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料負担の在り方について、介護保険部会における過去の議論も踏まえつつ、

① 在宅でサービスを受ける者との負担の公平性、

② 特別養護老人ホームの多床室の室料の利用者負担導入に当たっては、死亡退所が多い等事実上の生活の場として選択されていることを考慮した経緯、

③ 介護老人保健施設は在宅復帰を目的とした療養支援を行う場、介護医療院は長期療養を必要とする者に対する医療を提供する場であるといった各施設が有する機能の違い、

④ 各施設の利用者の入所目的や在所日数、退所先等の実態等

 

の観点から、どのように考えるか、議論を行った。

 

○ 多床室の室料負担の見直し(介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料を保険給付の対象外とすること)について、見直しに慎重な立場から、以下の意見があった。

 ・ 介護老人保健施設及び介護医療院は、医療提供施設として在宅復帰のためのリハビリや濃厚な治療等を行っており、入所者・退所者の状況や居住環境も特別養護老人ホームとは異なるため、室料を求めるべきでない。

 ・ 利用控えにより必要なサービスを利用できなくなることがないようにすべき。

 

○ 一方で、見直しに積極的な立場から、以下の意見があった。

 ・ 在宅と施設、施設種別間の公平性、介護保険財政、負担能力のある方には負担していただくといった観点から、室料は利用者負担として保険給付の対象外とすべき。

 ・ 介護老人保健施設及び介護医療院の入所者・退所者の状況についても、特別養護老人ホームと同様の実態が一定みてとれる。

 

○ 介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料負担の導入については、在宅でサービスを受ける者との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等、これまでの本部会における意見を踏まえつつ、介護給付費分科会において介護報酬の設定等も含めた検討を行い、次期計画に向けて、結論を得る必要がある。

 

(ケアマネジメントに関する給付の在り方)

○ ケアマネジメントは、居宅介護支援事業者が居宅の要介護者に対して、ケアプランの作成やサービス事業者との連絡調整等を行うものであり、高齢者自身によるサービスの選択、サービスの総合的・効率的な提供等、重要な役割を果たしている。ケアマネジメントについては、要介護者等が積極的に本サービスを利用できるよう、制度創設時から10割給付のサービスと位置付けられてきた。

 

○ ケアマネジメントは、利用者の心身の状況・置かれている環境・要望等を把握し、多職種と連携しながらケアプランを作成するとともに、ケアプランに基づくサービスが適切に提供されるよう事業者との連絡調整を行うものであり、介護保険制度創設から22年が経過し国民の間にも広く普及している。また、ケアマネジャーは、医療と介護の連携や、地域における多様な資源の活用等の役割をより一層果たすことが期待されている。こうした中で、将来的なケアマネジャーの人材確保の観点から、処遇の改善やICT機器等を活用した業務負担軽減などの環境整備が必要との指摘もある。

 

○ このような中、改革工程表2021において、介護のケアプラン作成に関する給付の在り方について、「2019年度の関係審議会における審議結果を踏まえ、利用者負担の導入について、第9期介護保険事業計画期間に向けて、関係審議会等において結論を得るべく引き続き検討」することとされている。

 

○ ケアマネジメントに関する給付の在り方について、介護保険部会における過去の議論も踏まえつつ、

① 制度創設時に10割給付とされた趣旨及び現在のケアマネジメントの定着状況、

② 導入することにより利用控えが生じうる等の利用者への影響や、セルフケアプランの増加等によるケアマネジメントの質への影響、

③ 利用者負担を求めている他の介護保険サービスや、施設サービス利用者等との均衡、

④ ケアマネジャーに期待される役割と、その役割を果たすための処遇改善や事務負担軽減等の環境整備の必要性等

 

の観点から、どのように考えるか、議論を行った。

 

○ ケアマネジメントに関する給付の見直し(利用者負担を導入すること)について、見直しに慎重な立場から、以下の意見があった。

 ・ サービスの利用抑制の懸念や、質が高く適切なケアマネジメントの利用機会を確保する観点、障害者総合支援法における計画相談支援との整合性の観点から慎重に検討すべき。

