2021/06/12

新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン

誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現

新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン


平成27年9月17日 厚生労働省

新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム


1.総論
(1)現状と課題
①家族・地域社会の変化に伴い複雑化する支援ニーズへの対応
②人口減少社会における福祉人材の確保と質の高いサービスを効率的に提供する必要性の高まり
③誰もが支え合う社会の実現の必要性と地域の支援ニーズの変化への対応

(2)検討の視点と改革の方向性
①新しい地域包括支援体制の確立
②生産性の向上と効率的なサービス提供体制の確立
③総合的な福祉人材の確保・育成

2.様々なニーズに対応する新しい地域包括支援体制の構築
(1)包括的な相談支援システムの構築
(ニーズの多様化、複雑化への対応)
(本人のニーズを起点とする新しい地域包括支援体制の構築)
(新しい包括的な相談支援システム)
(地域がかわる)
(システムづくりの具体化)
(システムを全国に拡げるために)
(2)地域の実情を踏まえた支援の総合的な提供
(新しい地域包括支援体制における支援の提供)
(まちづくりのかたちとして)
(総合的なサービス提供の阻害要因の改善等)

3.サービスを効果的・効率的に提供するための生産性向上
~よりよいサービスを目指して~
(今後の福祉サービスのあり方)
(福祉サービスにおける生産性向上とは何か)
(生産性向上に向けた具体的な取組)
(取組を全国に拡げるために)

4.新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保
(1)基本的な考え方
(新しい地域包括支援体制の基盤としての人材の育成・確保)
(新しい地域包括支援体制において求められる人材像)
(求められる人材の育成・確保の方向性)
(中長期的な検討課題)
(2)新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保のための具体的方策
① 包括的な相談支援システム構築のモデル的な実施等
②福祉分野横断的な基礎的知識の研修
③福祉人材の多様なキャリア形成支援・福祉労働市場内での人材の移動促進
④潜在有資格者の円滑な再就業の促進
⑤介護人材の機能分化の推進
⑥多様な人材層からの参入促進

5.今後の進め方

1.総論

 

(1)現状と課題

家族・地域社会の変化に伴い複雑化する支援ニーズへの対応

これまでの日本の福祉サービスは、高齢者、児童、障害者など対象ごとに充実・発展してきた。加えて、

高齢者施策については地域包括ケアを進め、子育て支援についても地域での子育てが重視されるようになり、障害者福祉については施設から地域へと、地域福祉づくりに取り組んできた。

その一方で、

共働き世帯の増加や

高齢者の増加により

子育てや介護の支援がこれまで以上に必要となる中、

高齢者介護・障害者福祉・子育て支援・生活困窮等

様々な分野において、

核家族化、

ひとり親世帯の増加、

地域のつながりの希薄化等により、

家族内又は地域内の支援力が低下しているという状況がある。

 また、

医学の進歩等に伴い、医療を受けながら地域で暮らす患者等が増加し、それに伴い、これらの者の福祉サービスに対するニーズも増大している。

さらに、

様々な分野の課題が絡み合って複雑化したり、世帯単位で複数分野の課題を抱えるといった状況がみられる。

こうした課題に対して、

地域全体で支える力を再構築することが求められる。

同時に支援のあり方としても、これまでのように分野ごとに相談・支援を提供しても、必ずしも十分な相談・支援が実現できるとは限らない状況が生じてきている。

したがって、

いわゆる互助・共助の取組を育みつ、対象者の状況に応じて、

分野を問わず包括的に相談・支援を行うことを可能とすることが必要となっている。

 

人口減少社会における福祉人材の確保と質の高いサービスを効率的に提供する必要性の高まり

2042年までは高齢化率が上昇すると見込まれており、介護を必要とする人は増え続ける。さらに、

複雑化する支援ニーズに対応するべく福祉サービスを充実するためには、より多くの福祉人材が必要となり、

これまで以上に福祉人材の確保に努める必要がある。

しかし、急速な少子高齢化の進展により、日本全体の労働力人口は減り続けており、福祉のみならず様々な業種が必要な人材を確保できず人手不足に悩んでいる。

こうした福祉に関する需要(支援ニーズ)と供給(福祉人材)のギャップを踏まえると、現在でも人手不足に悩んでいる福祉分野において、

今後人材を飛躍的に増加させるということは、現状よりも一層困難になることが見込まれる。

このため、人口減少社会において福祉サービスを持続可能なものとするべく、

効果的・効率的なサービス提供体制について検討するとともに、

キャリアのあり方を含めた福祉業界における人材の活用

についても検討を重ねることが必要である。

 

③誰もが支え合う社会の実現の必要性と地域の支援ニーズの変化への対応

我が国は、世界有数の経済先進国、健康長寿国となった。

このように成熟した先進国では、質の高い生き方、暮らし、人材活用を実現していく必要がある。

このため、

福祉の世界においても、今まで以上に、高齢者、障害者、児童、生活困窮者等、すべての人が世代やその背景を問わずに共に生き生きと生活を送ることができ、また、

自然と地域の人々が集まる機会が増え

地域のコミュニティが活発に活動できる社会の実現

が期待される。そして、この

共生社会を実現するためのまちづくり

が地域において求められる。

 一方、地域によって、

「若年人口は減少するが、老年人口は増加する」、

「若年人口の減少が一層加速化し、老年人口も減少していく」

など今後直面する状況が大きく異なる。

各地域において、こうした状況を踏まえ、将来的な福祉ニーズの変動を見据えつつ、

必要とされる福祉のサービス提供体制のあり方を主体的に考えることが重要である。

このため、

誰もが支え、支えられる社会の実現を目標に掲げながら、

地域における将来的な支援ニーズの変動に対応可能であり、また、

地域がその状況に照らして適切であると考える

福祉サービスの提供体制の構築が可能となるよう、

多様なサービス提供体制を確立していくことが必要である。

(2)検討の視点と改革の方向性

①新しい地域包括支援体制の確立

(1) の課題を解決するためには、すべての人が世代や背景を問わず、安心して暮らし続けられるまちづくり(全世代・全対象型地域包括支援)が不可欠である。

 

