介護保険施設等 運営指導マニュアル

2025/10/18

法規

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1. 確認文書の範囲と目的の限定に関する注意点

運営指導においては、指導の標準化・効率化を目的として、確認すべき文書の範囲が絞られています。

  • 確認項目及び確認文書に基づく実施:運営指導は、介護保険施設等指導指針に定められた確認項目および確認文書の範囲のものを中心に行われます。これらは、行政機関が運営指導を実施する上で確認すべき内容を絞った最低限のチェックポイントです。
  • 原則、確認文書以外の文書は求めない:確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認を行わないものとし、確認文書以外の文書は原則求めないものと定められています。
  • 例外的な文書要求:ただし、確認文書の内容に不備があるなど、確認文書だけでは確認項目が確認できない場合に限り、当該確認文書以外の文書等を提示等するよう施設等側に求めることが可能です。
  • 加算報酬に関する文書:各種加算に係る介護報酬請求の確認については、人員体制に関するもの等の他は、確認文書に限定せず、それぞれの要件にかかる文書等を求め、算定要件の適合状況を確認することになります。

2. 書類の種類と取り扱いに関する注意点

実際に確認する書類の種類や形式、利用者の個人情報保護について留意が必要です。

  • 一次資料の確認が基本:準備すべき書類等は、基本的には一次資料(原本)を想定しています。
  • 写し(二次資料)の使用:監査とは異なり、証拠書類等を見て適合性を確認する検査を行うわけではないため、写し等の複製されたもの(二次資料)であっても差し支えありません
  • 利用者情報の取り扱い:利用者に関する文書には個人情報が記載されているため、行政指導の任意性及び個人情報保護の観点から、現地において閲覧し、内容の確認を行うことが望ましいとされています。
    • 特に、個人情報保護法に規定する要配慮個人情報などに該当する場合があるため、行政機関として適切な取扱いを行うことが求められます。
  • 確認の対象期間:文書等の保存年限は2年から5年程度に定められていることが多いですが、運営指導においては、営指導を行う年度の前年度から直近(おおむね1月程度前まで)の実績に係るものを対象に確認することとしています。状況に応じ、その範囲の中で一部の期間のみを対象とすることも可能です。
  • 利用者記録の抽出確認:利用者へのサービスの質を確認するため、その記録等を確認する場合、特に必要と判断する場合を除き、対象は原則として3名以内とします。居宅介護支援事業所については、原則として介護支援専門員1人あたり1名~2名の利用者について記録等を確認することになっています。これは、一部を抽出して確認することで効率的に運営指導を実施するためです。

3. 事務負担軽減と効率化のための注意点

施設等側の事務負担を軽減し、効率的な運営指導を実現するための注意点も重要です。

  • 提出部数の限定:事前や当日に提出を求める資料(事前提出資料や勤務表等の写し等)については、行政機関の指導担当者の人数分を用意させるようなことはせず、提出は1部のみとすることを徹底します。
  • 既保有文書の再提出要求の回避:自治体が既に保有している文書(新規指定時、指定更新時及び変更時に提出されているもの等)については、運営指導にあたり確認が必要であれば既に保有している文書等を確認することとし、改めて提出を求めないようにします。
  • 電磁的記録の取り扱い:書面が電磁的記録により管理されている場合は、ディスプレイ上で内容を確認することとし、別途、印刷した書類等の準備や提出は求めないようにします。
    • 行政機関の担当者は、施設等側の担当者から説明を受けながら、ディスプレイ上に映し出された文書等を閲覧する方法で内容を確認します。
  • 書面指導の禁止:書面のみ(例えば自己点検シートの結果のみ)を根拠に指導を行う、いわゆる書面指導は廃止されています。行政機関が直接確認していない、正確な情報が不足しているかもしれない書面を確認するだけでは確認したことにはならず、適切な指導を行うことが困難なためです。運営指導では、確認文書を実際に見て確認し、管理者等の話を聞くことが必要です。
  • 事前提出資料の限定:事前提出資料を求める場合、運営指導の円滑な実施に資する目的であっても、必要最小限の情報に限定し、相手方の負担とならないよう注意が必要です。また、既に提出されている情報や介護サービス情報公表システム等で得られる情報は改めて提出を求める必要はありません。

4. 疑義が生じた場合の注意点

文書の確認中に問題が発見された場合、行政指導の範囲を超えないよう注意が必要です。

  • 不正の疑いがある場合の監査への変更:運営指導の過程で、保存すべき文書等がない等の不明な点が見つかり、過去の状況を確認せざるを得なくなった場合、法令違反や不正な行為が行われている可能性があるため、事実関係を確認するため監査を実施する必要があります。
  • 運営基準違反と報酬返還の関係:運営基準に規定するサービス提供記録がないという事実だけでは、基本報酬の返還を求める根拠にはならないことに注意が必要です。返還が必要になるのは、あくまで報酬基準に違反しているからです。


1. 行政指導の基本的な原則と限界に関する注意点

行政指導は、行政手続法第32条に基づくものであり、その性質上、法律上の強制力を有する処分行為ではありません。この原則を踏まえ、以下の点に留意が必要です。

  • 任意の協力に基づく実施:指導の内容は、あくまでも相手方(介護保険施設等)の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければなりません。
  • 権限範囲の逸脱禁止:行政指導に携わる者は、行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはなりません。
  • 不利益な取扱いの禁止:行政指導に従わなかったことのみを理由として、行政処分(不利益処分)を行うことはできません。指導に従わなかった場合でも、その理由を分析し、法令違反や不正の疑いがある場合に限り、監査を実施して事実関係を明確にした上で、公正かつ適切な措置をとる必要があります。
  • 根拠の明確化と十分な説明:具体的な指導を行う場合は、その根拠を示すとともに、十分な説明を行い、相手方の理解を得ることが必要です。根拠のない行政指導は、指導担当者の主観的な思い付きと捉えられかねないため、厳に注意が必要です。
  • 支援と育成が目的:指導は、介護保険施設等が適正な運営を行うことができるよう支援し、自ら法令や基準等を守ることができるよう育成するという観点から行われます。指導の場においては、介護保険施設等に対する支援につながる指導を行うことが求められます。

2. 指導担当者の態度と指導の実施方法に関する注意点

運営指導を行う行政側の担当職員の態度や方法についても、行き過ぎた指導とならないよう具体的な留意事項が定められています。

  • 指導担当者の高圧的な態度の禁止:運営指導において、相手方に対して高圧的ととられる態度を示したり、そのような言葉遣いをすることは許されません。行政機関は法に基づく権限を行使しているに過ぎず、高圧的な態度は行政機関としての信頼性を著しく欠く要因となります。
  • 主観に基づく指導の排除:行政指導には明確な根拠が必要であり、行政側担当職員の主観に基づく指導は排除されなければなりません
  • 統一的な指導方針の徹底:根拠なく前回の指導内容と大きく異なる指導を行わないことも重要であり、これはローカルルール(許容できない独自のルール)の要因となることを避けるためです。
  • 懇切丁寧な説明:個々の指導内容については、具体的な状況や理由を聴取した上で、根拠規定やその趣旨・目的等について懇切丁寧な説明を行う必要があります。

3. 事務負担の軽減と効率化に関する注意点

指導の効率化と標準化は、介護保険施設等と自治体双方の負担軽減を目指すものであり、過度な負担を強いる指導は避けるべきとされています。

  • 時間厳守と時間外労働の回避:運営指導に費やす時間は、基本的に相手方の日中の通常の勤務時間にあわせるべきであり、確認が終わらないことを理由に相手方に時間外勤務を強いることはできません。また、運営指導の所要時間は、計画した所要時間を超えないよう注意し、複数の指導を分けて実施する場合でも、合計時間が過大にならないように計画・実施する必要があります。
  • 確認範囲の限定:運営指導においては、確認項目及び確認文書を、標準化・効率化の観点から確認すべき内容に絞った最低限のチェックポイントとしています。確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認を行わないものとし、確認文書以外の文書は原則求めないものとされています。
  • 書面指導の廃止:書面のみで情報不足のまま指導を行う「書面指導」は廃止されています。自己点検シートの提出のみをもって運営指導とすることは、適切な指導を行う上で困難であり、書面指導と変わらないため避けるべきです。
  • 提出資料の最小限化:介護保険施設等の事務負担軽減のため、事前や当日に提出を求める資料は行政機関の指導担当者の人数分を用意させるようなことはせず、提出は1部のみとすることを徹底します。また、自治体が既に保有している文書は、改めて提出を求めないようにします。
  • 電磁的記録の活用:文書等を電磁的記録により管理している場合は、ディスプレイ上で内容を確認することとし、別途、印刷した書類等の準備や提出は求めないようにします。また、遠隔での運営指導を行う場合、行政機関と施設双方の過大な事務負担とならないようにしなくてはならず、運営指導を行うこと自体を目的化し行政機関の事務の軽減のみを狙ったオンラインの活用も許されません

これらの注意点は、行政指導が、単なる取り締まりではなく、サービスの質の確保と保険給付の適正化を図るための「支援及び育成」であることを前提としています。

介護保険施設等 運営指導マニュアル

03 <溶け込み>改正後全文(介護保険施設等指導マニュアル)

令和 4 年3月策定 令和6年7月改訂 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室

は じ め に 介護保険施設等に対する指導については、適正な制度運用を図る観点から極めて重要であり、その実施に当たっては、介護保険施設等に対する支援として行うことを基本としておりますが、近年、特にその実施方法の標準化や効率的な実施が求められています。 そこで、指導の標準化・効率化の実現を図り、適切な指導を行うための参考となるよう、令和2年度 老人保健健康増進等事業「介護保険施設等実地指導マニュアルの在り方に関する調査研究報告書」(令和3(2021)年 3 月 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター)を基に「介護保険施設等運営指導マニュアル」を作成し、具体的な指導の実施方法等について解説することといたしました。 本マニュアルでは、「Ⅰ 基本編」として指導に関する基本的な考え方をお示しし、「Ⅱ 実践編」では具体的な指導の実施方法等について解説しておりますが、今後、自治体等からの御意見や実施方法の具体例等があれば、検討の上、随時内容に反映させていきたいと考えております。 本マニュアルが、介護保険施設等に対し、適切な指導を行うための一助となれば幸いです。 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室

目次 Ⅰ 基本編 .............................................................................................................. 1 第1章 介護保険制度における指導監督 .......................................................... 1 第1節 指導と監査........................................................................................ 1 第2節 指導の目的........................................................................................ 2 第3節 指導の根拠........................................................................................ 3 第2章 指導による介護保険施設等の支援・育成 ........................................... 6 第1節 指導の形態等 .................................................................................... 6 第2節 集団指導 ........................................................................................... 7 第3節 運営指導 ........................................................................................... 9 第3章 実施後の措置...................................................................................... 16 第1節 集団指導 ......................................................................................... 16 第2節 運営指導 ......................................................................................... 17 第4章 監査への変更...................................................................................... 21 第1節 監査 ................................................................................................. 21 第2節 監査への変更の契機 ....................................................................... 22 Ⅱ 実践編 ............................................................................................................ 24 第1章 指導の実施計画等 .............................................................................. 24 第1節 指導要綱等の策定 .......................................................................... 24 第2節 実施方針の策定 .............................................................................. 24 第3節 集団指導の実施計画 ....................................................................... 25 第4節 運営指導の実施計画 ....................................................................... 26 第2章 集団指導の実施 .................................................................................. 29 第1節 実施通知 ......................................................................................... 29 第2節 集団指導の実施 .............................................................................. 30 第3章 運営指導の実施 .................................................................................. 31 第1節 実施通知 ......................................................................................... 31 第2節 事前準備 .................................................iger................................... 33 第3節 運営指導の当日 .............................................................................. 34 第4節 介護サービスの実施状況指導 ........................................................ 35 第5節 最低基準等運営体制指導 ............................................................... 49 第6節 報酬請求指導 .................................................................................. 52 第7節 運営指導実施後の対応 ................................................................... 53 第8節 運営指導を行う側として ............................................................... 55 第4章 指導の標準化・効率化について ........................................................ 56 別添 確認項目及び確認文書 1

Ⅰ 基本編

第1章 介護保険制度における指導監督 第1節 指導と監査 1 指導監督の全体像 社会全体で老後の安心を支えるため、平成9年に成立した介護保険法(平成9年法律第123号)(以下「法」という。)に基づき平成12年に創設された介護保険制度は、制度開始から20年以上経過し、今や高齢者の介護になくてはならないものとなっています。また今後も、総人口に占める高齢者の割合は増加していき、認知症高齢者や単身世帯の増加等、更なる介護需要の増大が見込まれます。 法第1条にはその目的として介護等が必要な人の「尊厳の保持」及び「自立した日常生活の支援」が謳われており、介護保険制度に基づく実際のサービスの担い手である介護保険施設等1は、利用者(施設入所者等を含む。以下同じ。)に対し、これらの目的を果たすよう適切にサービスを行わなくてはなりませんが、国や自治体等の行政機関は、これらの責任を担う介護保険施設等が適正にサービスを行うことができるよう支援する必要があります。 介護保険制度における指導監督は、介護保険制度の健全かつ適正な運営及び法令に基づく適正な事業実施の確保のため、法第23条又は法第24条に規定する権限を行使し介護保険施設等指導指針2に基づき行う介護保険施設等に対する「指導」と、不正等の疑いが認められる場合に行う法第76条等3の権限を行使し介護保険施設等監査指針4に基づき行う介護保険施設等に対する「監査」により行われます。 1 指定居宅介護サービス事業者、指定地域密着型サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、指定介護予防サービス事業者、指定地域密着型介護予防サービス事業者、指定介護予防支援事業者 2 介護保険施設等の指導監督について(令和4年3月31日老発0331第6号 厚生労働省老健局長通知)別添1 3 法第76条、第78条の7、第83条、第90条、第100条、第114条の2、第115条の7、第115条の17、第115条の27に基づく報告等(立入検査を含む)の権限 4 介護保険施設等の指導監督について(令和4年3月31日老発0331第6号 厚生労働省老健局長通知)別添2 2