 ・ 介護支援専門員は、本来業務であるケアマネジメントに付随して各種の生活支援等を行っているほか、公正・中立性が重視されている点などを踏まえると、利用者負担を求めている他の介護保険サービスとは異なるため、現行給付を維持すべき。

 

○ 一方で、見直しに積極的な立場から、以下の意見があった。

 ・ 介護費用が大幅に伸びていくなかで、サービス利用の定着状況や、ケアマネジメントの専門性の評価、利用者自身のケアプランに対する関心を高めることを通じた質の向上、施設サービスの利用者は実質的にケアマネジメントの費用を負担していることなどから、利用者負担を導入すべき。

 ・ 将来的なケアマネに対する財源確保や人材確保の観点からも、他のサービスと同様に利用者負担を求めることも一つの方向性としてあってもよいのではないか。

 

○ このほか、

 ・ ケアマネジメントについては、給付対象となるサービスの適用範囲の明確化やセルフケアプランの位置付けについても検討する必要がある

 ・ 今後増加する独り暮らしや認知症のある利用者の生活支援が継続的かつ総合的に行えるよう、環境整備が必要 との意見があった。

 

○ ケアマネジメントに関する給付の在り方については、利用者やケアマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡等も踏まえながら、包括的に検討を行い、10期計画期間の開始までの間に結論を出すことが適当である。

 

(軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方)

○ 総合事業は、既存の介護サービス事業者に加えて、NPOや民間企業等の多様な主体が介護予防や日常生活支援のサービスを総合的に実施できるようにすることで、市町村が地域の実情に応じたサービス提供を行えるようにすることを目的として、平成26年の介護保険法改正で創設された事業である。この改正により、要支援1・2の者の訪問介護と通所介護が、個別給付から総合事業へと移行された。

 

○ 総合事業の実施状況を見ると、6~7割の市町村において従前相当サービス以外のサービス(サービスA~D)のいずれかが実施され、訪問型サービスと通所型サービスの実施事業所の2~3割がサービスA~D(通所型にあってはA~C)を実施している。

 

○ このような中、改革工程表2021において、介護の軽度者への生活援助サービスに関する給付の在り方について、「介護の軽度者への生活援助サービス等の地域支援事業への移行を含めた方策について、令和元年度の関係審議会における審議結果を踏まえ、第9期介護保険事業計画期間に向けて、関係審議会等において結論を得るべく引き続き検討」することとされている。

 

○ 軽度者に対する給付の在り方について、介護保険部会における過去の議論も踏まえつつ、

① 総合事業の実施状況や介護保険の運営主体である市町村の意向、

② 認知症の者も多い要介護1・2の者について、その要介護状態に応じて必要となるサービスの質や内容、

③ 今後の介護サービス需要の大幅な増加や、訪問介護サービスで特に顕著である人材不足の状況を踏まえた見直しの必要性等

 

の観点から、どのように考えるか、議論を行った。

 

軽度者(要介護者1・2の者)に対する給付の見直し(軽度者の生活援助サービス等の地域支援事業への移行)について、見直しに慎重な立場から、以下の意見があった。

 ・ 現在の要支援者に関する各地域での対応状況を踏まえると、保険者や地域を中核とした受皿整備を進めることが必要で、時期尚早。

 ・ 総合事業の住民主体サービスが不十分で、地域ごとにばらつきがある中、効果的・効率的・安定的な取組は期待できない。

 ・ 軽度者とされる要介護1・2は認知症の方も大勢いることも含めて、要介護1・2の人たちに対する重度化防止の取組については、特に専門的な知識やスキルを持った専門職の関わりが不可欠であり、移行に反対。

 

○ 一方で、見直しに積極的な立場から、以下の意見があった。

 ・ 今後、人材や財源に限りがある中で、介護サービス需要の増加、生産年齢人口の急減に直面するため、専門的なサービスをより必要とする重度の方に給付を重点化することが必要であり、見直しを行うべき。