例えば、高齢者施策では団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指しており、今後ともこれを着実に進めるとともに、

以下のとおり、こうした

包括的な支援の考え方を全世代・全対象に発展・拡大

させ、各制度とも連携して、新しい地域包括支援体制の確立を目指す。

 

ア)分野を問わない包括的な相談支援の実施

新しい地域包括支援体制(全世代・全対象型地域包括支援)を実現するためには、複数分野の問題や複雑に絡む問題を抱える対象者や世帯に対し、相談支援(対象者や世帯との相談と、それを踏まえて必要となるサービスの検討、プランの作成など)を野横断的かつ包括的に提供することが求められる。これを実現するためには、相談支援において、分野ごとに別々に支援を行っていたのでは、十分な支援は行い得ない。

したがって、ワンストップで分野を問わず相談・支援を行うことや、各分野間の相談機関で連携を密にとることにより、対象者やその世帯について、分野横断的かつ包括的な相談・支援を実現するための方策を検討する。

イ)地域の実情に見合った総合的なサービス提供体制の確立

サービスの提供に当たっては、地域の支援ニーズの現状・将来的変動、人口の状況、まちづくりの方針等を踏まえ、それぞれの地域がその実情に合った体制を整えることを可能にすることが肝要である。

このため、専門性に則って高齢者介護、障害者福祉、子育て支援、生活困窮等の支援を別々に提供する方法のほかに、複数分野の支援を総合的に提供する方法を検討する。

これは、日常生活の中で誰もが集い、支え合う場の形成、すなわち、支援に関わる当事者のみならず住民も参画するまちづくりへの取組ともなる。

②生産性の向上と効率的なサービス提供体制の確立

人口減少が進み、一層人材の確保が難しくなる一方で、全世代・全対象型地域包括支援を確立するために、これまで以上に充実したサービスを提供し続けることが求められる。

こうした二つの命題を満たし、福祉を持続可能なものとするためには、

人材の生産性を向上させることと、

効率的なサービス提供体制の構築が不可欠である。

 

このため、生産性の向上や業務の効率化を図り、少ない人数でのサービス提供が可能となるような、

これからも続く人口減少社会においても持続可能な、

将来を見据えた福祉サービスのあり方を検討する。


③総合的な福祉人材の確保・育成

日本の労働力人口が減少する中にあって、他業種から福祉人材を確保することは一層困難な状況となる。

このため、福祉業界における働き方・キャリアの積み方をより魅力的なものとし、福祉人材であり続けることを可能とする必要がある。

具体的には、

福祉の各分野・各業務に限定したキャリアステップ(例えば、介護従事者が介護に直接従事するサービスの分野のみでキャリアを考えることなど)のみでは福祉人材の旺盛な福祉マインドを充足するには十分ではなく、

幅広い業務があり多様性を有する福祉という業界全体でのキャリアステップを可能とすることが求められる。


必ずしも一つの分野のみで働いていくのではなく、そのライフステージ等に応じて異なる分野で活躍できるよう、多様なキャリアステップを歩める環境の整備を検討する必要がある。


また、新しい地域包括支援体制を確立するため、これらを担う福祉人材のあり方を検討する必要がある。

その福祉人材としては、複数分野を束ね、必要とされる支援を実施するために業務や職員をコーディネートする者や、自らの専門分野の他に

分野横断的な福祉に関する基礎知識を持つことにより様々な分野の基礎的な支援については臨機応変に担うことができる人材が求められている。

 

2.様々なニーズに対応する新しい地域包括支援体制の構築


(1)包括的な相談支援システムの構築

(ニーズの多様化、複雑化への対応)

福祉サービスは、これまで、基本的には対象者ごとに整備されてきた。これは、とりわけ各制度の発展過程においては、典型的と考えられるニーズに専門的なサービスを提供するという点で、日本の福祉施策の充実・発展に寄与してきたと考えられ、今日においても、こうした構造を全面的に見直す必要性は見いだしがたい。


しかしながら、制度が成熟化する一方で、少子高齢化、単身世帯の増加、地縁・血縁の希薄化などが進み、ニーズが多様化、複雑化する現代社会においては、既存の制度の対応では複合的なニーズを持つ者などが適切な支援を受けられないという課題が提起されている。

 

例えば、軽度の認知症が疑われる80代の老親が無職で引きこもっている50代の子と同居しているなどの場合、当該世帯はしばしば複雑な課題を抱え地域から孤立しているにも関わらず、その世帯全体の課題に的確に対応する仕組みが存在しないなどの問題がある。

 

また、がん患者や難病患者が福祉ニーズや就労ニーズなど分野をまたがるニーズを有する場合に総合的な支援の提供が容易でないほか、

 

障害が疑われながらも障害者手帳を有していない場合、

望まない妊娠の中で複雑な事情を抱えている場合

性犯罪被害の場合なども、

適切な支援が受けられないなどの例がみられる。

さらに、難病対策等は都道府県を中心に実施されているが、介護、障害などの福祉サービスは市町村が中心であり、実施主体が異なり連携が取りにくいという課題もある。

 

こうした例は数多く存在している。このため、今後は、分野ごとの専門サービスについて引き続き機能強化を図りつつ、複合的な課題を抱えるなどの要援護者に対しても、適切な支援を提供する仕組みを構築する。

 

(本人のニーズを起点とする新しい地域包括支援体制の構築)

これは、高齢者に対する地域包括ケアシステムや生活困窮者に対する自立支援制度といった包括的な支援システムを、制度ごとではなく地域というフィールド上に、高齢者や生活困窮者以外に拡げるものであり、「制度の狭間」という日本の福祉制度に最後に残った欠片を埋める営みでもある。

 