第2節 指導の目的 1 サービスの質の確保と保険給付の適正化 介護保険制度において、サービスの直接的な担い手である介護保険施設等には、利用者の尊厳を守り、かつ質の高いサービス提供が求められています。国及び地方自治体は、指導により、介護保険施設等が適正なサービスを行うことができるよう支援し、「介護給付等対象サービスの取扱い」及び「介護報酬の請求」に関する「周知の徹底」を図り、「サービスの質の確保」や「保険給付の適正化」が果たされるよう努めなければなりません。 なお、介護保険施設等には法令等遵守のための業務管理体制5を構築する義務があり、自ら法令等(運営基準6や報酬基準7を含む)を遵守する責任があります。 5 介護保険法第115条の32(業務管理体制の整備等) 6「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)」など、サービスを行うために守るべき基準に関する厚生労働省令及び解釈通知等をいう。 7 「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成11年厚生省告示第19号)」など、介護報酬の算定方法に関する厚生労働省告示及び解釈通知等をいう。 3 2 指導は行政指導 指導とは、文字通り行政が行う指導、つまり、行政手続法(平成5年法律第88号)第32条に基づく行政指導であり、行政機関が相手方に一定の作為又は不作為を行わせようとする行為です。 行政指導は、法律上の拘束力を有する手段によって求める内容を実現しようとする処分行為ではなく、あくまで相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることから、強制力はありません。介護保険施設等の側に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合又はそのおそれがある場合は、監査を行い違反等の事実関係を明確にした上で、運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合は、公正かつ適切な措置として、勧告8又は指定取消等の行政処分を行う必要があります。 なお、行政手続法第32条第2項の規定により、行政指導に従わなかったことのみを理由に行政処分(不利益処分)を行うことはできないことに留意する必要があります。

【参照条文】 行政手続法(平成5年法律第88号) (行政指導の一般原則) 第32条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。 2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

介護保険施設等が行政指導に従わなかった場合は、その理由等を分析し、対応を十分検討しなくてはなりません。介護保険施設等の側に何らかの法令違反等があるかその疑いがあると認められる場合は、監査9を行った上で、事実関係を明確にし、公正かつ適切な措置をとる必要があります。 8 勧告は行政指導であり、人員や運営基準違反等、勧告内容は法律により限定されている。そのため、返還金の徴収や報酬請求誤りによる過誤調整の求め等については勧告できない。なお、勧告に従わない場合は勧告に従うよう命令(行政処分)を行うことになる。 9 監査において行う立入検査等の権限は行政手続法上の不利益処分ではない。 4

第3節 指導の根拠 1 行政調査の権限 介護保険施設等に対する指導は、行政機関が法第23条又は法第24条に規定されている権限、つまり、文書や物件の提示や提出の求めや質問等により行政調査を行って、指導の対象とした介護保険施設等の情報を集め、その結果を基に行うことになります。なお、立入検査の権限は法第76条等に規定されていますが、法第23条又は法第24条には情報を集めるための権限のみが規定されていて、立入検査の権限については規定していません。 つまり、法第23条又は法第24条では、情報を集めることは可能ですが、基準等の適合状況について調べるために行政機関が行う法的な根拠に基づく立入検査を行うことはできません。そのため法第23条又は法第24条に基づく調査及びそれに基づく指導を行う場合は、あくまでも相手方の任意の協力の下に行われる行政指導に変わりはなく、何らかの具体的な指導を行う場合は、その根拠を示すとともに十分な説明を行い、相手方の理解を得ることが必要です。

【参照条文】 介護保険法(平成9年法律第123号) (文書の提出等) 第二十三条 市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係る居宅サービス等(居宅サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密着型サービス(これに相当するサービスを含む。)、居宅介護支援(これに相当するサービスを含む。)、施設サービス、介護予防サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密着型介護予防サービス(これに相当するサービスを含む。)若しくは介護予防支援(これに相当するサービスを含む。)をいう。以下同じ。)を担当する者若しくは保険給付に係る第四十五条第一項に規定する住宅改修を行う者又はこれらの者であった者(第二十四条の二第一項第一号において「照会等対象者」という。)に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる。 (帳簿書類の提示等) 第二十四条 厚生労働大臣又は都道府県知事は、介護給付等(居宅介護住宅改修費の支給及び介護予防住宅改修費の支給を除く。次項及び第二百八条において同じ。)に関して必要があると認めるときは、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った居宅サービス等に関し、報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録、帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員に質問させることができる。 2 厚生労働大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、介護給付等を受けた被保険者又は被保険者であった者に対し、当該介護給付等に係る居宅サービス等(以下「介護給付等対象サービス」という。)の内容に関し、報告を命じ、又は当該職員に質問させることができる。 3 前二項の規定による質問を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係人の請求があるときは、これを提示しなければならない。 4 第一項及び第二項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。 5

2 行政調査に基づく指導 法第23条又は法第24条に規定する文書や物件の提示や提出の求めや質問等の調査権限は、行政手続法第32条の行政指導の一般原則から除外された(行政手続法第3条第1項第14号)事実上の行為又は事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするための法令上の手続(=行政調査)であり、行政機関はこれにより情報を収集した結果に基づき必要な行政指導を行います。また、これらの行政調査の権限の種類は法に限定列挙されているため、これら以外の行為はできません。 例えば、法第23条により指導を行う場合、文書その他の物件の提出・提示の求め又は依頼の権限を行使するということは、あらかじめ行政機関から徴すべき内容を指定した文書等(自己点検シート等)で事前に提出を求めるものと、介護保険施設等に所在する文書その他の物件(原本、現物)といった指導の当日に求めるもの、これらの内容を確認するということになります。 一方、法第24条は、実務的には法第23条によるものと相違はありませんが、報告は、行政機関が確認したい事項について、介護保険施設等に対し、文書若しくは口頭で行政機関に説明することを求める行為で、指導当日若しくは事前提出資料や自己点検シート等であらかじめ報告内容を指定する場合もあります。ただ、何をどのように報告するのかについては介護保険施設等の側に委ねられることから、それらの内容を確認するためには、介護保険施設等に所在する帳簿書類等を確認することが必要となります。 なお、集団指導(後述)は、個別の介護保険施設等を対象に行う行政指導ではないため、報告等の権限を行使しない場合は、実態としては行政手続法第36条に基づく複数の者を対象とする行政指導として実施することになります。 6

第2章 指導による介護保険施設等の支援・育成 第1節 指導の形態等 1 指導の方法 指導の方法には、集団指導と運営指導とがあり、いずれも介護保険施設等の適正な運営の確保のために行う支援及び育成の観点から行われるものです。 集団指導は、正確な情報の伝達・共有による不正等の行為の未然防止を目標としており、いわば介護保険施設等に対し情報のインプットを図るものです。つまり、介護保険施設等が介護保険制度に基づくサービスを適正に行うためには、正確な情報が必要となるため、行政機関は、必要な情報の発信及び伝達について、漏れの無いように確実かつ一斉に行う必要があります。 一方、運営指導は、介護保険施設等ごとに、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況等の確認のため、原則、実地に行うものです。また、運営指導は、集団指導で発信及び伝達した情報が確実に介護保険施設等の側に届いているか確かめる機会、つまり、介護保険施設等が行うサービスについて、日々のサービスで正しくアウトプットができているか確認する機会であるともいえます。 このように集団指導と運営指導は、指導という車の両輪であり、特に集団指導により情報のインプットを確実に行うことで、運営指導が効果的に行うことができるものと考えられます。 2 介護保険施設等に対する支援及び育成 介護保険施設等においては、それぞれが構築した業務管理体制10に基づき、自ら法令や基準等のルールを遵守することが求められますが、行政機関は、指導が相手方の任意の協力によってのみ実現される行政指導であることを踏まえると、介護保険施設等が法令等を遵守し適正にサービスを行うことができるよう支援し、自ら法令や基準等のルールを遵守しようとする介護保険施設等の育成を図っていくという役割を担っています。その結果として介護保険施設等が行うサービスの質の向上が図られ、よりよいケアの実現が図られるものと考えられます。 また、指導を行う根拠となる法第23条又は法第24条の権限の行使は、相手方の情報を収集するという行政調査であり、それに基づく指導は行政指導であることから、そもそも違法行為の取り締まりのために行うものではなく、またそれも不可能です。特に法第24条の権限は、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者がそれに従わない場合等においては罰則が適用されることもある(法第213条)かわりに、当該権限は犯罪捜査のため認められたものと解釈してはならないとされていることに注意が必要です(法第24条第4項)。行政機関は、指導の場においては、介護保険施設等に対する支援につながる指導を行うことが求められます。 10 介護保険法第115条の32 8

第2節 集団指導 1 集団指導の実施主体と対象 集団指導は、行政指導であるため、都道府県又は市町村が主体となり実施するもので、都道府県又は市町村の単独での実施や、他自治体との合同実施も可能です。また、参加者は管理者等の現場責任者が相応しいものと考えられます。開催方法としては、例えば他団体等との共催や、事業者向け研修等との合同開催も考えられますが、都道府県又は市町村担当者が介護保険施設等に対して行う説明は、すべてが行政指導となるため、その参加者がどのような業務を担当しているのか等を考慮し、行政指導の場として相応しい場であるかよく検討しましょう。 なお、対象は、指定又は許可の権限を持つ全ての介護保険施設等となりますが、法第71条に基づくいわゆるみなし規定により法第41条に基づく指定があったものとみなされた居宅サービスを提供し介護報酬を請求している(予定も含む)保険医療機関又は保険薬局についても含まれます。 2 集団指導の実施頻度と内容 集団指導は、年1回以上行います。例えば、一度ではなく場所や時期を分散させての複数回実施、新規指定や管理者の変更があった介護保険施設等を対象として別途実施するという形も考えられます。集団指導は、地域の実情にあった形で工夫して行うことが必要です。 また、内容は参加者が参加する意味のあるものとなるように、介護給付等対象サービスの取扱い、介護報酬請求の内容、制度改正内容、高齢者虐待事案をはじめとした過去の指導事例等を中心にカリキュラムを検討しましょう。 3 集団指導の方法 (1)講習等の方法 講習等による場合は、特定の日時と場所を、集団指導を主催する自治体が決めて行うことになりますが、参加が見込まれる人数等、想定した規模を超えないよう注意しましょう。また、講習等による場合は、行政機関からの説明が主になりますが、介護保険施設等の支援・育成の観点から、質疑応答時間を確保する等、参加者との対話が図られる環境を確保することが重要です。当日にすべての質問に答えるのが困難な場合は、後日に回答する等、参加者からの質問に対しては必ず対応するようにしましょう。 なお、参加者の出欠状況については必ず把握するとともに、欠席者には関係資料を送付する等(自治体ホームページへの資料掲載の場合はダウンロードを促す等の方法も含む)により、集団指導の内容を必ず伝えましょう。 (2)オンライン等の活用 この集団指導は、基本的には介護保険施設等の管理者等を一か所に集合させて行うことを想定していますが、オンライン等の活用、つまり自治体のホームページへの資料の掲載や説明動画の配信等による実施も可能です。ただし、集団指導はあくまでも行政指導であることから、情報の伝達漏れを防ぐため、資料の閲覧や動画の視聴状況の把握が必要です。不参加者に対しては、使用した資料の送付や説明動画のホームページ掲載であればそのURL を周知する等、集団指導の内容を確実に伝達するとともに、資料の閲覧や動画の視聴がなされたことの確認が必要です。なお、オンライン等の活用により集団指導を行う場合であっても、参加者からの質問には必ず答えるようにしましょう。 9