 ・ 今後の生産年齢人口減の時代を見据えて、専門職によるサービス提供の対象範囲と受け皿となるサービスの観点から、環境整備を検討すべき。地域の実情に合わせて実施したほうが効果的であると考えられるものは、保険給付の増加を抑制する観点からも地域支援事業へ移行すべき。

 

○ このほか、 

 住民の主体的な参画によるサービス活動の実施が当初の期待どおりに広がっていないのが現状であり、その要因を把握し、改善を図られるよう併せて検討すべき

 ・ 見直しの範囲について、移行対象として想定しているのは訪問介護や通所介護の全てなのか、あるいはこれらのうちの生活援助的なサービスのみなのかを考える必要がある

 ・ 地域の多様な主体によるステークホルダーによる柔軟なサービス提供をより充実していく観点からは、まず移行ありきではなくて、新規あるいは要介護認定を受けた方でも利用できるようにするなど、利用者の選択肢を見直して充実させることも考えていくべき

・ 利用者はもとより、介護保険の運営主体である市町村の意向を尊重すべきとの意見もあった。

 

○ 軽度者(要介護1・2の者)への生活援助サービス等に関する給付の在り方については、介護サービスの需要が増加する一方、介護人材の不足が見込まれる中で、現行の総合事業に関する評価・分析等を行いつつ、10期計画期間の開始までの間に、介護保険の運営主体である市町村の意向や利用者への影響等も踏まえながら、包括的に検討を行い、結論を出すことが適当である。

 

(3)被保険者・受給者範囲

 

○ 介護保険制度は、老化に伴う介護ニーズに適切に応えることを目的とし、被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と、40歳以上64歳以下の第2号被保険者からなる。

 

○ 制度創設以降、被保険者範囲・受給者範囲については、要介護となった理由や年齢の如何に関わらず介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、あわせて保険料を負担する層を拡大する「制度の普遍化」を目指すべきか、「高齢者の介護保険」を維持するかを中心に議論が行われてきた。

 

○ 令和2年介護保険制度改正における本部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」では、被保険者範囲の拡大について、「引き続き検討を行うことが適当である」とされた。

 

○ 被保険者範囲・受給者範囲について、今後の人口構成の変化、介護保険制度創設時の考え方や、これまでの議論の経緯を踏まえ、どのように考えるか、議論を行った。

 

○ 被保険者範囲・受給権者範囲については、第2号被保険者の対象年齢を引き下げることについて、

・ 若年層は子育て等に係る負担があること、受益と負担の関係性が希薄であることから反対、

・ 現役世代の負担を減らしていくことが必要であることから、まずは現行の制度の中で給付と負担に関する見直しを着実に実施することが先決

などの意見があった。

 

○ その一方で、

・ 将来的には、介護保険の被保険者範囲・受給者範囲を拡大して介護の普遍化を図るべき、

・ 高齢者の就業率の上昇や健康寿命の延伸、要介護認定率の状況等も踏まえながら第1号被保険者の対象年齢を引き上げる議論も必要、

・ 現実に40歳未満の若年層でも介護をしている実態があり、家族が介護保険サービスを受けることで安心して仕事の両立が図られるという面もあるのではないか、

などの意見もあり、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当である。

 

おわりに

 

○ 以上が、介護保険制度の見直しに関する本部会の意見である。

 

○ 厚生労働省においては、この意見書の内容を十分に踏まえて見直しの内容の具体化を図り、法改正が必要な事項については、関連法案を国会に提出するほか、運営基準や令和6年度介護報酬改定で対応すべき事項については、社会保障審議会介護給付費分科会での議論に付すなど、制度見直しのために必要な対応を速やかに講じられることを求めたい。その際、次期計画に向けて結論を得ることが適当とされた事項については、遅くとも来年夏までに結論を得るべく、引き続き本部会における議論を行う必要がある。

 