ここで重要となるのは、対象者を制度に当てはめるのではなく、本人のニーズを起点に支援を調整することである

 

こうした考え方に立って、高齢者、障害者、児童、生活困窮者といった別なく、地域に暮らす住民誰もがその人の状況に合った支援が受けられるという新しい地域包括支援体制を構築していく。

 

こうした取組は、個人のニーズに合わせて地域を変えていくという「地域づくり」にほかならない。

 

また、これを進めるに当たっては、個々人の持つニーズのすべてを行政が満たすという発想に立つのではなく

住民を含む多様な主体の参加に基づく「支え合い」を醸成していくことが重要である。

地域のことを自ら守るために行動し、助け合いを強めていく住民・関係者と、包括的なシステムの構築に創造的に取り組む行政とが協働することによって、

誰もが支え、支えられるという共生型の地域社会を再生・創造していく。

 

(新しい包括的な相談支援システム)

新しい地域包括支援体制は、包括的な相談支援と具体的な支援提供とに分けられる。このうち、包括的な相談支援は、

①相談受付けの包括化とともに、それのみではなく、

②複合的な課題に対する適切なアセスメントと支援のコーディネートや、

③ネットワークの強化と関係機関との調整に至る一貫したシステムであり、

④また、必要な社会資源を積極的に開発していくものである。

 

具体的には、

①システムの入口として、現状では適切なサービスを受けることができない様々な対象者を掬い取り、包括的に受け止める相談体制を構築する。これは、地域によってニーズや既存の相談体制が異なることを踏まえ、その地域の実情に応じたかたちで実現することが重要である。

 

具体的には、地域によっては、「全世代対応型地域包括支援センター」といった相談窓口を整備することが考えられる。

 

これは、人口規模の小さい自治体においては、ワンストップ型の窓口として機能することも考えられるほか、既存窓口のバックアップ機能としての役割を担うことも考えられる。

また、規模の大きな自治体においては、既存の相談窓口の連携を強化することで、地域全体として包括的な相談支援体制を構築することも考えられる。様々な形態が想定されるが、いずれにせよ、いわゆる「たらい回し」といった事態が生じないようにすることが肝要である。

 

今後、相談窓口の包括化を図っていくべき分野として、例えば、

ひとり親家庭の相談窓口があり、ここで、子育て支援や生活相談から就業に関する支援まで、ワンストップで応じることができる体制を整備することが求められている。このため、これら分野別の包括化と地域全体の包括化が適切な役割分担を果たしながら、連動していくことが重要である。

 

また、複合的な課題を抱えた対象者の多くが地域から孤立し、あるいは複合的な課題ゆえにどこにどう相談して良いかすら分からないという状況にあることも踏まえ、新しい包括的な相談支援システムは、「待ちの姿勢」ではなく、対象者を早期に、かつ積極的に把握すること、すなわち「アウトリーチ」という考え方に立って運営することが重要である。

 

②次に、この相談システムにおいては、本人や、場合によっては育児、介護、障害、貧困など世帯全体の複合的・複雑化したニーズを捉え、解きほぐし、生育歴などの背景も勘案した本質的な課題の見立てを行うとともに(アセスメント)、複合的なニーズに対応する様々な支援をコーディネートすることが求められる。また、包括的な支援が関係機関も含めて一貫して行われるよう、本人を中心とした総合的な支援プランを作成し、関係機関と検討、共有する。

 

③こうした包括的な支援を実現するためには、強化された相談支援機関を中心に、地域のネットワークを構築することが必要である。その上で、実際の支援に当たっては、当該相談支援機関が関係機関に積極的に働きかけ、総合調整を図ることが重要である。

 

なお、その際、特に広域的な対応がなされているがん患者や難病患者などについては、当該ネットワークに保健所、がん診療連携拠点病院、難病相談支援センターを組み込むなど、組織や地域の壁を越えて広くネットワークを構築することに留意が必要である。

 

必要に応じて積極的に本人に同行して関係機関に赴き、本人のニーズを適切に代弁するとともに、関係者の協力を得ながら本人に継続的に関わる。こうした「伴走型」の支援を重視する。

 

④そして、様々なニーズに対し、既存資源のネットワーク強化だけで不足する場合には、積極的に必要な社会資源を創造・開発していくことが求められる。これを実行するため、相談支援機関が地域会議を主催し、関係者と協議する枠組みを設けることが考えられる。

 

現在、個別の各福祉施策においても、地域づくりの重要性が叫ばれているが、これらは、別々に取り組まれるべきものではない。新たに創設される地域会議についても既存の協議会などの合議体に屋上屋を重ねるといったことがないよう、既存組織の再編や部会形式などの設置も検討すべきである。

 

また、地域づくりにおいては、専門機関のみならず、住民団体やボランティアなど、いわゆるインフォーマルな部門とも協働し、互助の取組も重視した「支え合いの地域づくり」を検討していくことが重要である。

 

(地域がかわる)

このように、多様なニーズの把握、支援プランの作成、関係機関・関係者との調整、合議などを一貫して行うシステムを導入することによって、地域に存在する多様なニーズが拾われ、関係者の参加と協議の中で少しずつ課題解決に向けて動きだすことが可能となる。

複数課題を有する世帯全体に様々な機関・人による総合的な支援や関わりが実現され、個別の取組の積み重ねがやがて大きな潮流となって地域を変えていく。

 

これを実現するためには、より広い関係者が協働する新しい連携のかたちを具体化しなければならない。

それは、第一に、官民協働であり、

行政においては、制度を適切に執行するというこれまでの発想に加え、

地域の求める仕組みを積極的に創っていくという視点が重要となる。


また、新しい連携のかたちは、福祉分野内に止まるのではなく、福祉以外の分野に拡大していかなければならない。


特に、高齢者に対する地域包括ケアを現役世代に拡げることを想起すれば、

雇用分野との連携が極めて重要である。例えば、がん患者や難病患者への支援では、質の高い医療の提供のみならず、本人の状況に応じ、福祉的な支援、そして就労支援を提供することが重要である。