第3節 運営指導 1 運営指導の実施主体と対象 (1)運営指導の実施 運営指導は、都道府県又は市町村が主体となり、都道府県又は市町村がその指定、許可の権限を持つ全ての介護保険施設等を対象に、計画的、かつ個別に原則実地により行います。 また、法第71条に基づくいわゆるみなし規定により法第41条に基づく指定があったものとみなされた居宅サービスを提供する保険医療機関又は保険薬局に係る考え方については集団指導と同様です。 また、区域外から指定を受けている地域密着型サービス(予防含む)の事業所については、所在地の市町村において計画的に運営指導が行われるべきですが、必要に応じ、区域外指定を行っている市町村と共同して運営指導を行う等の連携が必要です。 (2)運営指導の形態 運営指導は、自治体単独で行う一般指導という形と、厚生労働省及び都道府県又は市町村、都道府県及び市町村が合同で行う合同指導という形があります。 一般指導は、法第23条又は法第24条に基づき、当該介護保険施設等に対し自治体単独で実施頻度や個別事由を勘案し、毎年度、計画的に実施するものです。 一方、合同指導については、厚生労働省が都道府県又は市町村と合同指導を行う場合は、法第197条第2項に基づく報告徴収等と併せて実施することとしており、厚生労働省が都道府県又は市町村と調整し計画します。また、都道府県が市町村と合同指導を行う場合についても、同条第3項に基づく都道府県知事の市町村長に対する報告徴収等と併せて実施することが望ましいものといえます。 なお、合同指導であっても、厚生労働省又は都道府県が実施する場合は法第24条、市町村が実施する場合は法第23条に基づき運営指導を実施します。 2 運営指導の方法 (1)実施方法 運営指導は、原則、介護保険施設等の関係者から関係書類等を基に説明を求め面談方式で行います。法第23条又は法第24条に基づく権限は、行政機関が情報を収集するために行うもの、つまり、これらの権限は行政機関が介護保険施設等に情報を出すように求める性質のものであることから、行政機関は、必要な情報を持っている介護保険施設等の側から関係書類等の提出等を受けるとともに、事業の運営状況や法令等への適合状況について説明を受けることになります。これらの権限は、行政機関自身が検査するという立入検査ではないため、介護保険施設等からの説明により内容の確認を行うという形になります。 なお、運営指導は実地に行うことを想定していますが、施設・設備や利用者の状況以外の実地でなくても確認できる内容(後述の「最低基準等運営体制指導」及び「報酬請求指導」に限る。以下同じ。)の全部又は一部事項にかかる確認については、情報セキュリティの確保を前提としてオンライン等(オンライン会議システムや自治体ホームページ等)を活用することが可能です。 ただし、これには介護保険施設等の理解が必要であるとともに過度な負担とならないよう十分に配慮しなければなりません。例えば、オンライン会議システム等を活用すれば行政機関と介護保険施設等側とで即時での対話が非接触により可能ですが、この方法の導入にあたっての必要な設備の整備等については、介護保険施設等側の過度な負担とならないよう配慮しなければなりません。また、確認文書を確認する場合における、それらの共有方法について、遠隔で行う場合は、セキュリティの確保は当然のことですが、介護保険施設等に対して大量のコピーを求める等の過剰な手間を発生させないよう、また、当該方法を強制させることのないよう、実施方法については十分な配慮が必要です。 なお、実地でなくても確認できる内容について、オンライン会議システム等を活用しない、遠隔による非接触によらない方法、つまり、指導対象の介護保険施設等以外の場所を設定し、対面で運営指導を行うことも可能ということにまりますが、確認文書の運搬に十分注意し漏洩等がないように取扱いには十分注意しなければなりません。ただ、感染症等の発生により、人と人との接触に懸念がある場合は、そもそも対面による方法は避けるべきです。 (2)介護保険施設等による自己点検 当該年度の運営指導の実施に当たっては、事前に集団指導を受けていることが望ましく、さらに基準等への適合性に関しては、介護保険施設等自身による自己点検が行われることが望ましいといえます。特に法第115条の32に基づき届け出ている業務管理体制における法令遵守責任者は、法令等遵守が果たされるよう取り組む責任があり、法令遵守責任者の指揮の下で自己点検を行うことが期待されます。 運営指導においては、少なくとも介護保険施設等指導指針に定める確認項目及び確認文書(内容の詳細は本マニュアルで設定。別添を参照。)の範囲のものについては、介護保険施設等自身で点検すべきものです。 ただし、本来、介護保険施設等が遵守すべき法令等は確認項目及び確認文書で取り上げた内容だけでなく、介護保険法にまつわる全ての法令通知等であることは言うまでもありません。 行政機関は、まずは介護保険施設等が自らの意思で自己点検を行うことができるよう支援を行う必要があります。 (3)確認項目及び確認文書 別添「確認項目及び確認文書」を定めた目的は、介護保険施設等の増加や自治体間での確認項目や実施状況の差異の解消のため、運営指導の標準化や効率化を図る必要があり、それにより多くの事業所に対して運営指導を行うことでサービスの質の確保や利用者の保護を図ることです。 このような趣旨から、確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認を行わないものとし、確認文書以外の文書は原則求めないものと介護保険施設等指導指針において定めており、これらに基づき運営指導が行われることが求められます。 ただし、内容に不備がある等、確認文書では確認項目が確認できない場合は、当該確認文書以外の文書等を提示等するよう介護保険施設等側に求めることは可能です。 また、本マニュアルで定めた確認項目及び確認文書には、各項目について、個別サービスの質を確認する事項と、個別サービスの質を確保するための介護保険施設等における必要な体制状況を確認する事項の二つのカテゴリーがあります。 前者は、適切なケアマネジメント・プロセスに基づいたサービスが提供され、かつ高齢者虐待や適切な手続きを経ていない身体的拘束等(身体拘束及びその他の制限。以下同じ。)が行われていない状況かどうかに着目し利用者へ行うサービスの適正性を確認するものです。また、後者は、利用者に対し適切なサービスが行われるよう、介護保険施設等としての体制を確認するものです。 なお、各種加算に係る介護報酬請求の確認等に関しては、人員体制に関するもの等の他は、確認文書に限定せず、それぞれの要件にかかる文書等を求め、それにより算定要件の適合状況を確認することになります。 以上のとおり、確認項目及び確認文書は、行政機関が運営指導を実施する上で、その方法等の標準化及び効率化を図るために確認すべき内容を絞った最低限のチェックポイントです。運営指導の過程で確認項目及び確認文書以外の部分で各種サービス毎の基準等に違反している状況が著しいことが認められた場合は、違反が運営全体に及んでいる可能性も否定できないため、監査を行い、事実関係を確認します。 3 運営指導の内容 (1)介護サービスの実施状況指導 運営指導のうち、主として利用者に対するサービスの質を確認するために行う指導で、確認項目及び確認文書のうち、主に個別サービスの質を確認する事項について、実地に確認し必要な指導を行うものです。 この指導では、確認項目及び確認文書によるケアマネジメント・プロセスに基づくサービス実施の確認の他、特に施設系サービスや居住系サービス、通所系サービスにおいては、サービスを受ける利用者の生活実態の把握により、サービスの適正性の確認や高齢者虐待及び適切な手続きを経ていない身体的拘束等の発見や防止について、行政機関の担当者が現場で実態を目視し、関係者から状況を聴取することにより確認することを想定しています。 また、確認項目及び確認文書の中で施設又は設備について規定のあるサービス種別の場合は、それらは現地に行かなければ確認できないことから、それらについても併せて確認を行います。 なお、利用者に関する文書は、介護保険施設等に保存されていますが、行政指導の任意性及び個人情報保護の観点から、現地において閲覧し、内容の確認を行うことが望ましく、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(以下「個人情報保護法」という。)に規定する個人情報11の提出を受け保有個人情報12とする場合についても、それらが個人情報保護法に規定する要配慮個人情報13又は条例要配慮情報14に該当する場合があることから、行政機関として適切な取扱いを行うことが求められます。 11 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第1項 12 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第 60 条第 1 項 13 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第3項 14 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第 60 条第 5 項 (2)最低基準等運営体制指導 この指導は、サービス種別毎の基準等に規定する運営体制を確認するために行う指導で、確認項目及び確認文書のうち、個別サービスの質を確保するための体制に関する事項について確認し必要な指導を行うものです。 この指導でも、確認項目及び確認文書により運営体制の確認を実地に行うことを想定していますが、上記(1)の指導とは異なり、確認項目及び確認文書の全部又は一部について、現場に行かなくても確認可能と判断できる場合は、実地以外の方法、2(1)のとおり、オンライン会議システム等を活用することが可能です。 (3)報酬請求指導 この指導は、報酬基準に基づき介護保険給付の適正な事務処理を支援し、要件に適合した加算に基づくサービスの実施を支援することにより、不正請求の防止と制度管理の適正化を図ることを目的として、それによりサービスの質の確保やよりよいケアの実現を目指すものです。具体的には、主として介護保険施設等が届出等で実施する各種加算に関する算定及び請求状況について確認します。一部の確認文書を活用し確認できる場合もありますが、基本的には基準等に定められている各種加算等の算定要件にかかる文書等により、その適合性について確認します。 また、加算報酬の請求については、その算定要件が満たされていても、取扱いが不十分である場合は、正しい理解に基づく取扱いをするよう改善指導を行う必要があります。 この指導でも、基本的には実地に確認を行うことを想定していますが、現場に行かなくても確認可能と判断できる場合は、実地以外の方法、上記(2)の指導と同様に、オンライン会議システム等を活用することが可能です。 なお、介護報酬の基本報酬部分については、算定している単位数が実際のサービスに相応したものであるか確認します。 (4)各指導の実施方法等 上記(1)~(3)の指導はこれまでと同様に、通常は同時に実施することを想定していますが、指導事務の効率化や効果、緊急性等を勘案し、それぞれ別の時期に実施することも可能です。 例えば、上記(1)~(3)の指導に優先順位を付け、いずれかを集中して実施することとし、それぞれを当該年度内又は年度ごとに実施するような場合、また、感染症等の流行により当該年度に実地に行うことができない場合に実地が必要な上記(1)を次年度以降に延期し、(2)及び(3)についてのみ介護保険施設等による自己点検の実施と実地以外の方法(オンライン会議システム等の活用等)で確認項目及び確認文書に基づく指導を行う等の方法が考えられますが、延期した(1)の実地による指導についても、状況が改善した場合は、追って実施することが必要です。 つまり、上記(1)~(3)の指導については、一の介護保険施設等に対し実施時期を分けた場合、3種類全ての指導を実施した場合に運営指導の実績があったものと考えます。 4 運営指導の実施頻度 運営指導は、原則として指定又は許可の有効期間内に少なくとも1回以上、指導の対象となる介護保険施設等について行います。この実施頻度については、介護保険施設等の数等の地域の状況や必要性等に照らして、当該期間内の実施回数を増やすこと(毎年次、新規指定時、更新時、報酬改定時等)も可能です。なお、居宅サービスのうちの居住系サービス、地域密着型サービス(居住系サービス又は施設系サービスに限る。)、施設サービスについては、これらが利用者の生活の場であること等を重視し、3年に1回以上の頻度で行うことが望ましいものと考えます。

〈3年に1回以上の実施が望ましい介護保険施設等〉

サービスの分類介護保険施設等の種類
居住系サービス(地域密着型サービスを含む)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護
施設系サービス (地域密着型サービス)地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
施設サービス介護老人福祉施設、老人保健施設、介護医療院

5 運営指導に関する留意点 (1)運営指導の実施通知 運営指導は、介護保険施設等の支援が大きな目的であることから、計画的に実施すべきものです。そのため介護保険施設等の側の対応者の勤務状況等を考慮し、実施予定日のおおむね1月以上前までに当該介護保険施設等に対し実施する旨の通知を行います。 なお、緊急時等、必要に応じ速やかな状況確認が必要な場合、事前に通知を行うことなく、運営指導開始時に文書により通知することで運営指導を実施することも可能ですが、法第23条又は法第24条に基づく運営指導は、あくまでも相手の任意の協力を前提に行われる行政指導であることに注意が必要です。 また、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)(以下「高齢者虐待防止法」という。)に基づき市町村が虐待有と認めた場合若しくは高齢者虐待等により利用者の生命又は身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあると認められる場合(以下「人格尊重義務違反」という。)は、法第23条又は法第24条に基づく運営指導ではなく、事前に通告を行うことなく速やかに監査(立入検査等)を行い事実関係の確認が必要です。 (2)書面指導の廃止 いわゆる書面指導については、平成18年度以降の介護保険施設等指導指針で廃止しています。ここでいう書面指導とは、行政機関が指定した様式を使い、指定した内容について書面に記入し、それを報告させ、それのみをもって指導(行政指導)を行うことを想定しています。 このような書面指導は、報告や文書の提示を求めることについては適切な行政行為ですが、書面のみで、介護保険施設等が所有又は保管している文書や物件、帳簿書類等を実際に見ないままでは情報が不足しているため適切な指導を行うことは困難です。 また、介護保険施設等に対し書面の作成を求めて提出させることになれば、介護保険施設等の側では指定された書面の作成業務が生じ、行政機関でも書面の確認作業が生じますが、行政機関が直接確認していない、正確な情報が不足しているかもしれない書面を確認するだけでは確認したことにはなりません。 業務省力化や効率化の観点からも、書面から得られる情報のみを根拠とした指導は行わないようにしましょう。 一方、介護保険施設等が自ら行う自己点検については、自己点検が行いやすいよう、行政機関が自己点検シートのようなチェック表を示し、運営指導前に自己点検させ、それを提出させるということが一般に行われています。しかし、自己点検シートの提出のみをもって運営指導を行った又は自己点検シートの結果のみを根拠に運営指導を行う、というやり方では、上記の書面指導と変わらないということになります。運営指導においては、施設・設備や、確認文書を実際に見て確認し、管理者等の話を聞き、その上で指導することが必要です。 (3)運営指導の効率的な実施 運営指導には効率的な実施が求められており、所要時間の短縮が必須となっています。運営指導においては、確認すべき内容を確認項目及び確認文書に絞ることや加算報酬について自己点検を励行する等により、一の介護保険施設等当たりの所要時間の短縮につながるよう工夫が必要です。これは、介護保険施設等と自治体双方の負担を軽減することにもつながり、運営指導の実施頻度の向上を図り、運営指導の効率的実施に資するものです。 なお、運営指導の3種類の指導について、時期を変えて行う場合の所要時間の合計と、それらを併せて同時に実施した通常の場合の全体の所要時間とは、おおよそ同程度となるように計画し、実施してください。例えば、通常3時間程度で行われている運営指導を、3つの各指導に分けて実施する場合でも、それぞれ3時間ずつ計9時間となるようなことは絶対に避けなければなりません。また、運営指導は、計画した所要時間を超えないよう注意しましょう。 次に、運営指導の複数の対象が同一の所在地や近隣にある場合は可能な限り同時に運営指導を実施するよう検討しましょう。また、老人福祉法等の関連する法律に基づく監査との連携については、介護保険施設等の状況も踏まえた上で、自治体の担当部門間で調整を行い、同日又は連続した日程で行うことも検討してください。 (4)書類等の取扱い 運営指導における確認すべき文書等の確認作業についても効率的に行わなければなりません。これら文書等の保存年限は、2年から5年程度に定めている場合が多いと思いますが、運営指導においては、運営指導を行う年度の前年度から直近(おおむね1月程度前まで)の実績に係るものを対象に確認することとしており、状況に応じ、その範囲の中で一部の期間のみを対象とすることも可能です。運営指導の過程で保存すべき文書等がない等の不明な点が見つかった場合は、それよりも過去の状況を確認せざるを得なくなりますが、そのような事態ともなれば、法令違反や不正な行為が行われている可能性があることから、事実関係を確認するため監査を実施する必要があります。 また、利用者へのサービスの質を確認するため、その記録等を確認する場合は、特に必要と判断する場合を除き、対象は原則として3名以内とするとともに、居宅介護支援事業所については、原則として介護支援専門員1人あたり 1 名~2名の利用者についてその記録等を確認することとしています。これも確認すべき文書の対象期間の制限と同様、まずは一部を抽出して確認をすることで効率的に運営指導を実施するものです。当然、その3名程度の関係文書等の確認で不明な点が多く発見されるようであれば、他にも問題がある可能性が高いことから監査の実施も考えられます。 また、介護保険施設等における事務負担軽減の観点から、事前や当日に提出を求める資料(いわゆる事前提出資料や勤務表等の写し等)については、行政機関の指導担当者の人数分を用意させるようなことはしないようにし、提出された文書等の保存に係る文書管理の観点からも、提出は1部のみとすることを徹底するとともに、自治体が既に保有している文書(新規指定時、指定更新時及び変更時に提出されているもの等)については、運営指導にあたり確認が必要であれば既に保有している文書等を確認することとし、改めて提出を求めないようにしましょう。 また、運営指導においては、介護保険施設等において作成、保存等が行われている各種書面について、当該書面に代えて電磁的記録により管理されている場合は、ディスプレイ上で内容を確認することとし、別途、印刷した書類等の準備や提出は求めないようにしましょう。 各種の書面を電磁的記録として管理しつつ、併せて印刷し紙媒体でも管理している場合は、紙媒体を確認してもよいのですが、ディスプレイ上に映し出された内容と印刷されたものとを突合しなければ厳密には確認したことにはなりません。 このようなことから、あくまでも運営指導においては、文書等を電磁的記録により管理している場合(電磁的記録として文書等を作成するが、全て印刷した紙媒体で通常管理している場合を除く)は、行政機関の担当者が介護保険施設等側の担当者から説明を受けながら、ディスプレイ上に映し出された文書等を閲覧する方法で内容を確認しましょう。

第3章 実施後の措置 第1節 集団指導 講習会形式による集団指導では参加者の出欠の確認を行うとともに、ウェブによる資料掲示や動画配信等による場合は視聴等の確認を必ず行います。 集団指導で説明した内容は、介護保険施設等の適正な運営に欠かせない情報であり、運営指導においても確認のポイントとなるため、後になって説明を受けていないとの指摘を受けないよう対策を取っておく必要があります。可能であれば、例えば記名式アンケート等で習熟度合いを確認することも考えられますが、もしも習熟度が低いと思われる内容については、次回又は臨時の集団指導、通知等により重ねて周知を図ることが必要です。また、特定の介護保険施設等について集団指導で説明した内容の理解が進んでいないと考えられる場合や集団指導に参加しない等の介護保険施設等に対しては、優先的に運営指導を行うよう計画しましょう。