○ 今回の制度見直しは、全体として

 ・ 全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築に向けて、今後の医療・介護ニーズや人口動態の変化等を踏まえながら、医療提供体制に係る議論と軌を一にして、質の高い医療・介護を効率的に提供するための基盤整備を図ること

・ 次期計画期間内に迎えることになる2025年に向けた地域包括ケアシステムの構築及び地域共生社会の実現を目指す取組を更に加速化させること

85歳以上高齢者の急増に伴い介護サービス需要や介護給付費の急増が見込まれる一方、サービスの担い手である現役世代が急減していくという非常に厳しいフェーズに対応し、介護保険制度の財政的な持続可能性に加え、足下の介護人材確保と介護現場の生産性向上によりサービスの質の確保や基盤整備、職員の負担軽減を図り、サービス提供の持続可能性を高めることを目指すものである。

 

○ 市町村には、住民に最も身近な基礎自治体であり地域包括ケアシステムの構築を主導する存在として、保険料の徴収や要介護認定、給付としてのサービス基盤の整備など、狭い意味での保険者としての役割に加え、地域ニーズを的確に把握し、地域支援事業における地域づくりに資する様々な取組を主体的に推進する役割についても、保険者として果たしていくことを求めたい。また、小規模な自治体においては、行政のマンパワーも限られることから、市町村が上記の役割を果たすに当たっては、引き続き、国や都道府県による適切な支援を求めたい。

 

○ 都道府県には、上記の市町村の取組の支援を行うとともに、介護保険事業(支援)計画と医療計画、地域福祉計画、障害福祉計画その他の関連計画との整合性を確保し、広域的な観点から保健医療・福祉政策と有機的な連携を図りながら介護保険事業の運営に係る施策を進めることを求めたい。あわせて、介護人材の確保や、介護分野の生産性向上に向けた地域ぐるみの取組について、地域医療介護総合確保基金も活用しながら、主導的な役割を果たしていくことを求めたい。

 

○ 厚生労働省には、都道府県や市町村の適切な制度運営や取組の推進が図られるよう、保険者事務を支援するシステム基盤の整備や、全国の自治体で行われている効果的な取組に係る情報の収集とフィードバック、介護情報基盤の全国一元的な整備、個々の自治体への伴走型の支援などにより、都道府県、市町村を支援すると同時に、今般の制度見直しの趣旨や目的について、国民や制度に関わる関係者に対して、早急な周知とわかりやすい説明を求めたい。

 

○ 前回の本部会意見でも指摘したとおり、地域包括ケアシステムは、制度・分野の枠や、「支える側」「支えられる側」という関係を超えた包摂的な社会を目指す地域共生社会の実現に向けた中核的な基盤となり得るものである。例えば、地域包括ケアシステムの推進の中核となる地域支援事業のうち、総合事業の多様なサービスや一般介護予防事業における通いの場などでは地域住民の主体的な参画が欠かせない。こうした地域住民の制度上の位置付けについて、介護保険の被保険者、すなわち支援の客体としてだけでなく、地域づくりや日常生活の自立に向けた支援を担う主体としても観念することが重要であり、このことを法令上及び運用上、より明確に位置付けるよう検討することが適当である。

 

○ 高齢期になり、介護や医療など何らかの支援ニーズが生じるようになっても、個々の高齢者が自己決定に基づき、必要な支援を受けながらより良質な生活を希望する場所で送り続けられる社会を実現することは、今後の高齢社会において欠かせないものであり、高齢者の尊厳の保持と自立した日常生活を支援するため、保健医療福祉サービス等を提供する介護保険制度は、その根幹を支える重要な制度である。他方で、地域包括ケアシステムの深化・推進や、その先にある地域共生社会の実現により、希望する場所でいきいきと生活できる環境を実現するためには、制度的なアプローチだけでなく、高齢期を迎える前の段階から、個々人が老後の暮らし方について考えることも重要である。制度の在り方とともに、このような観点についても、国民へ幅広く周知・啓発を行うことが重要である。

 

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