 

就労支援においても、農業分野で生活困窮者を雇用するなど、異分野との連携を検討することが重要である。

 

地域によっては、既に生活困窮者や障害者への就労支援と地域創生、農林水産業における人手不足対策、環境やエネルギー問題への対応などを総合的な取組として昇華させ、地域のより広い関係者がWin・Winの関係となる地域完結・循環型のまちづくりを行っている例も見られる。

 

また、多様化する住民のニーズにおいては、健康面での課題があることも多く、地域における保健医療分野との連携及びネットワークの強化も重要である。

 

医療・介護分野においては、2014年に成立した医療介護総合確保推進法により、効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムを構築するための改革が進められており、これらの取組と合わせて医療・介護・福祉の連携を進めていく。

 

そのほか、教育、司法、地域振興その他の分野が、本人と地域のニーズに応じる形で様々に協働していくことは、いずれも「福祉」から発想するのではなく、「地域」から発想することで可能となる。このように、新しい地域包括支援体制は、地域をフィールドとした新しいまちづくりをめざすものである。

 

(システムづくりの具体化)

地域の実情に合わせた様々な形態により、包括的な相談支援システムを実現するため、関係機関の間で積極的に動き回るコーディネーターの配置を検討することが必要である。同時にこれは、単なるコーディネーターの配置ではなく、上記のとおり、包括的な受け止めからアセスメント、コーディネート、調整、社会資源の開発までを地域のシステムとして具体化するものである。こうしたコーディネーターは、必ずしも、すべての分野に精通した特別な存在である必要はない。幅広い、ただし基本的な知識を有した上で、適切な見立て力や調整力、創造的な企画力、そして何よりフットワーク軽く行動する力が求められる。

 

(システムを全国に拡げるために)

こうした新しいシステムを全国に拡げていくためには、包括的で分野横断的なノウハウを普及させていくことが必要である。このため、包括的な相談支援をモデル的に展開していく中で、地域の実情に合わせた適切な手法やノウハウを整理・分析するとともに、好事例を収集・選定・発表し、全国に提示していくことを検討する。これにより、どの地域においても、誰もが支え、支えられるという地域包括支援体制の実現をめざす。

 

なお、こうした包括的な相談システムは、全国どこでも必要であると考えられることや、個人情報の保護を含む支援の質の担保を図る観点から、将来的には、法的な位置づけについても、適切に検討すべきである。

 

また、現在国会に提出されている社会福祉法等の一部を改正する法律案において、地域における公益的な取組の実施が責務とされ、地域の幅広い福祉ニーズに対応していく法人として位置づけられる社会福祉法人にも、支援体制の担い手として重要な役割が期待される。

 

社会福祉法人がこうした地域福祉の主要な担い手としての役割を果たすことができるよう、経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上、財務規律の強化等の改革を確実に実施するための支援が重要である。

 

さらに、生活保護受給者等については、介護や日常生活上の見守りを必要とする高齢者、障害者等もいることから、施設などから居宅生活への移行後の日常生活の継続的な見守り支援の実施や福祉サービスとの連携の下での「住まい」の確保の支援の充実を図ることが必要である。

 

また、地域福祉基盤の充実を図るためには、すべての福祉制度の土台となる生活保護制度が適切に機能することが必要であり、その見直しのための研究や年金調査の推進を検討していく。

 

(2)地域の実情を踏まえた支援の総合的な提供

 

(新しい地域包括支援体制における支援の提供)

地域に暮らす誰もがそのニーズに応じた適切な支援を受けることができる新しい地域包括支援体制においては、「入口」である包括的な相談支援から支援の組み立て、コーディネートとともに、「出口」となる支援の実行までが、共生型のまちづくりという基本理念の下に行われることが重要である。

 

その上で、具体的な支援提供のあり方は、各地域の人口規模や構造、地域資源の状況等により異なると考えられる。しかしながら、今日の人口減少局面においては、特に中山間地域など地域によっては、従来の制度ごとによる施策展開では、対象者とともに支援人材や活用できる社会資源が限られ、事業運営が非効率となるとともに、適切なサービス提供に支障が生ずるおそれがあることに留意が必要である。

 

こうした状況に対応する支援の提供のあり方には二つの方向性が考えられる。

 

一つには、(1)において記述したとおり、本人や世帯が複合的なニーズを有する場合に、包括的な相談支援による一貫した方針の下に、関係機関や関係者が複数のサービスを総合的に提供することである。これにより、例えばがん患者や難病患者等が、通院のほか福祉サービスや就労対策も受けられるようにしていく。

一方、人口減少下における効率的で柔軟な事業運営を確保するための一つの方策として、地域によっては、その実情に応じ、高齢、障害、児童、生活困窮等の福祉サービスを総合的に提供できる仕組みを構築できるようにするとともに、これを地域づくりの拠点としても機能させることが重要である。

 

(まちづくりのかたちとして)

福祉サービスを総合的に提供する仕組みについては、既に各地において、様々なかたちの取組が行われている。その基本的な理念は、いずれも、誰もが分け隔てなく支え合い、その人のニーズに応じた支援が受けられるという共生型社会の構築である。

高齢者、障害者、児童、生活困窮者などが集まり、支援を受けながらできるだけその人らしい生き生きとした生活を継続するとともに、ときには支え手に回り、あるいはともに支え合うことが重要である。

また、集まった人たちが地域の課題解決を皆で検討し、地域コミュニティの活性化にもつなげていく、すなわち、誰もが何らかの役割を担い、人と人とが支え合うまちづくりへの取組である。

 

こうした取組に当たっては、支援を必要とする高齢者、障害者、児童等や支援を提供する者だけではなく、地域住民の参加が重要である。例えば、障害者が働くカフェなどに住民が集まり、地域のことを話し合う中で、発見や見守り等を担うインフォーマルな資源としての支援ネットワークの強化につながり、まちづくりの輪が拡がっていく。