第2節 運営指導 1 改善指導 介護サービスの実施状況指導及び最低基準等運営体制指導の結果、法令等の解釈誤り等により、人員や施設及び設備又は運営について改善を要すると認められる事項がある場合は、文書により根拠を示して改善指導を行います。 ただし、これはあくまでも行政指導となるため決して強制されるものではないことに注意が必要です。例えば、集団指導で周知していたにもかかわらず、特定の事務誤りが数多く見られる場合や、そもそも不正請求が行われていた場合等、介護保険施設等自身の力では改善が期待できない場合には、監査を行い、事実関係を確認した上で、行政指導ではあるものの従わない場合は命令を行うことになる勧告又は指定取消等の行政処分を検討することになります。 2 介護報酬の返還指導 (1)不正請求 不正請求とは、法令や基準に違反し、かつそれを偽って報酬を請求することです。具体的には、架空請求等の請求行為をいいます。例えば、実際にはサービスを行っていないにもかかわらず、サービスを行ったように装い、報酬請求を行った場合や、一定の人員基準を満たすことが要件となっている加算について、人員が不足しているにもかかわらず、人員は満たされていることを装い加算要件を満たすものと偽って請求をした場合、また、サービスの所要時間によって単位数が定められている場合に実際にサービスを行った時間に対応する単位数を超えた単位数により請求した場合等がこれに当たります。 また、法第22条第3項では、介護保険施設等が偽りその他不正の行為により介護報酬の支払いをうけたとき、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するとしており、不正請求が認められた場合は本条項を適用します。 一方、制度の理解不足等による単なる誤りと認められる不当な請求については、例えば、ある加算報酬について一部の算定要件を満たしていないにも関わらず報酬を請求した場合等がこれに当たります。 報酬請求指導において、このような不適切な請求行為が認められた場合は、単なる誤りか、偽りその他の不正な行為かの判断(疑いを含む)が必要ですが、偽りその他の不正な行為かの判断については監査を行って事実関係を確認しなければ断定はできないため、そのような場合は速やかに監査に切り替えて事実関係を確認する必要があります。なお、監査の結果によっては、不正ではないという判断に至る場合もあり得ます。 報酬請求指導又は監査により、不正請求ではなく単なる請求上の誤りと判断し、自己点検の上、過誤調整を行うよう指導した場合については、行政指導には強制力がないことから、その自主的な履行を促すためには、報酬請求指導において、相手方の十分な理解と納得が必要です。 また、過誤調整を行うよう指導した結果、それにもかかわらず指導に従わなかったという場合については、これが相手の任意性を確保した行政指導であることから、当該行政指導に従わなかったことのみをもって、後になって不正請求と判断し、返還を求める(不利益処分)ことはできません。行政指導に従わないことを理由に不利益処分を行うことはできないことから、単なる誤りか不正かの判断は、事実関係を踏まえ、様々な角度から検討し慎重に行うべきです。 (2)加算報酬の請求と返還 加算報酬の算定要件に関する誤った理解により当該要件を一つでも満たしていなかった場合は、当該加算について自己点検の上、過誤調整を行うよう指導します。ただし、前述のとおり、これらの返還を求める行政機関の行為はあくまでも相手の任意性を確保した行政指導であり、行政処分(不利益処分)として報酬の返還を強制的に求める行為とは異なるものであることについて注意が必要です。 一方、報酬請求指導において、加算報酬の請求に関し、単なる誤りではなく、偽りその他の不正な行為によって報酬の請求が行われていたことが判明した場合又はその疑いがあると認められた場合は、行政指導である運営指導(報酬請求指導)では、立入検査ができないことから、速やかに監査に切り替えて検査を行い、事実関係を確認する必要があります。 介護保険法上、報酬の請求に関することで指定取消等の行政処分ができるのは、報酬の請求に不正があったときのみで、不当な請求については含まれておらず、これは法第22条第3項の考え方と一致します。また、法第22条第3項に基づき、保険者が支払った額の返還を求める行為は、徴収金として金銭を返還させる行政処分(不利益処分)となるので、監査による事実関係の確認が必要です。 報酬請求指導における加算請求の確認に関しては、本マニュアルにおいて改めて下記のとおり考え方を整理しましたので参考としてください。 (3)基本報酬部分の請求と返還 報酬請求指導は、基本的には加算報酬に関することを中心に見ていきますが、報酬基準に規定する基本報酬部分についても併せて確認することになります。例えば、提供したサービスとは異なる基本単位数で請求している場合や、基本単位数に減算規定があるにもかかわらず減算せずに請求している場合等は、不正請求に当たる可能性があります。 一方、運営基準に規定する人員や運営に関する規定に違反があったことのみをもって基本報酬の返還や過誤調整を求めることはできません。それは加算も含め報酬に関する規定は、あくまで報酬基準に規定されており、運営基準とは直接連動するものではなく、返還が必要になるのは報酬基準に違反しているからであって運営基準に違反しているからではないということからです。例えば、運営基準に規定するサービス提供記録がないという事実だけでは基本報酬の返還を求める根拠にはならないことに注意が必要です。 基本報酬の返還が必要となるのは、当該報酬基準に規定する基本単位数に基づくサービス自体が行われていない場合、つまりその請求部分は架空であり不正請求と考えられます。 介護保険制度は、事業者と利用者の契約に基づきサービスが行われ、利用者がそのサービスを受けた場合に保険者からその費用が利用者(被保険者)に支払われます。保険者から事業者へその費用の9割が支払われるのは、代理受領制度を活用しているためで、保険者が事業者に直接補助金等を交付して事業を行わせているわけではありません。 以上のことから、基本報酬の返還を事業者側に求めるには、サービスが全く行われていないにもかかわらず報酬を請求した又は基本報酬の減算規定に従わず減算せずに請求したという不正行為の事実があった場合に限られます。ただし、金銭の返還を求める行為は行政処分(不利益処分)であることから、これらの行為は監査を行い、事実を確認した上で行うことになります。 (4)過誤調整又は徴収金としての返還 報酬請求指導において、不正請求ではなく単なる請求上の誤りと判断した場合は、他にも同様の誤りがないかの確認も含め、自己点検の上、過誤調整を行うよう指導することになります。過誤調整は、事業者側からの申し立てによる過去の報酬請求を訂正する行為であり、あくまで事業者側の誤りであることについて、事業者側の認識があることが前提です。もちろん行政処分ではありません。 不正請求やその疑いがあると認められた場合は、監査を行い、その事実が認められた場合は、法第22条第3項に該当し、その返還するべき金銭は強制徴収公債権である徴収金として徴収することになります。つまり、介護保険施設等に対して介護報酬の返還を徴収金として強制できるのは、法第22条第3項に該当する場合のみということになります。 このことから、例えば報酬請求指導で発見した報酬請求上の不整合について、不正請求であった可能性を検討せず、初めから全て単なる誤りとして整理し、自主点検と過誤調整による自主的な返還を行うよう行政指導を行う、といった対応は適切ではありません。それが単なる誤りであるかどうかについては、運営指導により把握した事業所の実態を踏まえて十分検討し、必要があれば監査を行い適切に判断する必要があります。 (5)行政機関と保険者との連携 市町村は、法第23条に基づき、保険者としての立場だけではなく、当該保険給付に係る居宅サービス等を担当する者に対して、つまり指定又は許可した介護保険施設等を所管する行政機関(以下「指定等権者」という。)として運営指導を行います。また、市町村は、指定した介護保険施設等における確認文書や加算報酬等に関する文書等全てが確認の対象となるため、他の保険者に係る利用者がいればその記録等も同様にその対象となります。 一方、都道府県については、法第24条に基づき、上記と同様に指定等権者として運営指導を行いますが、運営指導においては都道府県が指定した介護保険施設等に関係する確認文書や加算報酬等に関する文書等全てが確認の対象となります。 都道府県又は市町村が実施した報酬請求指導において、報酬請求の不整合が認められた場合に不正請求ではなく単なる請求上の誤りと判断した場合は、自己点検の上過誤調整を行うよう指導することになりますが、全ての市町村にかかる利用者の報酬請求について自己点検の上過誤調整を行うよう指導を行い、把握した情報は適宜関係市町村へ情報提供を行うことが必要です。 なお、指定等権者がこのような情報提供を行った場合は、報酬請求の適正化の確保の観点から、当該介護保険施設等に対する過誤調整の実施状況等について、全ての市町村の状況等を確認することが必要です。

第4章 監査への変更 第1節 監査 1 監査とは 監査は、介護保険施設等監査指針に基づき介護保険施設等において人員基準違反や運営基準違反、不正請求、高齢者虐待等が認められた場合やそのおそれがある場合に法第76条等に基づき、報告、帳簿書類等の物件の提示を求め、関係者の出頭、質問を行うことにより情報を収集するとともに現地に立ち入って検査を行い、事実関係を確認する行為です。検査とは、現状を何らかの基準に照らして、その適合状況を確認する行為であり、その主体は行政機関となります。つまり、法第76条等に基づく報告、物件提示、関係者の出頭、質問により、相手方から示される情報を収集するだけでは、法令や基準等への適合状況を確認したとはいえないため、具体の問題点を指摘して改善を求める勧告又は行政処分を行うためには、行政機関が行う検査による事実関係の確認が必要となります。 2 指導と監査 法第23条又は法第24条に基づく運営指導は、指定又は許可を受けた介護保険施設等としての一定の信頼性に基づき、相手方の任意の協力の下で行われるものです。そのため通常、運営指導の実施に当たってはあらかじめ実施する旨の通知を行うことが必要です。 実態としては、法律に規定する権限を行使し、サービスの実施状況等を確認することになりますが、あくまでも相手方の任意の協力を前提としています。 一方、監査は、人員・運営基準違反や介護報酬請求における不正行為、高齢者虐待等の人格尊重義務違反等を想定し、行政機関の手による検査等を行い、事実関係を確認するものです。法第23条又は法第24条には立入検査の権限はないため、自主的な改善を促す勧告(行政指導)や、指定取消等の行政処分(不利益処分)を行う場合は、不正等の事実にかかる証拠の保全の観点から、法第76条等に規定する立入検査の権限を行使し、当該事実関係の確認を行い、その事実の内容を確定させることが必要です。つまり、行政機関が主体となる検査を介護保険施設等に立ち入ることにより行い、そこで初めて事実が確定できるということです。

第2節 監査への変更の契機 運営指導を中止して直ちに監査へ変更する必要があるのは次のような場合です。なお、運営指導の過程で法令違反や不正等があることが明らかである場合はもとより、その「疑い」がある場合についても、それが事実であるか確認する必要があるため監査の実施が不可欠です。 1 人員、施設設備、運営基準に従っていない状況が著しいと認められる場合又はその疑いがある場合 法令、基準等の解釈誤り等により、人員や施設及び設備又は運営について改善を要すると認められるが、例えば、同様の誤りが数多く見られる場合及びそれが長期に渡る場合、確認文書の不備等により確認項目が確認できない場合、虚偽報告や虚偽答弁15が疑われる場合等、それが単なる解釈上の誤りとはいえず改善指導では改善が期待できないような場合等が考えられます。 2 介護報酬請求について不正又は不正の疑いがある場合 報酬基準等の単なる解釈誤りではなく、架空請求等の、請求する根拠のない請求がある又はその疑いがある場合です。 3 不正の手段による指定等又はその疑いがある場合 新規又は更新申請時の申請書の内容と指定時以降の実態が相違する場合、特に初めから勤務する予定のない者を勤務するかのように装い指定申請書を提出し指定を受けたような場合は、不正の手段による指定を受けた可能性があります。ただし、例えば指定時に人的体制を変更した場合において、変更届の提出がない場合であっても、その変更理由にやむを得ない事由があり妥当性が認められる場合は、これに該当しないものと考えられます。 なお、許可施設である介護老人保健施設及び介護医療院にかかる許可についても同様です。 15 運営指導は行政指導であり、その過程で「虚偽答弁」や「虚偽報告」があったとしても罰則はない。(介護保険法第24条を除く) 4 高齢者虐待等がある又はその疑いがある場合 運営指導の過程で、高齢者虐待や、適切な手続きを経ていない身体的拘束等が行われている場合やその疑いがある場合は、利用者の生命又は身体の安全に危害を及ぼしている可能性があると捉え、直ちに監査に変更し、事実関係を確認する必要があります。

Ⅱ 実践編

第1章 指導の実施計画等 第1節 指導要綱等の策定 指導の実施に当たっては、介護保険施設等指導指針に基づき、管内における適切な行政指導を行うための事務的なルールを定めた基準として、あらかじめ要綱や要領等を定めておきましょう。 指導に関する要綱や要領等は、組織体制により、介護保険制度以外の指導監督業務も合わせて所掌している場合に、他法に基づくものも含めて全ての指導監督対象を盛り込み、策定している場合がありますが、介護保険制度の場合は、指導と監査の権限が法律により明確に分けられていることや、社会福祉法人制度等とは異なり、介護保険施設等の運営法人自体の許認可権限は持っておらず、当該運営法人が介護サービスを行い、報酬を請求できるという「指定」をしているに過ぎないこと等の意味を踏まえ、介護保険施設等指導指針で規定している内容を適切に盛り込む必要があります。 また、法令や基準改正等があった場合は、条項や内容を確認し適宜改正しておくことが必要です。 第2節 実施方針の策定 指導に関する要綱や要領は、指導の実施方法等の事務的な取扱いルールを定めるものですが、これらに加え、当該年度における集団指導又は運営指導は何に焦点を当てるのか(重点事項)、運営指導の対象となる介護保険施設等の実施数およびその選定理由等、その年度の具体的な実施方法等を定めた実施方針を策定することが望ましいものと考えられます。 何をどうやってどれくらい実施するかということについて、あらかじめ決めておけば、いわゆるPDCA16の観点からも、年度末の結果の検証や評価が可能となるため、次年度の実施計画を作成する際に反省点等を生かすことができます。結果の評価と目標との差を認識することで次年度の方針や計画がよりよいものになるはずです。 16 Plan(計画),Do(実行),Check(評価),Action(改善)の4つを1サイクルとして改善等に取り組むこと。

