最期の時間をわがままに過ごしてほしい2/2



現場インタビュー「最期の時間をわがままに過ごしてほしい

窪川 よしこさん (東京都・日野市サテライトホーム さざんか」)
※施設詳細は末尾


介護保険制度からこぼれる人も受け止めたい



そんな折り、所属法人がグループホームのすぐ近所のふつうの民家を借りてくれました。

そして、グループホームで対応できない方をその民家で介護保険外の事業として看ていこうという話になり、私はそこでの介護を志願しました。

それが今も続く、このさざんかの出発点になります。

ですから、当初、このさざんかはその法人の事業として運営していたのですが、会社の諸所の事情もあり、ここを手放すことなりました。

でも、私は既に2年ほど、ここで利用者さんの介護をしてきた経験もあり、
それなりに手応えを感じていたので、自ら(個人で)この事業を運営したい旨を法人に伝えました。

そして、その法人を退職し、個人事業としてこのホームの切り盛りするようになったのです。

ここは介護保険制度とは一切関係のない自主事業ですから利用者も老人だけとは特定していません。
知的障害や脳性マヒのある方の定期利用もあります。

なぜ、老人だけに対象を絞らなかったかというと富山型デイサービスなどの見学をさせてもらって影響を受けたことが大きいですね。

富山型デイサービスというのは、通常の高齢者だけを対象とするデイサービスと違い乳幼児や若年の障害者の方などが分け隔てなく利用されているデイサービスなんですね。

そこではケアされる対象であるはずの赤ん坊も認知症の老人に抱っこされることで「ケアをする主体」でもありました。

それから自閉症の子供が外へ一人で出て行ってしまおうとすると、それを見ていた障害の方が「外へ出ていくよ」等と職員へ教えてくださったり。

通常の世界では役割や居場所があまりないのに、その施設内ではみんな、個々にそれぞれの役割があり居場所があったんです。

それに衝撃を受けまして、自分でも介護関連の事業をするのなら老人だけというような対象を選別しないようなものにしたい、という想いがあったんです。

苦い体験

そうはいっても、すべて順調にケアができてきたわけではありません。
今も後悔の念にかられるような方もいらっしゃいます。

それは、ある認知症の女性利用者の方でした。まだ50代の若さで、若年性認知症の方でした。
その方をご主人が介護されていたんですが、一人での介護でしたから限界を感じられたのでしょう、介護保険施設を利用されるようになりました。