 

なお、高齢者、障害者、児童など分け隔てなくサービスを提供する地域の取組は、現在、通いや居場所の提供を中心に、泊まりなども含めた形態で行われていることから、こうした取組の推進は、まずは通いのサービスを中心に検討することとし、これを踏まえ、その他の形態のサービスについても検討していくことが適当と考えられる。

 

対象者を問わずに誰もが通い、福祉サービスを受け、あるいは居場所ともなる取組の一つに「小さな拠点(多世代交流・多機能型の福祉拠点)」があり、今年度から地方創生の交付金を活用した整備が始まったところである。

 

こうした取組は、各地において、要介護者や障害者に専門サービスを提供するものから、地域福祉の拠点となり居場所機能を担うものまで、様々なかたちで行われている。

 

共生型のまちづくりの理念に照らせば、こうした「小さな拠点」は、居場所や支援の提供のみならず、例えば高齢者と子どもの世代間交流に加え、住民も含めて誰もが交流しながら、地域課題を話し合う「場」を提供するものとなり、これを拠点としたまちづくりの取組が拡がることが期待される。

 

このような取組をまちづくりのかたちの一つとして、地域の実情を踏まえながらさらに推進するため、モデル的な事業運営を行う中で、サービス提供のあり方や留意点、サービス提供を阻害する規制等の改善を検討するとともに、ノウハウを蓄積し横展開することが必要である。

 

(総合的なサービス提供の阻害要因の改善等)

具体的には、「小さな拠点」の整備の推進や総合的な支援提供の仕組みの構築と併せて、多世代交流・多機能型の取組に際し障壁となっている各制度の人員配置基準、施設基準の改善について検討する必要がある。

その際、実際には国は求めていないが、自治体の運用において規制されている事項もあると考えられる。このため、まずは現状においても運用上対応可能な事項に係るガイドラインを策定し、その周知を図ることとする。また、必要に応じ報酬改定も視野に、各制度の人員配置基準、施設基準の緩和を検討することとする。

 

さらに、こうした基準の緩和も踏まえ、複数分野のサービスや包括的な相談支援を行う際に、円滑に報酬が支払われるよう整理を行い、制度上の分類が事業者等の取組を阻害する点があればさらに報酬の支払い方法※等を見直すことを検討する。

 

※現在、基準を満たさない場合でも一定の条件の下で報酬の支給を認める基準該当サービスの仕組みがあるが、この基準該当サービスも活用できない又は活用しにくい場合についてどう考えるか、といった課題がある。

 

併せて、例えば、児童のための施設として整備したが、年数の経過に伴う需要の変化等により高齢者のための施設として運用したいという場合に、施設の転用が難しいといった声がある。このため、各分野の補助金により整備した施設を10年未満で他の福祉施設に転用する場合に、補助金返還を要しないこととする要件の拡大や転用手続きの簡素化を検討する。

 

3.サービスを効果的・効率的に提供するための生産性向上

~よりよいサービスを目指して~

 

(今後の福祉サービスのあり方)

日本は、2042年頃までは高齢化率が上昇し続けることが見込まれており、また、障害を有する方や生活保護受給者の割合も全体的には上昇傾向にあるなど、福祉的支援を必要とする方は今後も増えていくことが予想される。加えて、支援を必要とする方の抱える課題は複雑化・困難化しており、一人一人に寄り添ったよりきめ細やかな支援がより一層求められているところである。

一方、福祉的支援を財政面でも人的面でも支える立場にある生産年齢人口(15歳~64歳)は現在減少局面にあり、人口全体で見ても、引き続き減少傾向が続く人口減少社会に入ってきたと言える。

このように、福祉に関する需要(支援ニーズ)は量的にも質的にも増大すると予測される中で、それを支える供給(人的資源)には限界があることを踏まえると、今後の福祉サービスのあり方を考えるに当たっては、きめ細やかで良質なサービスを限られた人材によりいかにして提供していくことができるか、という視点が不可欠である。

 

福祉サービスにおける生産性向上とは何か

生産性とは、生産資源の投入量と生産活動により生み出される産出量の比率として定義され、投入量に対して産出量の割合が大きいほど効率性が高いことを意味する。しかし、サービスの対価が公定価格で定められ、その公的価格はサービスに要する平均的な費用を基に定められている福祉サービスにおいては、これまで生産性向上という言葉になじみが薄く、あまり問題提起されてこなかったものと思われる。


内閣府の平成27年度経済財政白書によれば、「基本的な経済成長理論によれば、長期的な経済成長の姿は人口成長率と技術進歩率の和として与えられるが、生産年齢人口の減少が今後の成長制約となる我が国において持続的な経済成長の実現を目的として経済の生産性に着目することは必然」であり、

経済のサービス化が進む中で、「製造業に比べ、生産性の向上に遅れがみられるサービス産業において生産性を高める余地が大きい」とされる。また、経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針)では、生産性向上の潜在可能性が高いサービスにおいて、「サービス生産性革命」を推進するとされ、小売業、飲食業、宿泊業、介護、道路貨物運送等の5分野でサービス業の生産性向上協議会を立ち上げて取組を推進するとされている。

 

福祉サービス分野においても、今後の労働力の確保や、制度を支える国民の負担に一定の制約がある以上、生産性の向上という考えの浸透を図っていく必要がある。

 

生産性の定義からは、投入量を減らす、又は、産出量を増やせば、生産性が向上することとなるため、投入できる資源に限りがある中で、福祉サービスの生産性を向上させるためには例えば、

・より少ない人数によるサービスを確保する(投入量の減少)又は

・重要なサービスに特化する(投入量に対する産出量の増加)

などが考えられるが、労働集約的な福祉サービス分野においては、生産性向上は従業員の賃金上昇につながることが期待できる。

 