第3節 集団指導の実施計画 1 内容 集団指導は、指定又は許可を行った介護保険施設等に対し、毎年度1回以上実施しますが、必要な情報が確実に伝わるよう、また介護保険施設等の支援となるような実施計画づくりが求められます。 また、実施時期については、運営指導との連動性を考慮すると、運営指導を行う前に行われることが望ましいといえます。具体的には運営指導の実施年度当初又は前年度末頃に実施されることになるものと考えられますが、その指導内容、介護保険施設等の数等によって、サービス種別毎、実施時期や場所の複数設定も考えられます。 なお、内容については、介護保険施設等の種類や地域の実情や課題等により異なりますが、おおむね以下の内容が考えられます。 (参考)集団指導の内容として想定されるもの ・介護保険制度の仕組み・考え方 ・介護保険制度の改正 ・人員・施設設備・運営基準の改正 ・報酬基準の改定 ・運営指導における指摘事項の解説 ・高齢者虐待防止 ・身体拘束廃止 ・認知症施策の推進 ・労働法規の遵守 ・人材確保対策 ・消防法関係 ・災害対策 ・衛生管理 ・地域支援事業の推進 ・医療介護連携 ・法令等遵守の推進、業務管理体制の届出 ・報酬請求事務 ・事故・苦情の事例、行政への報告方法等 ・ケアマネジメント・プロセスに基づくサービス提供 等 上記に例示したもののうち、介護保険制度の仕組み・考え方については、特に新規指定を受けた介護保険施設等については必須であるとともに、介護保険制度の改正、人員・施設設備・運営基準の改正、報酬基準の改定については、誤った基準の解釈による不適切なサービスや介護報酬の不正請求を起こさないよう、3年毎の制度及び報酬改定の時期だけではなく、毎年繰り返しその重要性や間違えやすいポイント等を周知する必要があります。 また、介護保険法の目的である介護等が必要な人の尊厳の確保や自立支援に、直接関係する高齢者虐待防止や身体的拘束等の廃止、認知症施策の推進にかかる内容についても同様に極めて重要です。なお、労働法規や消防法関係等の他法に関わる内容については、それぞれの法律や実務を所掌する官署の担当者や学識経験者等による講義等によることも可能です。 2 実施方法 集合形式による集団指導の場合は、講義や演習等、一般的に研修において使われる手法は全て実施可能と考えられます。実際には、行政からの一方的な講義による説明による場合が多いと思われますが、検討テーマを設定しての演習や制度改正に関する対応研究、身体的拘束等の廃止に向けた取組例や法令等遵守に関する事例研究等、介護保険施設等の担当者同士の情報交換や行政も交えた双方向の対話を行うことも考えられます。 集団指導は、地域の実情に応じ、介護保険施設等に求められているもの、伝えなくてはいけないものは何かを考え、実施方法や内容を工夫しましょう。 また、講義のみによるものであっても参加者からの質問については必ず対応しなければなりません。例えば、参加者多数の場合はあらかじめ質問票を配付し、当日若しくは後日に参加者全部に回答する等の工夫も考えられます。なお、参加者の出欠確認は必須です。 一方、自治体ホームページへの資料掲載により、それを閲覧することで必要な情報を伝達するという方法もありますが、集団指導が行政指導であることを考えると、何をどういう理由でどう伝えるか、行政指導として伝えることは何なのかということがわかりやすく表現された資料づくりが求められます。 また、動画配信による場合は、遠隔とはいえ行政機関の説明者の発言を直接聞くことで、行政指導で伝えられるべき内容が伝わりやすいというメリットがあるため、両者を組み合わせて行うことが最も効果的と考えられます。また、オンライン上で可能であれば、集合形式と同様に、介護保険施設等の担当者、行政機関も交えた対話ができることが望ましいと考えられます。

第4節 運営指導の実施計画 1 実施頻度 運営指導は、指定又は許可した一の介護保険施設等について、少なくとも指定有効期間(6年)中に1回以上は実施します。これは最低でも1回ということで、地域の実情等、必要に応じ、その期間の範囲で複数回実施することも可能です。 また、施設系サービスや居住系サービスについては、そこが利用者の生活の場であること等を考慮し、3年に1回の頻度で運営指導を行うことが望ましいと考えられます。特に特別養護老人ホームや養護老人ホームについては、老人福祉施設指導監査指針において、一般監査の実施頻度を3年に1回としたことに加え、確認項目及び確認文書についても本マニュアルのそれらと整合を図っており、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)及び特定施設入居者生活介護の指定を受けている養護老人ホームについては、同指針に基づく一般監査と併せて実施することが可能となっています。 運営指導の頻度の決定については、実際は自治体の指導担当部門の体制や指定又は許可した介護保険施設等の数によるところが大きいと思われますが、介護保険施設等へ伝えるべき情報が確実に伝えられるのか、又は確認すべき事項が確認できるのか、といった視点も重要です。例えば、新たな運営基準や加算報酬の算定要件については、早めの情報伝達と確認が必要となることから、制度改正等が行われた初年度から速やかに運営指導を行うように計画する、又は新規指定を行った介護保険施設等については、指定後速やかに運営指導を行う等、実情に応じた効果的な運営指導を行うための戦略的な工夫が求められます。まずは運営指導の必要性を分析し現状等に対する対応策を考えた上で、実施頻度について検討する必要があります。 2 運営指導の形態の検討 運営指導には、自治体単独で行う一般指導と、国と都道府県又は市町村、都道府県と市町村とで実施する合同指導がありますが、あらかじめ合同指導を実施することが決まっていない場合は、まずは一般指導としてどの介護保険施設等を実施対象とするかを決めておき、国又は都道府県からの依頼に応じて対応を検討しましょう。 国は法第24条に基づき、単独で介護保険施設等に対し指導を行うことが可能ですが、国と自治体との合同指導については、法第197条第2項に基づく当該自治体に対する報告徴収権限に基づき、日頃の指導監督業務等に関する事務の実施状況について面談方式等により確認した上で、必要に応じ、当該自治体と合同で介護保険施設等に対する運営指導を行うことにしています。 都道府県についても市町村に対する同様の権限が付与されているため、都道府県と市町村とで合同指導を行う場合は、都道府県は当該市町村の指導監督業務等に関する事務の実施状況を確認した上で合同指導を行うようにしましょう。特に、平成30年度に都道府県から市町村へ事務移管された居宅介護支援事業所については、都道府県が所管する居宅系サービスの根本ともいうべきケアマネジメントに基づくケアプランの作成や給付管理等の重要な業務を担っていることから、市町村が運営指導を行うに当たっては都道府県からの適切なアドバイスが必要です。 また、上記の合同指導とは異なりますが、市町村同士の合同による運営指導も実施可能です。例えば、区域外指定を行っている地域密着型サービス事業所に対して区域内で指定している市町村と合同で運営指導を実施することも考えられます。 以上の留意点を踏まえて実施計画を策定してください。 3 運営指導の内容 運営指導は、利用者一人ひとりが受けた個別のサービスの質及びサービス提供の基礎である施設設備を確認する「介護サービスの実施状況指導」、人員及び運営の基準に規定する運営体制を確認する「最低基準等運営体制指導」、加算等の介護報酬請求の適正実施の確保のために行う「報酬請求指導」の3種類があります。基本的には、これらは本マニュアルで定めた確認項目及び確認文書に基づき、併せて行うことを想定していますが、状況によってはそれぞれ実施時期を分けて実施することも可能です。 例えば、介護サービスの実施状況指導は、利用者が介護保険施設等から受けているサービスの適正性や施設設備について確認することとしており、特に施設系サービスや居住系サービスにおいては、利用者の生活実態を確認する必要があることや、利用者のアセスメントシート等の個人情報を取り扱うこと、施設設備の確認は現物を行政担当者が直接見て確認する必要があること等、これらは直接現地の実態を見なければわからないため、指導事務担当者による現地訪問が必要不可欠です。 一方、最低基準等運営体制指導や報酬請求指導については、基本的には文書の確認が中心となるため、行政機関が介護保険施設等に所在する文書(確認文書)について、セキュリティの十分な確保を前提に、確認文書の全部又は一部を介護保険施設等とオンライン会議システム等又は確認文書の事前提出17により共有できれば、各確認項目についてオンライン会議システム等を活用し遠隔での指導も可能と考えられます。 また、感染症等の発生により、現地訪問が困難な状況となった場合には、介護サービスの実施状況指導を延期した上で、その他2つの指導にかかる全部又は一部の確認文書の共有が可能な場合は、オンライン会議システム等を活用し、その部分のみ運営指導として行うことも考えられます。この場合、延期した介護サービスの実施状況指導や遠隔で実施できなかった確認項目は、感染症等の収束後に改めて確認するということになります。なお、その意味から運営指導の実績とするには、3種類の指導の形すべてを実施する必要があります。 今後は、ICT を駆使した遠隔によるコミュニケーションの形が普及していくと思われますが、遠隔による運営指導を行う場合は、介護保険施設等の十分な理解とセキュリティの確保が必要であるとともに、介護保険施設等及び行政機関双方の過大な事務負担とならないようにしなくてはなりません。また逆に運営指導を行うこと自体を目的化し行政機関の事務の軽減のみを狙ったオンラインの活用も許されません。 なお、感染症等の発生等により介護保険施設等がその対応に注力しなければならなくなる事態ともなれば、現地訪問はもとより、オンライン会議システムを使った指導についても行うことは困難です。 そのような場合は、運営指導は当分の間延期し、その代わりに遠隔による集団指導の実施による制度周知の徹底や、介護保険施設等による自己点検を励行する等、今できることは何か、今やらなければならないことは何かを考え、実行に移しましょう。 17 確認文書については、オンライン会議システム等の機能を活用した共有、PDF 等の電子媒体による事前提出、又は事前に原本を提出させ、行政機関側で必要な写しを取り、原本を返却する方法等による共有方法を想定。介護保険施設等の側にできるだけ負担のない方法で行う。 4 所要時間の短縮等 本マニュアルでは、標準化・効率化の観点から運営指導時における確認項目及び確認文書を定めています。運営指導における確認すべき事項や見るべき文書を絞ったことにより、一の介護保険施設等あたりの所要時間の短縮を進めることができると考えられます。 また、同一所在地や近隣に所在する介護保険施設等に対する運営指導については、介護保険施設等の側の都合を十分に考慮し、できるだけ同日又は連続した日程で行う等、効率的な実施計画を策定しましょう。 特に介護保険の事業所として指定を受けていない有料老人ホーム等に併設した訪問介護等の事業所がある場合や、事業グループを形成するなどして同一敷地又は近隣に事業所がある場合は、人員の兼任状況等、確認すべき事項があるので、いくつかの事業所を併せて実施するよう計画してください。 なお、老人福祉法に基づく一般監査等、介護保険法に関連する法律に基づく指導・監査についても、自治体内で調整できれば、同時実施が可能ですので検討してみましょう。

第2章 集団指導の実施 第1節 実施通知 1 実施通知の発出 (1)発出時期 集団指導を講習会形式により開催する場合の実施通知は、介護保険施設等の管理者等の参加を求めることになるため、勤務状況を考慮し2月以上前までに通知する必要があるでしょう。 また、オンライン会議システム等を活用し説明を動画又はライブ配信で予定している場合も同様です。自治体ホームページへの資料掲載や動画配信、繰り返し閲覧や動画の視聴が可能と考えられるため、その期間を十分に確保する場合は、物理的に人員を集めないため、直前でも可能ではありますが、介護保険施設等の管理者等の責任者に対する説明であれば、また、確実な情報伝達を目指すなら、やはり遅くとも同様に2月以上前までには周知することが望まれます。 (2)発出方法 集団指導を開催する旨の通知の発出は、電子メールや郵送などの方法が考えられますが、必ずその情報が先方へ到達している必要があります。 なお、集団指導への参加又は動画の視聴に関して申し込みを課している場合は、参加予定者はそれにより把握できるとともに、申込期限が過ぎても反応がない場合は個別に照会をかけるなどの対応が可能です。 なお、資料や動画による説明を、紙媒体若しくは DVD 等の配布による方法で行う場合は、その配布をもって開催通知に代えることが可能となるため、出欠の確認は不要ですが、配布したままでは閲覧又は視聴したかどうかの確認ができないので、相手方の反応が把握できるような工夫が必要です。 2 実施通知の内容 集団指導の開催通知の内容は、後述する運営指導と同様に、集団指導が行政指導であることを踏まえると、行政手続法第35条の規定により、その趣旨及び内容並びに責任者について明確に示すとともに、根拠法令の条項やそれに基づく権限、それを行使する理由(つまり目的)について示す必要があります。 また、日時や場所のほか、集団指導に参加すべき者(管理者等)の役職名を記載しましょう。 参加者について、実際には、例えば厳密に管理者に限るとするのは難しい場合もあるかと思われますが、効果的な指導を行うためには、指導の内容により、対象者を明確にすることが重要です。これは動画配信等の場合でも同様です。 また、集団指導の内容、プログラムの内容についても明記しましょう。

第2節 集団指導の実施 集団指導は行政指導を行う場であることから、正しい情報を的確に伝えなくてはなりません。また、参加者からの質問に対しては、後日であっても必ず回答するようにしましょう。行政指導では、行政機関からの説明が中心となるので、参加者からの質問等の反応を知ることは大変貴重な機会です。プログラムを工夫して行政と参加者又は参加者同士のテーマ別の討議なども可能です。また、事前に法第23条又は法第24条に基づきアンケート等の提出を求めて、その傾向等をプログラムに反映させることも考えられます。 なお、集団指導に参加しない介護保険施設等については、個別に情報提供を行うことが望ましいですが、そのような場合には優先的に運営指導を行う等の対応も検討しましょう。

第3章 運営指導の実施 第1節 実施通知 運営指導を実施する場合は、行政手続法第35条の規定により、その趣旨及び内容並びに責任者について明確に示すとともに、根拠法令の条項やそれに基づく権限、それを行使する理由について示す必要があります。 具体的には介護保険施設等指導指針において、①運営指導の根拠規定及び目的②運営指導の日時及び場所③指導担当者④介護保険施設等の出席者(役職名で可)⑤準備すべき書類等⑥当日の進め方、流れ等(実施する運営指導の形態、スケジュール等)と規定しており、実施日の1月前までに対象の介護保険施設等に対しこれらの内容を通知します。この1月前というのは、介護保険施設等における勤務体制や準備等を考慮したものです。 また、⑤準備すべき書類等というのは、基本的には一次資料、つまり原本を想定しています。ただし、監査とは異なり、証拠書類等を見て適合性を確認する検査を行うわけではないので、写し等の複製されたもの、つまり二次資料であっても差し支えありません。 訪問先の介護保険施設等では、個人情報が記載された文書等も取り扱うことになるため、会議室等の個室を準備していただくよう依頼しますが、個室が用意できない場合は、個人情報にかかる文書等の取り扱いや言動に注意が必要です。 また、基本編で述べたように、緊急時等、無通告による運営指導も状況によっては可能ですが、無通告であっても行政指導であることには変わりはなく、実施当日に上記の①から⑥までの事項を記載した実施通知が必要です。 なお、運営指導の標準的スケジュールについては次のとおりです。

