5/5 施設全体で一人の利用者のためにチーム編成

増田 信吾さん(2015.05
介護職員 東京都・有料老人ホーム勤務
(聞き手・本間清文)
※本文は個人情報保護の観点から事実とは異なる箇所があります。

施設全体で一人の利用者のためにチーム編成

シゲさんの対応について、介護職以外のスタッフの応援を要請する話を施設長がした時、正直な所、僕は戸惑いました。介護スタッフ以外のスタッフは通常、17時半に終業の勤務形態です。もちろん、介護なども普段はやったこともありません。その彼らが通常業務が終わった後、21時頃まで残業し、シゲさんたった一人のために話し相手になってくれるといいます。

介護の仕事は自分達の領域という認識だったので、その一部を他の職種の人もやるということがピンと来ませんでした。

それに、反発も起きるかなとも懸念しました。しかし、それもなく、全館挙げてシゲさんの拘束に対するシフトの見直しが始まったのです。

その後、ある夜勤の際に、僕が施設管内を歩いていると、まさにそうした光景が目に映りました。総務担当のKさんがシゲさんと一緒にソファに腰掛け話し込んでいるのです。
先にも述べたようにKさん達、介護以外のスタッフの退勤時間は17時30分です。それが21時まで居残り、シゲさんの対応をしてくれています。

マンツーマンの話し相手がいるおかげでシゲさんは不安から歩きだすこともなく、落ち着いて過ごされています。お陰で僕達、夜勤の介護スタッフも心に余裕を持って、他の利用者への対応や介護業務にあたることができ、ありがたいなあと思いました。

 そんなふうにマンツーマン体制を敷く一方で、この間、徹底的なシゲさんに関する情報収集と課題の分析がなされました。例えば、次のような観点から職員達が総出でシゲさんの情報を収集し、課題や対応策を分析していきました。

<課題分析の視点の例>
・シゲさんが、そもそも、なぜ転倒の危険性を顧みず、歩き出そうとされるのか。
・歩き出すのは、どういう状況下であるか。
・普段、「車椅子を足でこぎながら自走」という移動方法を採っているシゲさんが、その方法を中止し、「立ち上がって歩行」という移動方法に変えなければならない要因はどこにあるのか。
・使用している車椅子はどのように影響しているか
・シゲさん本人の要因
・施設内の環境や物品の配置場所、動線の問題
・夜間の熟睡につながるフットマッサージやBGM、カーテンの開閉状況
・薬の調整などなど…。

ありとあらゆる面からのシゲさんへの接し方に対する見直し案が職員達から出されました。そして、一つひとつ、虱潰(しらみつぶし)しに解決案を講じてゆきました。その結果、シゲさんを拘束しなくても過ごしていただける介護が提供できるようになったのです。

約一ヶ月間、ずっと残業体制を敷いてくれた、介護以外のスタッフ達の協力がなくてもシゲさんの安全を守れるようになったのです。


こうして結果的には一ヶ月程度で介護以外のスタッフの特別勤務体制は終了しました。拘束されることなく、お陰でシゲさんは拘束されることなく、今までどおり自由、気ままに施設の中を移動できる状態を守れました。シゲさんにとっても僕達にとってもよかったと思います。