例えば、先進的なICT技術を用いたり、業務の流れを見直すなどにより、職員の事務作業の手間を見直し時間を短縮化すれば、一人の従業員はより多くのサービスを提供することができるようになり、より多くの賃金を得ることができる。

 

また、例えば介護福祉士のような専門性の高い職員であれば、より専門的な業務に特化することにより、より多くの賃金を得ることもできるだろう。

 

労働力確保や国民負担に一定の制約がある福祉サービス分野における生産性向上は、まずは、従業員の賃金の上昇という観点や、同じ質のサービスをより少ない労働量で実現するためにはどうすれば良いかという観点で捉え、その上で、限られた人材により良質なサービスを提供していくという観点で捉えると良いであろう。

 

(生産性向上に向けた具体的な取組)

福祉サービスの生産性を向上させていくためには、サービス提供側の効率化を図るとともに、サービスの効果を高める取組が重要である。

中でも、「サービス提供側の効率化を図る」取組は大きく分けると二つに分けることができ、

一つは、

ロボットやICTといった先進的な技術を用いた効率化、もう一つは、

業務の流れの見直し等を通じた効率化が考えられる。

 

  先進的な技術等を用いた効率化

機械化による効率化は、労働集約性の高いサービス業にはなかなかなじまないことと思われてきたが、昨今では、技術の進歩により、介護者・介助者の負担を軽減するためのロボットや、被介護者たる高齢者や障害者の自立支援を行うためのロボット機器等、労働集約性の高い福祉サービスにおいても便利と考えられる機器が開発されるようになってきている。

 

これらを利用することにより、介護者の腰痛等の悩みを解消し、負荷のない身体的に健康な状態で介護に関われるようにしたり、ちょっとした支えがあれば自立できる高齢者や障害者のところにも介護者が訪問をしなければならなかった場合において、自立支援機器を利用することで、介護者が訪問しなくても高齢者や障害者の生活が成り立つ場面も出てくる。

 

また、ロボットだけでなく、ICTの導入・活用も重要である。

 

日本国内のクラウドサービス市場規模は2010年から2016年までの6年間で約8倍に、スマートフォン契約件数は2011年から2018年までの8年間で約10倍になると予測されている。

また、OS・アプリケーションの更新等もクラウドを活用して手軽に行うことができ、特別な知識を持たなくとも、最新のサービスを享受する環境が整ってきている。

このような環境の変化の中、クラウドサービスを含め情報ネットワークを利用し事業所内外の関係者間において利用者情報をリアルタイムで共有することによって、即時に必要な対応が可能になったり、引き継ぎ時間を改めて設定せずとも情報交換が可能となり、速やかな連携を行うことができるようになる。

 

加えて、持ち歩き可能なタブレット等のモバイル端末を用いることで移動時間中に報告書を作成することが可能となるとともに、ICTの活用により介護報酬請求や保育に関する記録の作成の手間も省くことができ、介護福祉士や保育士等の事務負担の軽減につながる。

 

これらの取組は、介護や保育、障害者福祉等の各分野において、限られた人材を量的にも時間的にも効率的に活用することを可能とする方策であり、ロボット等の開発・実用化に向けた支援をより一層強化するとともに、ICTを用いた取組を今後も支援していくことが重要である。

 

②業務の流れの見直し等を通じた効率化

現在行っている業務のやり方自体を、「効率化」という観点から再度見直してみることも重要である。

例えば、サービスの提供手順やプロセスを見直し、スタッフの経験や能力の違いによってサービスのばらつきがあれば、そのばらつきを改善するために、効率的なサービスの提供手順・プロセスを職員全体で共有するなどの対応も有効と考える。

また、併設されている事業所で複数事業を行っている法人などにおいては、職員が業務を兼務できるようにすることも重要である。現在でも、例えば介護保険制度においては、併設されている事業所の管理者などは兼務が可能となっており、こうした兼務できる範囲を制度的に拡大していくことも重要である。

 

併せて、事業経営規模の拡大や事業の共同実施を進めることで、規模の経済性を利用することも有効と思われる。

 

例えば、今般行われた介護保険制度改正においても、小規模通所介護の見直しの中で、小規模通所介護を通所介護(大規模型・通常規模型)のサテライト事業所へ移行することを一つの選択肢とする等事業者の効果的な事業運営につながるような取組を進めるとともに、今年度の介護報酬改定においては、特別養護老人ホームと併設可能となる施設の範囲を拡大したところであり、

今後も引き続き、そうした規制緩和を進めていく必要がある。

 

また、異なる経営主体であっても、共同実施できる部分では協力し合うことも効率的である。特に人材育成は事業実施において非常に重要であるにも関わらず、財政的な面で着手しにくい部分でもあり、小規模事業所同士が職員研修を共同実施することや人材交流を行うことで、互いの人材の見識や経験を深めていくことも重要である。

 

他方、

こうした生産性向上に向けた取組は事業者単位では既に様々な試行錯誤が行われているが、地域あるいは全国レベルでの展開に結びついていない。

 

これは、例えば、ICTや介護ロボットの活用等による人的資源の省力化について、

「介護分野の労働集約的な特性から、同時にサービスの質や利用者の満足度の低下を招くのではないか」、

「一部の大規模な事業者のみに効果があり自身の事業者での導入効果はないのではないか」、

「開発者しかその技術を評価していない、あるいはその技術導入の阻害要因がある以上、当面は見送る」と考える事業者が多く存在することが一因であろう。

 

こうした現状を打開しなければ、新たな技術が開発されても販売ロットが十分ではなく採算が合わずに泡沫のごとく衰退していくという最悪のシナリオも想定され得る。

 

介護業界の真なるイノベーションを起こし、それを継続していくためには、福祉業界関係者の現場レベルの視点のみでなく、技術を開発するICT業界等の視点、介護分野のアカデミア等による介護の質や利用者の満足度の視点、さらには国や地域の実情に応じて制度を企画・運営する地方公共団体の視点も踏まえた議論を進め、合意形成をしていくことが重要である。