運営指導の流れ等備考
事 前1 施設・事業所へ通知(原則 1 月前まで)
2 事前確認・通知内容
① 運営指導の根拠規定及び目的
② 運営指導の日時及び場所
③ 指導担当者
④ 介護保険施設等の出席者(役職名で可)
⑤ 準備すべき書類等
⑥ 当日の進め方、流れ(実施する運営指導の形態、スケジュール等)
事前提出資料の提出、自己点検結果の報告を課している場合はそれらの資料の確認
当 日3 運営指導
〇 サービスの質に関する確認【介護サービスの実施状況指導】・利用者の生活実態に関する巡視(施設設備の確認も併せて行う)
1) 個別の利用者を通じた確認・巡視は指導担当者全員で行う。
・利用者の生活実態の把握・良い事例があれば聴取
2)施設設備の確認・事業所が積極的に取り組んでいることを聴取すると、事業所側も答えやすい
〇サービスの質を確保する体制に関する確認【最低基準等運営体制指導】・3 名程度の利用者を選出し、確認項目・確認文書を用いて確認
〇 報酬請求に関する確認【報酬請求指導】
1)加算及び減算に係る考え方 → 加算時の請求に当たっての基本的な考え方を確認する。・加算算定基準と異なる誤った解釈がある場合は、その説明
2)加算及び減算の実施状況 → 加算時の請求の種類等の状況を確認する。
3) 加算及び減算の請求の内容 → 各種加算時の請求を行っているものについて関係書類等により施設・事業所側から説明を受ける。
4) 効果 → 加算を実施したことによる効果について説明を受ける。
5)基本報酬について確認
4 結果の伝達
1)施設・事業所の取組の良い点を伝える
2)指導・指摘事項や過誤調整がある場合は、その報告と今後の流れについて伝達。・過誤調整が生じる場合、その理由と今後の流れについて説明
事 後5 指導結果の整理・復命
6 指導結果の通知
1)改善を要する事項がある場合・文書による報告の要請
2)介護報酬について過誤調整を要すると認められた場合・過誤調整の場合は自主点検の結果の報告が必要
7 報告書の提出・受領・審査

第2節 事前準備 1 事前提出資料 運営指導に当たっては、事前に介護保険施設等における基本的な情報を収集するため事前提出資料の提出を課している場合があります。運営指導を行う上で、必ず求めなくてはならないというわけではありませんが、円滑に運営指導を進めるための事前の情報収集という意味合いが大きく、多くの自治体で実施されているものと考えられます。 ただし、行政機関として、運営指導にあたり事前に知っておくべきとした情報が、既に提出されている自治体への提出物でわかるものや、介護保険施設等のホームページに掲載されているもので十分情報収集ができるものである場合は、改めて事前提出資料で提出を求める必要はありません。運営指導においては、確認すべき項目や文書も限定しているということからも、事前提出資料を求める場合は必要最小限の情報に限定しましょう。 また、運営指導の円滑な実施に資するため、確認文書や加算の算定要件となっている文書等についても、事前に提出を求めることは可能ですが、基本は一次資料を現場で確認することが重要ですので、これもやはり必要最小限のものとし相手方の負担とならないよう注意が必要です。 なお、運営指導の実施とは関わりなく、毎年、定期的に介護保険施設等の運営状況や運営法人の概要、その他のデータ等を直接介護保険施設等から徴収しているケースが見受けられます。それらの提出を課す根拠は法第23条や法第24条であると考えられますが、指定申請にあたり提出を課している書類等で把握できる情報の範囲以外で行政機関が知っておかなければならない情報は基本的にありません。 運営指導の標準化・効率化の観点からも、毎年定期的に提出又は報告等を求めているような事例、例えば社会福祉法人現況報告に準拠したものや、介護サービス事業者からの現況の報告等については、その必要性や有用性の有無について検討し、既存の資料や情報で代替又は収集可能、若しくはそもそも不要な情報である場合は、提出を課している報告等の内容の見直しや廃止を検討しましょう。 2 事業所の情報把握 運営指導においては、事業の運営法人自体の運営体制や財務状況を確認する必要はありません。 事業所の情報は、法第115条の35に基づく介護サービス情報公表システム18により、全国の介護サービスを行う事業所の基本的な情報が検索できます。運営指導において、事前提出資料の提出を求めている場合は、運営指導の際に事前に得たいと考えている情報が、このような情報源から得られないかどうか確認しましょう。 18 「介護事業所・生活関連情報検索」介護サービス情報公表システム https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/ 3 介護保険施設等の側で行う自己点検 基本編で述べたように、介護保険施設等の運営等に係る法令への適合状況については、指定又は許可を受けて介護報酬を得ている介護保険施設等自身による自己点検が行われることが望ましいといえます。そのため、多くの行政機関は、介護保険施設等が自己点検を円滑に行えるようチェックシート等を用意する等の支援を行っていると思われます。 運営指導に当たっては、事前又は当日にその結果を提出してもらい、当日の指導に活用することになりますが、もしも事前のチェックにより不適切な事項が確認された場合は、運営指導当日に相手方とともにその原因を探り改善策を検討しましょう。

第3節 運営指導の当日 基本編で述べたように運営指導は立入検査ではありません。必要かつ的確な行政指導を行うことを目的に、相手方の任意の協力の下、直接、現地を訪問し事業の運営状況等について確認させていただくものです。 当日、現地に到着し、玄関等で用件及び所属と氏名を告げた後、管理者等により会議室等へ案内されることになりますが、特に施設サービスや居住系サービス、また通所型のサービスについては、そこは従業者とともに同じ時を過ごす利用者の生活空間であるということを常に意識しておかなければなりません。その場所で行われている介護や事務等の業務のオペレーションを妨げないよう注意が必要です。 また、もしも特段の理由なく運営指導を拒否されたらどうしたらよいでしょうか。任意の行政指導に従わなくてもそのことのみを理由に立入検査を行うことはできません。運営指導の目的を十分説明し、それでもなお拒否される場合は、運営指導ができなければ適正な事業運営が行われているかどうかがわからないため、不正若しくは誤った法令解釈等による事業運営が行われている可能性が少しでもあると判断できる場合は、監査を実施して確認しましょう。