しかし、認知症の精神症状が強いということで施設から退去を促され病院への入院を迫られていました。

しかし、ご主人としては病院へ入院させることに抵抗がありました。

そこで担当しておられるケアマネジャーの勧めでうちを案内されたんです。
そして、ここを利用されるようになりました。

利用が始まると確かに、精神的な不安が強いのか若干、他の利用者に影響もあるような言動もありました。

でも、「介護が大変でお手上げ」というレベルではないので、だましだまし何とか対応していたんです。

でも、あるとき、一度だけ強い不安があったのか、他の利用者さんの身の安全にも影響が出そうな場面がありました。

私は「不安だけでもやわらげてもらうようなお薬があればいいですね」とケアマネジャーさんにお伝えしました。

その話がご主人の耳に入り、ご主人としてはうちを使えなくなると困ると思われたのでしょうか、とある精神科病院を奥さんと一緒に尋ねられました。

と、その受診から即、精神科病棟へ入院という話になってしまい、彼女は(当施設へ)戻らぬ人となってしまったのです。

まさか、突然、入院だなんて思ってもみませんでした。

少しだけ安心できるお薬を処方してもらえればいい、という程度のつもりで助言しただけだったのが、そんな結果になってしまいました。

まだ50代の若年の、これから先の人生も長い方の行く末を、不用意な発言で決定してしまったのかと思うと、今も心が痛みます。

民家という環境の持つ力が老人を落ち着かせることも 

ですが、ここは一人でも必要としてくださる利用者がいらっしゃる限り続けていきたいと思っています。

そして、できる限りご自宅の介護を中心にして、その援助ができればと思っています。

今も定期的に利用される若年の身体障害の方がいらっしゃるのですが、まるで自宅のようにリラックスして過ごされています。

大きな施設へ短期で宿泊するショートステイを利用される時には、大分、わがままも我慢し堅苦しさを感じておられるようですけど、

うちではそんなこともなく、時にわがままなこともおっしゃる。

それでいいと思ってます。

ある時には大きな施設でのショートステイに馴染めない認知症の方をケアマネジャーさんから突然、利用の相談が来ることもあります。

どうなるのかなと思いつつも受け入れてみると、そんな方も不思議と落ち着き過ごされる方が多いですね。

やはり、大きな施設は民家に比べると無機質な造りであることは否めず、落ち着けない空間なのかもしれません。

でも、ここは普通の民家ですから、少なくともいたずらな不安感は起こらないんじゃないでしょうかね。

とはいっても、先日は認知症から対応に苦労する方もいらっしゃいました。

認知症特有の不安定な精神状態になり、夜間、私を不法侵入者として「警察に通報する」など興奮された方もいらっしゃいました。

でも、それも認知症の方への対応方法として場面の転換を利用したりするとご本人の精神状態もガラっと変わることがあります。

嫌なこと、興奮したことなどさえも忘れてしまわれるので、そうしたことを利用しつつ、臨機応変に対応させていただきました。

◆自宅のようにワガママが言えてリラックスできる場でありたい




私が今の仕事をしていて嬉しいのは利用者さんが
「自宅で過ごしているかのようにリラックスされているなあ」
「わがままをおっしゃっているなあ」と感じるときです。

それには私自身の父のことが関係しています。

父が他界する前、こんなエピソードがありました。

父は脳梗塞を2回起こし、入院中の頃の話です。
当時、私はまだ介護職でもなく、ただ主婦でした。

父は医師の指導により食事として出される「おかゆ」が大嫌いで母に「ラーメンとホルモン焼きを買って来い!」とさんざん、わめいていました。

でも、まじめな母は「何バカな事、言ってんの」と聞き流すだけでした。

そして「お父さんがわがままばかり言って困るのよ」と私は母からよく愚痴をこぼされていました。

と、それから1カ月もしない間に、父はおかゆを誤嚥して亡くなってしまったのです。

嫌いなモノを食べて、それを詰まらせて死んでしまった父。
そのことを思うと、最期くらいは好きなものを食べさせてあげたかった。

わがままを聞いてあげたかったとの想いが残りました。

さらに、その後、私は介護保険施設で働くようになり、こんなことがありました。

ある老人がいました。
彼は飲み込みができないので、食事をミキサーでドロドロにした「とろみ食」で食事介助していました。

ある日、施設内の 行事があり、刺身を利用者の目の前でさばいて舟盛りにすることがあったんです。

私はいつものようにその方に、ミキサーで加工した「とろみ食」を介助で食べてもらおうとしたんです。

すると、その瞬間、なんと、彼は自分で手を伸ばして、目の前のまぐろの刺身をパクリと食べてしまわれたんです。

私の目の前でモグモグとよく噛んで、ゴクリと見事に飲み込んでしまわれたんです。


「すごーい !!」と感動。

そんな体験が重なり老人はできうる限り好きなものを食べる方がきっと幸せなんじゃないかなと思うようになったんです。

以来、うちは介護保険のサービスではないので、ご本人、御家族の了解が得られれば、なるべく四角四面ではない、ご本人や利用者の意向に添えるような対応ができるよう努力しています。


そして、人生の最期の時間を少しでも気ままに、自由に過ごしていただければと願っています。(おわり)

個人情報などは変更を加えております。
(取材 2012.8
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     サテライトホーム さざんか
191-0065 東京都日野市旭が丘2-8-18

電話 042-581-3739(窪川)

     基本料金700/時間から。
※ 食事代500/食 入浴料500/
     その他、長期宿泊などは応相談。

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◆編集部より◆



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