 

このため、新たな技術(ケアの手法、ICT等)の導入により、サービスの質の維持・向上を図りつつ、生産性の向上を促すための最適な手法や現場での導入プロセス(職員の研修、利用者の理解を得るための説明等)について、「見える化」を図るための枠組みとして産学官のプラットフォームの構築を検討していく。

 

  サービスの質(効果)の向上

生産性の向上の議論においては、「生産性の向上を目指すとサービスの質の低下を招くのではないか」との懸念が示されることがあるが、生産性の向上とサービスの質の向上は決して相反するものではない。

 

①・②の取組などにより生産性が向上すれば、同じ質のサービスをより少ない労働量で実現することができるようになり、また、同じ労働量であればより多くのサービスやより質の高いサービスを提供することができることとなる。

 

これからの人口減社会の中で労働力の確保に一定の制約がある状況においては、サービスの質(効果)の向上を目指す前提としても生産性向上が必要であるとの共通認識が必要である。

 

福祉においては、良質で効果的なサービスを提供するためには、サービスの担い手たる人材の質を高めていくことがまずは重要である。

例えば、介護においては、介護福祉士という資格職から、必ずしも資格を有さない介護職員まで様々な人材が働いているが、人材層それぞれの能力や役割分担に応じた研修を行うことにより、より一層質の高い人材を育成していく必要がある。専門能力の高い人材が、その能力に見合ったより専門的な業務に集中できるようになれば、まさに、効率性の向上とサービスの質(効果)の向上を同時に満たすこととなる。

 

また、ロボットやICTといった先進的な技術は、単に低下した身体機能を補うもの、又は単に人手が足りないからそれを補うものという、消極的な位置付けだけではない。

ロボットやICTといった技術を用いて、今まで以上にQOLを高めるといった積極的な評価も近い将来に可能となるであろう。

 

なお、サービスの質に関する第三者評価の受審を促すなど、第三者的な客観的な視点により、質の高いサービスを促す取組も重要である。

 

(取組を全国に拡げるために)

福祉サービスにおける生産性向上に向けた取組について、全国的な流れとするためには、まずは、モデル事業などを実施し、産学官のプラットフォームの枠組みも活用しながら、効果的・効率的なサービス提供体制の確立に向けた先駆的な取組を分析・検証し、好事例を全国に提示していくことが必要である。

 

これにより、福祉サービス全体の生産性向上を図り、サービスの受け手・担い手双方にとってより良い福祉サービスの構築を目指すべきである。

 

4.新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保

 

(1)基本的な考え方

 

(新しい地域包括支援体制の基盤としての人材の育成・確保)

新しい地域包括支援体制の構築においては、その担い手となる人材の質的・量的な確保が最重要の基盤である。

 

特に、新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保に当たっては、地域社会の変容(互助機能の低下等)の中で複合化・困難化したニーズに効果的・効率的に対応できる人材の質の確保、及び生産年齢人口の減少の中で必要な人材の量の確保を同時に進める必要がある。

 

(新しい地域包括支援体制において求められる人材像)

新しい地域包括支援体制においては、限られた人的資源によって、複合化・困難化したニーズに対して効果的・効率的に支援を提供するため、

 

①要援護者やその世帯が抱える複合的な課題に対して、切れ目ない包括的な支援が一貫して行われるよう、支援内容のマネジメントを行うこと、

②複合化・困難化した課題に対し、個別分野ごとに異なる者がサービスを提供することが困難な場合もあるため、地域の実情に応じて、分野横断的に福祉サービスを提供できること、

が求められる。

 

このような新しい地域包括支援体制を担う者としては、

複合的な課題に対する適切なアセスメントと、様々な支援のコーディネートや助言を行い、様々な社会資源を活用して総合的な支援プランを策定することができる人材

②福祉サービスの提供の担い手として、特定の分野に関する専門性のみならず福祉サービス全般についての一定の基本的な知見・技能を有する人材が求められる。

 

また、コーディネート人材を育成することで、例えば、以下の事例のような支援が期待される。

軽度の認知症が見られる80代の老親が、精神疾患を患い無職で引きこもっている50代の子と同居している世帯に対して、世帯全体のニーズに対応した総合的な支援を調整する。

 

例えば、息子の精神疾患について、コーディネーターが精神保健福祉センター、障害者相談支援事業所等と連携し、自立支援医療による継続した医療を受診できる環境整備を図り、症状が安定した後に、就労継続支援事業による就労・社会参加につなげるとともに、母親については、地域包括支援センターと連携して介護予防・日常生活支援総合事業による通いの場につなぎつつ、見守りや配食などの生活支援を開始するなど、包括的な支援を実施する。また、民生委員などと相談して地域での見守り支援につなげる。

 

(求められる人材の育成・確保の方向性)

こうした人材を育成・確保するには、まず福祉人材の総量自体をできる限り確保することが必要となる。

 

生産年齢人口は減少局面にあり、経済状況の好転に伴う他産業への人材流出の懸念もある中で、必要な人材を確保するためには、まずは、若者、就業していない女性、中高年齢者など、多様な人材層の福祉労働市場への参入を促進する必要がある。そのため、福祉分野への就労を希望する者への就労支援体制の強化や未経験者を含む多様な人材を福祉人材として養成することが必要となる。

 

また、人材の福祉労働市場内での定着促進を図るための多様なキャリアパスの確立や、福祉労働市場内における人材の移動を促すため、高齢、児童、障害などの福祉分野における共通基盤の整備や、特定の分野に止まらず他の福祉分野の専門性を容易に身につけることができる環境の整備が必要となる。

 

さらに、一度、福祉労働市場を退出した人材を再度福祉労働市場内に誘導し、活用することで、広義の福祉労働市場内での人材の活用を進めることも重要である。

 