第4節 介護サービスの実施状況指導 1 確認するもの 運営指導の3つの実施方法のうちのひとつ、介護サービスの実施状況指導は、介護サービスの質の確認、つまり、実際のサービスが法令通知に基づき適正に行われ、利用者の尊厳が守られ自立支援に資するサービスが行われているかを確認するものです。利用者個人に関わる様々な情報を取り扱うことになるため、現地を訪問する必要があります。 具体的には、現地に行かなければ確認することができない施設・設備等の確認、サービス種別ごとに設定した「個別サービスの質に関する事項」にかかる確認項目及び確認文書に基づき実態を見ていきます。 2 施設・設備等の確認 確認項目に施設・設備の項目があるサービスでは、確認文書である「平面図」を見ながら変更部分がないか介護保険施設等の管理者等の案内により、その内部を巡回し目視で確認します。これは時間帯等、相手方の都合にもよりますが、運営指導の冒頭に行うのがよいでしょう。運営指導では詳細な確認は行わない想定ですが、実際と平面図とが異なる場合や必須設備に不備があることを発見した場合は、その理由や経緯について説明を聞いておきましょう。 3 利用者に対するサービスの質の確認 (1)利用者の生活実態の把握 上記2の巡回の際には、利用者の生活実態についても併せて確認します。これは、利用者の尊厳の保持が守られているか、つまり、利用者の人権が侵害されていないか、虐待や身体的拘束等が疑われる事案がないかということを中心に目視で確認します。主な確認のポイントは次のとおりです。 【利用者の様子】 1 身体の状況 〇四肢を紐等で縛られていないか。 〇身体や衣類から異臭がしないか。 〇髪型が乱れていないか(寝起き状態で放置されていないか)。 〇無表情でないか。 2 態度の状況 〇従業者の姿を見て、急におびえたり、怖がったりしていないか。 〇無力感、あきらめ、投げやりといった様子がないか。 〇表情が豊かであるか。 〇一人で無為に過ごしていないか。 3 服装の状況 〇自分では着脱できない服を着せられていないか(つなぎ服等)。 〇ミトンを着用させられていないか。 〇服装が汚れていたり、乱れていないか。 〇異臭や尿臭が強くないか。 〇昼間なのにパジャマのままでいないか(適切な着替えがなされているか)。 〇皆同じものを着せられていないか(リースのスウェットウェア、ユニフォーム的なものなど)。 4 移動の状況 ※ベルト等で支えないと座位をとることが難しい利用者もいることに留意する。 〇椅子や車いすに紐等で体幹や四肢を縛られていないか。 〇Y 字型拘束帯や腰ベルトが装着されていないか。 〇椅子や車いすから立ち上がれないようにテーブル等で固定されていないか。 〇移動の際、従業者が、一度に2台の車いすを引いていないか。 〇座っている姿勢が悪いまま放置されていないか。 5 ベッド周辺の状況 〇ベッドに体幹や四肢を紐等で縛られていないか。 〇ベッドの四方すべてが柵(サイドレール)で囲われていないか(ベッドから降りられない状態になっている)。 〇ベッドが片方壁につけてある。 〇居室に使われていないベッド柵が置かれていないか。 〇ベッドの柵(サイドレール)が紐等で固定されていないか。 〇ベッドの高さが高くなっていないか(座って床に足がつく程度の高さであるか)。 〇ベッドが廊下や共有スペースに置かれていないか。 〇寝具やベッド周りが汚れていないか。 〇利用者が、日中、ベッド上で過ごさせられていないか。 〇居室定員を超えたベッド数が置いていないか。 〇ナースコールが使えないようになっていないか(手の届かないところにある)。 6 食事の状況(食事の時間帯も運営指導の時間内である場合に確認する) 〇椅子や車いすにテーブルがつけられていないか。 〇料理の盛り付けは美味しそうか。温かいはずのものが冷めていないか。 〇利用者の食事が同じ時間帯に一斉に行われ、所定の時間で片付けていないか。 〇主食と副食を混ぜて提供していないか。 〇利用者に対して機械的な介助を行っていないか(声かけしない 等)。 〇従業者が立って食事介助を行ってないか。 【施設内環境】 1 居室内の状況 〇施設及びフロアの入口が日中施錠されていないか。 〇居室等に隔離されていないか。 〇外側に鍵やストッパー等が設置されていないか。 〇室内が非衛生的でないか。 〇利用者の部屋に個人の荷物や生活装飾等がないなど生活感のない状況でないか。 〇換気は十分に行われているか。臭気がこもっていないか。 〇多床室の場合、プライバシーが保てるような工夫がされているか。 2 従業者の状況 〇従業者が慌ただしくしていないか(走っていないか)。 〇利用者に対して冷淡な態度、無関心な態度をとっていないか。 〇利用者に声掛けを行っているか。 〇利用者から声を掛けられたら必ず立ち止まり話しを聞いているか。 〇利用者に対して乱暴な口の利き方をしていないか。 〇利用者の前で命令的言葉、訴えを否定したりしていないか。 〇利用者の居室に入る時は、「失礼します」等の言葉が掛けられているか。 以上は、複数の運営指導担当者で確認し、一人の担当者の主観で評価しないよう注意が必要です。個別のケアについて気になる点があれば、巡回終了後にぜそうしているのか等そのようなケアを行っている(行っていない)理由や背景を管理者等に尋ねましょう。また、突然の訪問者である行政側も、人の生活空間に入るのだということを自覚し、場合によってはカジュアルな服装に着替えて訪問する等、利用者に威圧感や緊張感を与えないよう配慮しましょう。 (2)確認項目及び確認文書 この指導では「個別サービスの質に関する事項」にかかる確認項目及び確認文書について見ていきます。確認文書として掲げられているのは、主に個人の情報が記載されている書類等ですが、すべての書類の有無を確認するというよりは、一人の利用者が、利用にあたってサービスの説明を受け、居宅サービス計画や、訪問介護計画等、サービスごとの計画が作成され、それに基づきサービスが提供されるという、サービスを行うための一連の流れ(ケアマネジメント・プロセス)が適切であるかどうかに力点を置いて実態を確認しましょう。これらの点を確認するため、施設内の巡回で気になった利用者など、3名程度(居宅介護支援事業所においては介護支援専門員あたり1~2名程度)抽出し、関係する一連の文書について確認します。 (3)ケアマネジメント・プロセス 介護保険制度の創設により導入されたケアマネジメントは、「利用者の心身の状況に応じた介護サービスの一体的提供」と「高齢者自身によるサービス」の選択を現場レベルで担保する仕組みとする居宅介護支援として、介護支援専門員により居宅サービス利用者のほぼ全員に提供されているとともに、施設系サービスや居住系サービスにも介護支援専門員が配置されていること等から、介護保険制度における介護サービス利用者のほぼ全てが利用している状況にあります。 さらに、令和 3 年6月に公表された「適切なケアマネジメント手法」の手引きでは、利用者やその家族の生活を支えるうえで解決すべき課題を捉えるため、先入観を持つことなく、網羅的に情報収集し、支援を組み立てるのがケアマネジメントの基本とされています。 このように介護保険制度におけるケアマネジメントは、居宅介護支援事業所の中心的な業務であり、ケアマネジメント・プロセスは、「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成 11 年厚生省令第 38 号)第12条「指定居宅介護支援の基本的取扱方針」及び第13条「指定居宅介護支援の具体的取扱方針」の各号に基づき行われる一連の過程です。 これらの規定からケアマネジメント・プロセスを図示すると次のようになります。 (図は省略) 上の図では、介護支援専門員は、まず利用者に対するアセスメントとして、利用者や家族、生活環境等、利用者を取り巻く様々な状況について情報収集を行い、それらの情報を分析し生活課題を把握することから始めます。 運営指導のヒアリングでは、利用者の全体像を捉え、自立支援の観点から必要なニーズが引き出されているか、さらに利用者の状態を改善するための課題やニーズの把握が行われているかといった点を確認します。これらの情報収集と課題分析の方法については、課題分析標準項目19が別途示されていますので参考としてください。 次にアセスメントに基づき居宅サービス計画20の原案(施設サービス等の場合は施設サービス計画21)を作成しますが、それは多職種による専門性が反映されるようサービス担当者会議に諮らなければなりません。そのうえで利用者、利用者家族への説明を行い、同意を得た上でそれが居宅サービス計画となります。また、介護支援専門員は、月1回の居宅訪問と面接を行い、その後の状況変化の把握を行うモニタリングを行う必要があり、その結果によっては居宅サービスの変更を行うことになります。 以上は居宅介護支援事業所について述べましたが、施設サービスについても、当該施設の介護支援専門員により、おおむね同様のプロセスを経てサービス計画づくりを行います。 このようなケアマネジメント・プロセスについては、利用者ごとに内容が異なるため、実際の指導においては適否の判断が難しい場合がありますが、例えばアセスメントは利用者ごとに異なることから、これをもとに作成するケアプランが、複数の利用者すべてが同じ内容というのは本来ありえません。 一つの見方としては、これらの計画は利用者や利用者家族の同意を得なければならないということから、指導にあたる行政機関の担当者自身が利用者や利用者家族の立場でこのサービス内容に同意できるかどうか、というのが一つの判断基準になるでしょう。なぜそのような介護を行うのかという点については必ずその理由があるはずです。利用者やその家族の立場に立ち、自分なりに納得するまで介護支援専門員から詳細な説明を受けましょう。 19 「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成 11 年 11 月 12 日老企第29号)別紙4 20 「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成 11 年 11 月 12 日老企第29号)別紙1 21 「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成 11 年 11 月 12 日老企第29号)別紙2 (4)高齢者虐待への対応 高齢者虐待防止法では、高齢者の養護者の他、養介護施設従事者等による虐待の防止について規定しています。同法第 24 条では、市町村長又は都道府県知事は、高齢者虐待に関する通報等(虐待に関する届出や報告を含む)を受けた場合は、養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護を図るため、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使するものとされており、特に介護保険法では、高齢者虐待は人格尊重義務違反に該当し、状況によっては指定取消等の行政処分となる可能性もあるため、そのような事案があれば、適切に監査を行い、事実関係を確認することになります。 運営指導においては、利用者の様子や従業者の態度等を巡回時に確認しますので、虐待若しくはその予兆がないかよく観察しましょう。 また、特に高齢者虐待の担当部署と介護保険施設等に対する指導監督の担当部署が異なる場合は、事案が生じた場合は情報共有を図る等、随時連携して対応するよう留意してください。 なお、養介護施設従事者等による高齢者虐待の定義22は次のとおりです。 ⅰ 身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。 ⅱ 介護・世話の放棄・放任:高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき 職務上の義務を著しく怠ること。 ⅲ 心理的虐待:高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える 言動を行うこと。 ⅳ 性的虐待 :高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。 ⅴ 経済的虐待:高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。 22 「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(厚生労働省老健局) (5)身体的拘束等の廃止 ア 身体的拘束等とは 私達が普通に生活している中で、身体的拘束等を受けることは想像できないことで、そのようなことをされたら自分の身に極めて異常な事態が起こっていると認識するはずです。介護保険法では、高齢者の尊厳を守ることを法の目的としていることから、何の理由もなく、身体的拘束等が行われることはあり得ないことといえます。 一般に、人の行動の自由を奪う身体的拘束等が行われた場合は、刑法(明治40年法律第45号)第220条の逮捕及び監禁の罪23や状況によっては同法第208条(暴行)24等に該当する可能性があり、これは介護保険施設等の利用者でも同様です。 介護保険制度の中では、全てのサービス種別のそれぞれの運営基準(厚生労働省令)において、各サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない旨規定されています。 このように運営基準に身体的拘束等の原則禁止規定が置かれた上で、例外的に身体的拘束等を行う場合の要件が規定されています。 原則禁止である身体的拘束等をやむを得ず行う場合は、あくまで当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合に限られ、介護職員等の従業者の不足等、介護保険施設等の側の理由は排除されています。 また、介護保険制度において身体的拘束等が原則禁止されているのは、運営基準で禁止されているから、という理由だけではありません。身体的拘束等は、利用者本人にとって身体的、精神的、社会的弊害をもたらし、利用者の自立を阻害する行為です。そしてそれは例外的に身体的拘束等を行う場合であっても、身体的拘束等を行う以上、それらの弊害が軽減されるわけではありません。行政機関は、特にこの点に留意し、身体的拘束等の廃止に関し、介護保険施設等の理解が深まるよう説明を尽くさなくてはなりません。 23 刑法(明治40年法律第45号)第220条(逮捕及び監禁の罪)「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。」 24 刑法(明治40年法律第45号)第208条(暴行)「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」 イ 例外的に身体的拘束等を行う場合の要件 上記のとおり、身体的拘束等は原則禁止ですが、例外的に身体的拘束等を行うことが運営基準上、一定の条件の下で認められています。ここでは運営指導中に身体的拘束等が行われていたときの対応について解説します。 ① 緊急やむを得ない場合の手続きについて 運営指導で身体的拘束等を発見した場合は、まずはその記録の提示を求め、内容を確認します。そしてその記録の内容から、発見した身体的拘束等が、下記の「例外的に身体的拘束等を行う場合の要件」(切迫性、非代替性及び一時性の三つの要件を全て満たすこと)に該当することを事業所または施設全体で極めて慎重に手続きを行ったどうかを確認します。これはその要件(身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者等の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由等の記録のほか、サービス種別により身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会、身体的拘束等の適正化のための指針の整備、身体的拘束等の適正化のための研修の定期実施が運営基準上義務づけられている)への適合性を確認する前提として、そもそも例外的に身体的拘束等を行うべき事案であるかどうかが問題となるからです。 身体的拘束等の態様等の記録があれば、第一義的には身体的拘束等を行う手続に問題はありませんが、その記録の内容からしてそもそも緊急やむを得ない場合といえるのか判断するため管理者等に対してその状況に関する報告を求めます。 一方、身体的拘束等を行っているにもかかわらず記録がない場合についても上記と同様に、そもそも緊急やむを得ない場合の身体的拘束等といえるのか、管理者等からの状況報告等により判断しなくてはなりません。 以上のいずれの場合でも、もしも、下記の例外的に身体的拘束等を行う場合の要件に明らかに合致していないか又は合致していない疑いがある場合は、適切な手続きを経ていない身体的拘束等は高齢者虐待防止法に規定する身体的虐待に該当する可能性が高いことから、直ちに身体的拘束等を中止するよう指導するとともに、必要に応じて運営指導から監査(立入検査)に変更し、事実関係を確認します。 ◎例外的に身体的拘束等を行う場合の要件 次の三つの要件をすべて満たしていること 〔切 迫 性〕:利用者本人又は他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと 〔非代替性〕:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと 〔一 時 性〕:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること ②身体的拘束等の適正化を図るための措置(形式的要件) 例外的に身体的拘束等を行う場合の要件として、その記録の他、対象サービス25においては、当該運営基準に3つの形式的要件が定められており、これらの要件は全て満たす必要があります。 ◎身体的拘束等の適正化を図るための措置 身体的拘束等の実施の有無にかかわらず全ての措置を講じていること ①身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること ②身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること ③介護職員その他の従業者に身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること 25 短期入所系サービス、多機能系サービス、居住系サービス、施設系サービスに規定あり ウ 身体拘束廃止未実施減算及び高齢者虐待防止未実施減算 上記のとおり、身体的拘束等を適切に行うためには必要な記録等の適正な手続きを行うことが必要であるとともに、上記対象サービスにおいては身体的拘束等の適正化を図るための全ての措置を講じることが必須となっています。当該記録がなければ当然のこととして、記録があったとしてもこれらを行っていなければ、報酬請求上の措置として身体拘束廃止未実施減算が適用されることになります。なお、その対象は身体拘束廃止未実施減算の対象施設等26に限られます。 また、緊急やむを得ない理由の記録の有無及び3つの形式的要件の有無にかかわらず、緊急やむを得ない理由に該当しない身体的拘束等を行っていた場合は、そもそも身体的拘束等を行ってはならない事案であるため、高齢者虐待防止法に規定する身体的虐待の可能性が高いことから、監査を実施し、事実を確認し、高齢者虐待の事実が確認できれば介護保険法に規定する行政処分の事由である人格尊重義務違反に該当します。 なお、虐待の発生又はその再発を防止するための措置(高齢者虐待防止対策検討委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者の配置)についても、全てのサービスにおいて義務付けとなっていることから、措置を講じた記録が確認できなければ、報酬請求上の措置として高齢者虐待防止措置未実施減算* が適用されることになります。 *(介護予防)居宅療養管理指導と(介護予防)福祉用具貸与を除く 26 短期入所系サービス、多機能系サービス、居住系サービス、施設系サービス ◎身体拘束廃止未実施減算の適用の考え方 (対象事業のみ) 1 身体的拘束等に関し以下の①及び②について確認する。 ① 身体的拘束等に関して、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録(2年間保存)しているか ② 身体的拘束等の実施の有無にかかわらず、身体的拘束等の適正化のための全ての措置を講じているか ・身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること ・身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること ・介護職員その他の従業者に身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること 2 上記1①による身体的拘束等を行う場合の記録がなされていない、又は1②による身体的拘束等の適正化のための全ての措置が講じられていない事実を運営指導において発見した場合は、その日が属する月を「事実が生じた月」とする。 3 身体拘束廃止未実施減算の適用 ① 上記2の状態を把握した場合は、速やかに27「改善計画」を市町村長に提出するよう指導するとともに、「事実が生じた月」から3月後に改善計画に基づく結果の報告を提出するよう指導する。なお、「改善計画」が速やかに提出されない場合は、身体的拘束等を例外的に行う場合に必要な手続きを行うこと及び身体的拘束等の適正化を図るための措置を講じることが、身体拘束廃止未実施減算の解除の要件であることを理解させ、提出を促す。 ※減算期間は最低3月となる。 27 運営指導で不適切な取り扱いを発見した日から1~2週間程度を想定。 ② 「事実が生じた月」の翌月から、「改善計画」に基づく結果の報告の提出により改善が認められた月までの間について、利用者又は入所者全員について所定単位数から 100 分の 10 に相当する単位数を減算する。 4 改善状況の確認 「事実が生じた月」から3月後に、事業者からの「改善計画」に基づく報告に基づき、改善状況を確認する。 これにより改善が認められた場合は、改善が認められた日の属する月を「改善が認められた月」として、同月まで身体拘束廃止未実施減算を行う。 ただし、事業者からの「改善計画」に基づく報告がない、又は、改善状況が不十分である場合には、改善が認められないものとし、引き続き改善が認められるまで(改善が認められた月まで)身体拘束廃止未実施減算を行う。 *1 の②以降は、高齢者虐待防止措置未実施減算においても同様である。 身体拘束廃止未実施減算及び高齢者虐待防止措置未実施減算は、高齢者虐待の防止、身体的拘束の廃止又は適正な運用を確保するため、現時点で一定の条件に該当していない場合に、それが改善されるまでの間、将来に向かって報酬を減算するものです。つまり、この減算の仕組みは、他の減算の仕組みと違い、未来に向かって運用の改善を促すことが最大の目的です。 そのため運営指導において、過去における適切な手続きを経ていない身体的拘束の取り扱いや、高齢者虐待防止措置及び身体的拘束等の適正化のための措置の未実施が認められた場合であっても、運営指導で行政機関がそれを発見した日の属する月が「事実が生じた月」となります。 これにより過去に遡及して当該減算を適用することはできず、速やかに提出させることになる「改善計画」についても、あくまで今後の「計画」であることから、遡っての提出はできないことに注意が必要です。

4 留意点 介護サービスの実施状況指導は、実際に介護保険施設等を訪問して行います。また、基本的には本マニュアルで定めた「確認項目及び確認文書」に基づき、介護保険施設等の管理者等から各確認項目について確認文書を見ながら説明を受ける形になりますが、行政機関の側からは、具体的にどのような質問をしたらよいでしょうか。次に、主として施設サービス等の場合になりますが、運営指導の際に相手方に対する質問例等を例示しましたので参考としてください。 ◎確認項目を補完するヒアリング例 □ 個別の利用者/入所者に関するヒアリング ・利用者/入所者の日頃の様子はいかがですか。 ・利用者/入所者の希望はどのように確認していますか。 ⇒ 本人の意思を確認する工夫をしているか(例:発言が出にくい方に選択式で質問したり、目の動きや手に込められる力などで確認するなど)。 ・アセスメントはどのように行っていますか。どのような時に行っていますか。 ⇒ 定期的に実施するほか、容態の変化がみられるときに適宜行っているか。 ・利用者の状態や要望に応じてサービス計画に変更が生じる際は、必要事項について関係者と共有していますか。 ・サービス計画にある内容に対し、本人は意欲をもって取り組んでいますか。(もっていない場合)どのような点が課題になっていると思いますか。 ・サービス計画にある目標の達成状況を、どのように確認していますか。 ・定期的にモニタリングを行っていますか。 □記録から確認(確認項目を補完する記録例) ・体調が思わしくないときや転倒があった場合に、記録がされているか。 ・サービス担当者会議の内容や介護支援専門員、他の介護サービス事業所とのやり取りなどが記録されているか。 □巡回時に気になった点を含む、利用者/入所者全般へのサービスに関する質問例 ・身体拘束を受けている利用者/入所者はいますか。(いる場合)なぜ必要と判断しましたか。早期に拘束が取れるよう、どのような取組をしていますか。 ・入浴等の介護拒否があった場合は、どのように対応されていますか。 ・夜間、利用者/入所者が眠れないことがありますか。(ある場合は)どのような理由で眠れないと思いますか。 ・外出を希望した場合はどのように対応されていますか。 ・食事の時間・内容についてはどのように決めていますか。 ・起床時のケアはどのように行っていますか。 ・毎日着用する服はどのように選んでいますか。利用者の好みですか。施設側で判断していますか。 ・かゆみ等を訴えた場合どのように対応していますか。 ・他の方とそりが合わない又は攻撃的になったりする方へはどのように対応していますか。 ・見当識障害(時、場、人)が著しい場合、どのような工夫をされていますか。(なじみの空間づくりの工夫等)。 ・向精神薬を服用している利用者/入所者はいますか。 等

第5節 最低基準等運営体制指導 1 確認するもの 最低基準等運営体制指導は、介護サービスの質を確保するための体制に関する指導、つまり、介護保険施設等がそれぞれのサービスを行う上で、実際にどのような体制を構築しているかという観点から確認し必要な指導を行うものです。 具体的には、主に人員や運営に関する確認項目及び確認文書に基づき実態を見ていきます。 2 確認項目・確認文書 各サービスの運営基準(厚生労働省令)は、それぞれのサービスを行う上での守るべき最低基準といえますが、本マニュアルでは、その中でも基本的な事項について運営指導における確認項目及び確認文書として掲げています。 最低基準等運営体制指導は、文字通り、介護保険施設等の運営体制について確認するものです。 なお、運営基準に定められる義務規定の中には、規定されてから一定期間は努力義務とされることがあります。これらの規定に関しては集団指導で周知するほか、運営指導実施時に、まだ準備中であるような介護保険施設等に対しては、義務化されるまでに対応できるよう確実に周知しましょう。(別添「確認項目及び確認文書」においては、義務化までに期間が定められている項目について、その旨を記載しています。)次に主な確認項目についてポイント解説します。 3 介護サービスの質を確保するための体制に関する指導 (1)従業者の員数及び勤務体制の確保 各サービスにおける従業者の員数については、それぞれの運営基準に定められており、確認文書である勤務体制一覧表を元に、勤務実績表やその根拠となるタイムカードから実際の員数が確保されているか確認します。タイムカードについては、従来型の勤怠管理で使用される個人別のカードに出退勤の日時を印字する方式のものを想定していますが、例えば、最近では勤怠管理システムでの管理やスマートフォンのアプリでの勤怠管理も可能となっていますので、そのような場合は、ディスプレイ上での目視による確認となります。このような場合はその仕組みや見方、勤務実績等、管理者等から説明を受けましょう。 また、確認項目「勤務体制の確保等」では、各種研修の機会の確保の他、特に令和3年度改正で運営基準に盛り込まれた事項である「性的言動、優越的な関係を背景とした言動による就業環境が害されることの防止に向けた方針の明確化等の措置を講じているか」について実態を確認します。 (2)非常災害対策 自然災害が頻発するわが国では、介護保険施設等においても、利用者及び従業者の生命を守る上で、非常災害(火災、風水害、地震等)対応のマニュアルや対応計画は必須です。それらに基づき避難・救出等の訓練が定期的に行われているかを確認します。 (3)事故発生の防止及び発生時の対応 まずは、事故の発生を防ぐための取り組みを行っているか確認することが重要です。確認項目としても事故発生防止のための委員会や従業者に対する研修の定期的な実施について規定しています。また、事故の防止には「ヒヤリハット」の取り組みが有効ですが、例えば、ヒヤリハットの仕組みはあっても報告をためらう従業者が多い等、有効に機能していない場合は、報告を行った方が評価されるような、従業者にとってインセンティブが働くような仕組みづくりを行うよう指導します。 一方、事故が発生した場合の対応については、そもそも対応方法が決められているかという点が重要ですが、ルールがあっても適切に運用されていなければ意味がありません。事故対応の仕組みについては、その運用の有効性を確認します。 (4)地域との連携 地域密着型サービスの実施にあたっては、地域との連携が必要不可欠です。地域密着型サービスの運営基準では、運営推進会議の定期的な開催等が規定されており、確認項目においても同様の項目を規定しています。 運営推進会議においては、地元の地域の人の目が入ることにより、例えば高齢者虐待や不当な身体的拘束などの事業所の異常性が発見される可能性があります。ただし、会議自体が形式的な行事として運営され、形骸化している可能性もあるため実態を確認します。 4 留意点 最低基準等運営体制指導は、基本的には実際に介護保険施設等を訪問して行いますが、基本編で述べたように、本マニュアルで定めた「確認項目及び確認文書」の一部又は全部についてオンライン会議システム等を活用することは可能です。いずれにしても介護サービスの実施状況指導と同様に、介護保険施設等の管理者等から各確認項目について確認文書を見ながら説明を受ける形になります。 なお、次のとおり、運営指導の際に相手方に対する質問例等を例示しましたので参考としてください。 ◎確認項目を補完するヒアリング例 □運営状況に関する質問例 ・職員の中で、法人の他の部署と兼務している方はいますか。 ・サービスの提供に携わる職員のうち、派遣職員はいらっしゃいますか。(いる場合)その方の1か月の合計勤務時間について、把握していますか。 ⇒ 把握の義務はないが、1 日 8 時間を超える勤務をしているなど、サービスの質の低下につながる危険のある労働をしていないか、確認することを推奨。 ・緊急事態が発生した場合、主治の医師とどのように連絡を取っていますか。 ・非常災害に備え、どのような訓練を行っていますか。 ・利用者/入所者の秘密保持について、従業員に対してどのような形で誓約をさせていますか。 ・苦情をどのように受付けていますか。 ・苦情があった場合、どのように対応されていますか。 ・最近、ヒヤリハットしたことはありますか?(ある場合は)どのように対応されましたか。 □ 記録や文書から確認 ・運営規程や重要事項説明書に記載されていることに齟齬はないか/最新か。 ・災害対策訓練が適切に行われているか(火災年2回以上、地震、風水害など)。 ・いわゆる事故対応マニュアル(名称は問わず)やそれに準じるものが用意されているか。 ・保険者への事故報告は適切に行われているか。 ・身体拘束廃止のための体制整備が適切に行われているか。 等

第6節 報酬請求指導 1 確認するもの 報酬請求指導は、各サービスがそれぞれの報酬基準に基づき適正に介護報酬の請求が行われるよう介護保険施設等を指導、支援するものです。具体的には、主として介護保険施設等が届出等で実施する各種加算に関する算定及び請求状況について確認します。 また、例えば人員に関係する確認文書は、人員体制が要件に関係する加算又は減算について確認する際に活用できますが、加算報酬の多くはそれぞれの要件により必要な文書等の挙証資料が異なるので、確認文書以外のものを求めることになります。 この指導でも、基本的には実地に確認を行うことを想定していますが、現地に行かなくても確認可能と判断できる場合は、実地以外の方法、オンライン会議システム等を活用することは可能です。 2 方法等 (1)基本報酬 基本報酬の請求の確認のポイントは、報酬基準に規定する基本単位数に基づくサービスが実際に行われているかどうかという点です。 サービスが全く行われていないにもかかわらず報酬請求を行うのは架空請求であり、例えば訪問介護ではサービスの所要時間で基本単位数が設定されており、いずれかの所要時間に該当するかによって請求する基本単位数が変わりますが、本来請求するべき基本単位数ではなく、それより上位の基本単位数で請求すれば付増請求となります。 もしも運営指導でこのような事例(その疑いも含む)が発見された場合は、法第22条第3項の「偽りその他不正な行為」に該当する可能性があるため、直ちに監査に切り替えて同条項に該当するのか又は解釈誤り等や極めて単純な事務的な誤りであるのか事実関係を確認する必要があります。 架空請求又は付増請求となるのかどうか、つまり、適切にサービスが行われた上での報酬請求であるのかどうかという点については、第一義的には介護保険施設等に説明責任があるものの、行政機関がその事実関係を把握し断定しなければならず、例えば運営基準に規定する、サービス提供記録の有無だけでは判断できません。管理者等の相手方の関係者の証言、利用者又は家族の証言、従業者の勤務体制や勤務実績、各種のサービス計画、送迎の記録など、複数の事実関係から適切に判断する必要があります。 (2)加算・減算 各種加算については、報酬基準で定めている算定要件を満たしているかどうかについて確認しますが、報酬請求指導では、集団指導で伝達した介護報酬請求上の加算及び減算の考え方が正しく伝わっているかを確認し、適正な請求を支援するということが重要です。 報酬請求指導に当たっては、加算及び減算の種類が多岐にわたることから、基本的な考え方、請求の方法等について理解に努め、介護保険施設等の管理者等からの照会や相談に応じることができるようにしましょう。ただし、介護保険施設等ごとに異なった指導となると介護報酬請求上も問題となることから、指導内容に疑義があるときは国又は都道府県に照会するなどし、統一的な指導方針となるよう努めましょう。 また、減算については、例えば人員基準減算が設定されている場合に人員基準に満たないまま減算せず通常の単位数で請求していた場合は、上記(1)の考え方と同様に、解釈誤り等や極めて単純な事務的な誤りである場合以外は、架空請求と同等の不正請求と認めざるを得ない場合があります。このような場合もやはり監査を実施し事実関係を把握した上での判断が必要です。

第7節 運営指導実施後の対応 1 運営指導終了後の結果の伝達 運営指導終了後においては、指導担当者同士で結果について確認した上で、運営指導の結果について口頭で講評を行う場合が多いと思われます。当日の講評は必ず行わなければならないわけではありませんが、行う場合は、法令違反等により明らかに改善が必要な事項、早急な対応が必要な事項について説明することとし、結果については運営指導で得た情報を基に内部で検討し改めて通知します。 2 結果通知・指導方法 運営指導の結果は特段の改善事項がない場合でも通知するようにします。また一般的には文書指摘や口頭指摘というようにそれぞれの行政機関において一定の考え方の下で整理、運用されていると思いますが、それらの考え方についておおむね次のとおり整理しましたので参考としてください。(参考:社会福祉法人指導監査実施要綱28)

指導方法要件根拠の提示改善報告
文書指導(文書指摘)・法令、基準、通知、告示、条例、規則等に規定した事項に違反している場合法令等、具体的かつ直接的な根拠が必要期限を定めて改善報告を行うよう指導する
口頭指導(口頭指摘)・法令、基準、通知、告示、条例、規則等に規定した事項に違反しているが、その程度が軽微である場合又は・その違反について、文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合法令等、具体的かつ直接的な根拠が必要不要
助言・法令、基準、通知、告示、条例、規則等に規定した事項に違反していないが、今後も違反のないよう、適正な運営に資するものと考えられる場合直接的な根拠までは求めないが、具体的な理由の説明が必要不要

28 社会福祉法人指導監査実施要綱の制定について(平成29年4月27日老発 0427 第 1 号)別添 文書指導又は口頭指導を行うにはその根拠が必要です。また、助言、つまりアドバイスですが、これについては、法令等の直接的な根拠は不要ですが、なぜそのような助言を行うのかについての説明が必要です。言い換えれば、どうやったらその法令等の条項が守れるかということについてアドバイスするということになります。 行政機関によっては、文書指導は行うが口頭指導は行わないとしている場合や、口頭指導や助言に該当するものであっても、文書でその旨とその内容を通知する場合など、実際の運用に違いはあると思いますが、いずれの行為も行政指導ですので、行政指導を行うからにはその根拠や相手方への丁寧な説明が必要です。根拠のない行政指導は指導担当者の主観的なその場の思い付きとも捉えられかねないので十分注意しましょう。 また、運営基準やそれに基づく確認項目及び確認文書において、他法に関するものがありますが、何らかの不備があり文書指導又は口頭指導を行う場合は、あくまでも介護保険法の中で、つまり運営基準等で規定している内容までの範囲で改善指導を行うことができると考えます。例えば、消防法違反や労働基準法違反等の疑いが認められた場合は、介護保険法だけでは問題を解決できないので、消防署、都道府県労働局や労働基準監督署等へ通報することになります。 3 改善状況の確認 文書指導を行う場合は、期限を定めて改善報告を求めることになりますが、提出のあった改善報告書の内容については、改善を図ったという内容であれば、どのように改善を図ったのかという具体的な説明を求めるとともに、また、直ちには改善できないという場合でも、単に改善に向けて努力するというようなことではなく、いつまでにどうするのかを明確に示すよう指導する必要があります。また、文書指導を行い改善報告書の提出を受けた介護保険施設等については、必要に応じて改善報告書の内容が確実に実施されているか実地等により確認します。その時期については、改善報告書を受領した直後、又は次年度の運営指導を計画し実施の際に確認しましょう。

第8節 運営指導を行う側として 介護保険施設等指導指針の第7では、運営指導を行う側として留意すべき事項を規定しています。運営指導は、介護保険施設等が適正な運営を行うことができるよう支援し、自ら法令や基準等を守ることができるよう育成するという観点から行いますが、それらの責務を負う行政機関として留意すべき事項について改めて解説します。 1 指導担当者の態度 運営指導において、相手方に対して高圧的ととられる態度を示したり、そのような言葉遣いをすることは許されません。行政機関は、単に法に基づく権限を行使しているに過ぎません。また、その権限に基づく行政指導についても、相手方の任意の協力に基づき行うものであり、そのような態度は行政機関としての信頼性を著しく欠く要因ともなります。 2 運営指導の在り方 これまで述べてきたように、運営指導はあくまでも行政指導であるため、改善が必要な事項に対する指導や、より良いケア等を促す助言等については、介護保険施設等との共通認識が得られるよう留意する必要があります。また、個々の指導内容については、具体的な状況や理由を聴取した上で、根拠規定やその趣旨・目的等について懇切丁寧な説明を行います。 その中で、適正な事業運営等に関し効果的な取り組みを行っている介護保険施設等については、積極的に評価し、他の介護保険施設等へも紹介する等、介護サービスの質の向上に向けた指導を行います。 3 根拠に基づく運営指導の実施 行政指導には明確な根拠が必要であり、行政側担当職員の主観に基づく指導は排除されなければなりません。また、当該介護保険施設等に対する前回の指導内容と、根拠なく大きく異なる指導は行わないことも重要です。これらは許容できないいわゆるローカルルールの要因ともなりうるので注意が必要です。 4 時間を守る 運営指導に費やす時間は、基本的には相手方の日中の通常の勤務時間にあわせます。例えば確認項目の確認が終わらないといったことは、その要因が相手方にあったとしても、それはあくまでも行政側の都合であり、それを理由に相手方に時間外勤務を強いることはできません。 5 介護保険施設等の出席者 運営指導における介護保険施設等の出席者については、必ずしも当該介護保険施設等の管理者に限定することなく、実情に詳しい従業者や介護保険施設等を経営する法人の労務・会計等の担当者(業務委託している場合も含む)が同席することは差し支えありません。

第4章 指導の標準化・効率化について 運営指導の標準化・効率化の推進は、自治体職員ならびに介護保険施設等の側の事務負担の軽減を目指しています。 しかし、それによってサービスの質の低下や不正請求等につながるようなことがあってはなりません。 運営指導の標準化・効率化を推進し、かつ適正な事業運営及びサービスの質の向上を図るためには、行政機関が、① 集団指導の充実を図り、② 事業者における業務管理体制の構築及び適正運用を支援し、③ 必要に応じて監査の適時・適正な実施を行うことが必要です。 これにより不正や不当な行為を未然に防ぐとともに、事業者自らが法令等を遵守するための取組を行っていくことができるよう支援していくことで、事業者側の意識が高まり、サービスの質の向上ならびに適正な運営が図られるものと考えられます。 なお、都道府県は、法第197条第3項に基づき、一般市町村に対し、法の第5章の事務について報告を求め、又は助言若しくは勧告を行うことが可能です。一般市町村が行う地域密着型サービス等の指定及び指導監督の事務について、市町村指導実施指針29に基づき適切な助言等を行うことで、当該都道府県内の一般市町村が行う運営指導の標準化・効率化の推進や実施頻度の向上等が期待されることから、都道府県による積極的な取組が望まれます。 29 市町村における地域密着型サービス事業者等の指定及び指導監督等の事務にかかる指導監督について(平成27年3月10日 老発0310第2号 厚生労働省老健局長通知 )別添



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