また、限られた人材をより有効に活用するためには、意欲・能力の異なる多様な人材層ごとの機能・役割、人材像及び量的な比重などのあり方を明らかにし、機能分化を進めていく必要がある。

 

新しい地域包括支援体制を担う人材となるべく努力をする者に対する社会的な評価・社会的な認知度を高めていくことも必要である。

皆が皆、新しい地域包括支援体制を担う人材としての技能を有することにはならないかもしれないが、そのような人材となるべく努力する者を応援していくことが将来的な人材の確保にもつながるであろう。

 

(中長期的な検討課題)

現在の福祉サービスを担う人材は、支援対象者の類型ごとのサービスに対応する形で、各分野の専門性を有する人材が育成されてきた。一方で、新たな地域包括支援体制の基盤となる人材には、分野横断的な知識、専門性を有することが求められるのであり、こうした人材を育成・確保するためには、分野横断的な資格のあり方も含めた検討が必要となる。

 

こうした分野横断的な資格のあり方としては、例えば、現在ある資格を基礎に総合的な資格を創設するといったことも考えられるが、

①どのような専門性を組み合わせ、資格化する必要があるのか、

②単に複数の資格を統合するのか、福祉分野に共通する専門性を資格化するのか(その場合、共通の専門性とはどのようなものか、共通資格と他の資格との接続のあり方をどう考えるか)等

について、関係者のニーズ等もよく踏まえた上で整理し、十分な検討を加える必要があるため、まずは、

福祉分野全般にわたる基礎的な知識を有する人材の育成や、複数分野の専門性を容易に身につけることができる環境の整備により、様々な分野の知識、専門性を持つ人材の育成を進めつつ、分野横断的な資格のあり方について、中長期的に検討を進めて行くことが必要と考えられる。

 

(2)新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保のための具体的方策

 

(人材の育成・確保に向けた具体的方策)

福祉人材の育成・確保については、分野ごとに取組が進められてきたが、それらの取組の考え方や状況を踏まえつつ、(1)で述べたように、分野横断的な視点から、福祉分野の中での人材の移動を円滑にし、汎用性の高い多様な人材の育成を進めるという基本的な考え方に立ち、具体的な人材の育成・確保の検討・取組が進められる必要がある。

 

その際には、社会福祉法に基づく福祉人材確保指針などにおいてこうした考え方を示しつつ、以下のような6つの方策について、可能な取組から具体化することが必要と考えられる。

なお、新しい地域包括支援体制を担う人材のうち、コーディネート人材の育成・確保については、主に以下の①から③までが、サービスの提供を担う人材の育成・確保については、主に②から⑥までが、それぞれ対応するものである。

 

  包括的な相談支援システム構築のモデル的な実施等

コーディネート人材を育成・確保するため、コーディネート人材の配置等により包括的な相談支援システムの構築にモデル的に取り組む自治体を支援するとともに、地域の実情に応じた適切な手法やノウハウの分析、横展開等を進める。

 

また、専門的知識及び技術をもって、福祉に関する相談に応じ、助言、指導、関係者との連絡・調整その他の援助を行う者として位置づけられている社会福祉士については、複合的な課題を抱える者の支援においてその知識・技能を発揮することが期待されることから、新しい地域包括支援体制におけるコーディネート人材しての活用を含め、そのあり方や機能を明確化する。

 

②福祉分野横断的な基礎的知識の研修

様々な分野にわたる知識や技能は、複合的な課題に対するアセスメントや、様々な支援のコーディネート、様々な福祉サービスの一体的提供に資するため、保育・障害・介護など、様々な福祉分野の共通的な基礎的知識を修得するための研修等の創設などの方策を講じる。

 

③福祉人材の多様なキャリア形成支援・福祉労働市場内での人材の移動促進

福祉人材の多様なキャリア形成を支援するとともに、福祉労働市場内での人材の移動を促進するため、福祉資格保有者が他資格を取得する際の試験科目の免除や、複数資格の取得を容易にするための環境整備を図る。また、中核的な役割を果たすべき人材である介護福祉士の養成促進や、社会的養護において様々な課題を抱えた児童等の養育に対応できる人材の育成を促進する。

 

④潜在有資格者の円滑な再就業の促進

福祉労働市場から一旦退出した人材の活用を促進するため、離職した介護福祉士の情報の把握や求職者になる前からの情報提供や円滑な復職(職場見学等の実施)のための環境整備、潜在保育士に対する保育料の補助等による円滑な再就業に向けた支援を検討する。

 

⑤介護人材の機能分化の推進

限られた人材を有効に活用するため、介護人材を一律に捉え、意欲・能力の異なる人材層の違いを問わず、一様に量的・質的な確保を目指してきたこれまでの考え方を転換し多様な人材層を類型化した上で、機能分化を進めるとともに、中核人材としての介護福祉士のマネジメント能力や他職種との連携能力の向上を図る。

 

⑥多様な人材層からの参入促進

資格を有しない者を含めた多様な人材層からの参入を促進するため、業務委託によるサテライト展開の推進等により、福祉人材センターの機能強化を図るとともに、未経験者を含むすそ野の拡大のため、初任者向けの入門的な研修の創設等を図る。

 

また、多様な人材層の一部として、地域住民が参入しやすい環境を整備することにより、例えば、時間に余裕のある住民が、気軽にサービス提供の担い手として参加することや、要援護者・世帯の早期把握・見守りを、地域全体で行うための新たなネットワークの形成につながることなどが期待される。

 

このような取組が、福祉サービスを総合的に提供する拠点が共生型のまちづくりの中心として位置付けられることと相まって、新たな「まちづくり」に住民が主体的に関わりを持つモデルを創出することが期待される。

 

5.今後の進め方

 

誰もが支え合う地域を全国的に構築していくためには、関係者が連携し、継続的に取り組むことで、着実に支援の輪を拡げていくことが必要である。

このため、本ビジョンをもとに、工程表を作成し、省内外において横断的な推進体制を構築するなど、総合的に施策を推進する。


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